修行の日々

春から秋にかけての何処かで、アフガニスタン周辺に行こうと思っている。なぜ「周辺」かと言うと、旅行に行く目的の中で最大のものが、「国境越え」だからである。僕の旅行は一つ国境を越えに行く事と同義と言っても過言では無い。

戦火止んだばかりのクロアチアユーゴスラビア国境(ティバツの国境はもう普通に通れるのだろうか?)、ひたすら時間を潰したガイアナスリナム国境、標高4500mで途方に暮れたボリビア−チリ国境など、僕は様々な国境を経験し、その一つ一つを国境の係員の顔まで含めて昨日の様に鮮明に思い出せる。

なので、アフガニスタンに行くにも国境をどこかで越えたいのだが、越えるからにはアフガニスタン以外の国に行かないと国境は越えられない。アフガニスタンは沢山の国と国境を接している為、どこの国に行くのかは迷い所である。現在有力説は、イランからヘラートに入り、比較的安全な北西部を一周してタジキスタンに抜けるか、或いはそのままカブールまで出て、パキスタンに抜けるかの2ルートである。

時間が無ければ前者かと思っているのだが、時間が有れば後者にトライしたいと思っている。なぜなら、僕はインド・パキスタンヒンドゥー文化圏に足を踏み入れた事は無いからである。バックパッカーとしては極めてあるまじき状態なのは間違いない。僕が、海外の安宿で自分の事をバックパッカーだと自己紹介する事が余り多くないのは、一つにインドに行ったことが無いので、バックパッカーならインドは基本だろうとばかりに、インド話に引きずり込まれて化けの皮が剥がれるのが嫌だからである。

という訳でレッツ ジャンプ イントゥ ヒンドゥー文化圏!と変に盛り上がっているのだが、一つ問題がある。僕の脆弱なる胃腸である。僕がスーパスキニーな体型を維持しているのも、ひとえに僕の胃腸がバックパッカーとしては極めてお粗末な代物だからで、ラーメンですら最近重くて消化が困難な状況だ。ましてやカレーは強敵で、うんと若い頃はココイチでガツガツ食べる事も可能であったが、カレー文化に乏しい大阪で3年の長きに渡り胃腸を甘やかしていたら、カレーを食べると、強烈な胃もたれと肌荒れに悩まされる体になってしまった。

インドにカレー以外の食べ物がある事を前提には旅は出来ない。毎日カレーを食べて顔が黄色くなることを覚悟しなければ、インドには行ってはならないだろう。

僕には変な流儀が有って、その一つが、旅行にはなるべく女性にお付き合い頂くというものである。理由は、一人旅や男同士というのは、お互いの背中を守る者が無きことで自由度が下がったり、修復不能な喧嘩になったりでトラブルの元だからである。女性だと適度に気を使うので割と喧嘩せずに旅行できる上に、コミュニケーション能力に優れる場合が多いので、現地の人たちに馴染むのが早くなるのがいい。だが、今回は場所が場所である。昨年、パキスタンのクエッタからカンダハールを目指した尾道の日本人教師2名が亡くなった。日本ではその行為に非難の大合唱が起きたが、僕はその旅行自体に全く異議は唱えない。ただし、それはアフガンに何度も行った事のあるという男性教師が一人で行き、一人で死んだという場合である。あのケースでは女性教師と一緒であった。女性教師の方は、男性教師に誘われなければ、あの様な場所に自ら訪れる事は無かったと思うと、誘った男性教師側の責任は免れないと思う。少なくとも、アフガンがどういう所か知らず、また想像も出来ない人を伴うのに、数あるアフガン入国ルートの中で、近年最も危険とされているルートを選んだのは、愚かであると非難されてしかるべきと思われる。
という訳で、素人女性(?)を誘うのはやや気が引けるがゆえに、現在5年ぶりの男二人旅行というのが今かなり現実味を増している。正確に言うと男女というジェンダーの別というよりは、辺境経験の有無に拠るのだが、自分の周りでは、かなり旅行経験豊富な女性でもイスラム地域や過去紛争が起きた地域は未経験な場合が多く、結局この様な地域で自分の身は自分で守れる相手となると、男性になるのである。加えて、残念ながら僕の素手での戦闘力は極めて低いと思われるので、賊が出た時に女性を守りつつ切り抜けるのは不可能と思われる。手練れの男性で有れば、賊に追われた時に、

  • 「このままでは全滅だ!分かれよう!」
  • 「では、生きていればカブールのヒンドゥークシ・ゲストハウスで落ち合おう!」

とか映画の一シーンの様に賊を幻惑しつつ、お互いの自己責任の世界で戦う事が可能である。
・・ここまで引っ張ったが、勿論これは冗談である。
さて、今回旅行に付き合ってくれる可能性のある友達だが、彼とは旅行はした事が無いが、それなりに手練れ風である。もしかしたら、旅行中にむしろ僕が食べ物のせいで足手まといになりかねない風情だ。僕は武士道を深く理解している積もりなので、自分が足手まといになるなら、冬山で自分の始末を付ける位の覚悟はある。しかし、それがカレーを受け付けないからインドで腹を切るなんて事になるのは、なるべく避けたい所である。

そういう風に妄想が広がってきたので、筋トレと称して、これからカレーを週一ペースで食べて、免疫力を高めておく訓練をする事にした。これだけ食い続ければ、きっと立派なインド人になれるだろう。

今日はその記念すべき第一弾である。まずは欧州風のまろやかなカレーから試し、徐々にインド度を上げていくべきと思われたので、近隣のラディソン都ホテルのロビーカフェにてカレーを注文することとした。

結果としては、それから12時間経つ今でも胃もたれしている。現実は厳しい。ちなみにお味の方は、イマイチであった。写真も何枚も撮ったが、ちっとも美味しそうに撮れてない。まずいものはまずく写るのか。個別に行くと肉が硬い。これは肉味のゴムと言うべきであろう。カレーはちょっと小麦粉小麦粉しすぎている。ご飯は角が立ってない。これならバルチックカレーの方が旨いかもしれない。

思い返してみると、いまいち美味しい、絶品カレーというものには、まだ巡り合っていない気がする。大阪のHEPナビオにある、ブルーノはそこそこ美味しかったが、東京ではまだ食べると恍惚となるレベルのカレーは食べてない。僕がカレーを食べなくなったのは、美味しいカレーを食べてないからの様に思われるので、次回は美味しいと評判の店にトライしてみるべきだろう。白金に住んでいた頃に気にはなっていたが、ついぞ行かなかった北里通りの薬膳カレーなぞいいかも知れない。ここは美味しいと評判だから、僕のカレー観をくつがえしてくれるかも知れない。

しかし、問題は今時点でも悲鳴を上げている胃腸である。とりあえず、この状態では食べられるのはうどん位なので、うどんを作ってみた。うどんは乾麺に限るので、讃岐は石丸製麺謹製の乾麺に、白だし・・と思ったら家に白だしが切れていたので、急遽間に合わせのヤマサの昆布つゆを合わせた。やや不本意ながら関東風である。具には、冷蔵庫に有ったものを有り合わせでお揚げに鰹節、かまぼこと、ネギすら入れないモノノフぶりである。途中冷蔵庫の奥に見てはならぬものを幾つか見つけてしまったので、こいつは処分した。変な所で男の子なんだから、とかつて同居人に非難されたのを思い出す。

:W500

写真の時点で既に都ホテルのカレーを上回っている気がする。食べてみても、明らかにカレーより旨かった。値段は4分の1以下なのだが。唯一足らざるはネギである。うどんとネギは離してはならぬ。

この結果は、カレーよりうどんの方が好きだという事でなく、とりあえず都ホテルより僕のやる気の方が勝ったという事にしておきたい。

あんまり都ホテルを批判しても可哀想なので一つ褒めておこう。なかなか内装のテイストは好みである。品があって、モダンでかつ日本的なテイストを失っていない。この微妙な線をなぜ日本ローカルなホテルが出せないのか謎である。ここ都ホテルも、ラディソンの名前が入って、リノベートされてからぐっと良くなって今に至っている。

Miyako Hotel Shirokane

ロビーカフェの高い天井を撮ったものである。

さて、本題に戻るが、山に登る為に高地トレーニングをするのと同様に、インドに行くのにカレートレーニングをする。なにやらダメな人っぽくていい。刺激物を食べ続けると胃腸が丈夫になるのかという極めて実験的な日々である。とりあえずしばらくは修行を続ける積もりである。