ソフトランディング トゥ アフリカ

 それにしても、エミレーツ航空は素晴らしい。食事が普通に食べれる。設備も良い。特にソウル→ドバイのボーイング777は特筆に価する。オンデマンドの映画ライブラリは、長距離フライトの無聊を慰めるに十分である。IT業界の現状からすれば、ビデオ・オン・デマンドとかストリーミング配信なんて当たり前の話だが、これまで飛行機はエアバス340の様に、映画は一斉配信というのが多かった。それが、見たいときに見れて、かつ「今月の映画」とかじゃなく、ライブラリになっていて日本語コンテンツも豊富というのは素晴らしく使い勝手が良い。シートピッチも余裕があるし、歯ブラシも靴下もあらかじめ配布されて、快適なナイトフライトである。あと、細かい点ながら、エコノミークラスでも2席に1つはコンセントが付いていて、ラップトップをバッテリ気にせずに使えるのも気が利いている。

 食事についても、米系の何とも言えない心まで寒くなる貧しい味と比べると天と地、いや「北の国から」と「イカの塩辛」、「ベルサイユのバラ」と「Lサイズの腹」位違う(なんのこっちゃ)。僕の知るドバイは、砂漠で地味乏しく、地産のものの無い国で、決してご飯は美味しくないが、なぜかエミレーツ航空の出す飯はレベルが高い。前乗ったときはここまで旨く無かった気がするので、きっとここ数年で地道に改善を試みたのだろう。絶えざる開発を行うセブンイレブンの弁当が明らかに他のコンビニと比べて美味しい様に、まともな企業をもってすれば、味も投下資源と比例して改善するものなのである。

 また、ドバイはもともと然程大きな都市では無かったため、住民の80%が外人である。見ていると、主に東欧からと思しき白人から、アバヤを着たアラブ人、タイ人、黒人、中国人に巨大なインド・パキスタン人口まで、六本木なぞ目じゃない位、バラエティに富んでいる。エミレーツの乗客もそんな感じで、ソウル路線はさすがにオリエンタルが多かったが、ロシア人・アラブ人も多かった。ドバイで乗り換えてガーナのアクラを目指すと、少しオリエンタルが減って、黒人が増えたかなという感じであったが、依然として独特の無国籍さが機内を覆っていた。アメリカもブラジルもフランスも多民族国家だが、既に出来上がったアメリカ文化・ブラジル文化・フランス文化がそのベースにある。ドバイの無国籍・他民族っぷりはそれとは明確に違い、ドバイにもドバイ文化ってのは有るのだろうが、それはむしろアラブ人に限られている感じで、他の外国人はそれぞれのナショナリティーの匂いを濃厚にさせていて、それがかえって無国籍感を形成している。これはこれで、極めて近未来的で面白いと思う。

 行き先のガーナは発展途上国を絵に描いた様な国だが、キャリアが快適なお陰で到着まで快適な時間であった。これがビーマン・バングラディシュ航空あたりだと、乗った瞬間から異国というか、例の如く遅延して、乗る前から異国という感じなのだが、どちらもそれなりの味がある。快適なキャリアでハードシップな目的地、或いはキャリアと目的地が両方ハードシップというのは、共にギャップが大きいという点でハードランディングかも知れない。キャリアが、日本と目的地のその中間くらいの洗練度合いだとソフトランディングっぽくなるのだが。という訳で、今回日本とアクラの格差をソフトランディング出来る、中進国的なキャリア大賞は、勝手にタイ航空と、ブラジルのTAM航空、及びアエロフロートを選定することとする。まことに喜ばしい。

 さて、ガーナはアクラに着くと、まず行ったのは、出発ゲートでの航空券購入である。今回のエアチケットはアクラ単純往復のため、遠くまで行くと陸路でまたアクラまで戻ってこないといけない。これは相当日程的には制約になるし、時刻表など無いアフリカの陸路移動に最後運命を託すのもハラハラするので、帰りの航空券を買うことにしたのだ。あらかじめ調べて見ると、OAGのフライトガイドには載っていないが(!!。そんなエアライン有るのを初めて知った)、Aeroなる航空会社がマリの首都バマコからアクラに週一便飛んでいる様である。Aeroは、ナイジェリアベースの近距離国際フライトの専門会社で、週一便、ラゴス→アクラ→アビジャンバマコアビジャン→アクラ→ラゴス、と細かくホップする往復便を飛ばしている。これをバマコで捕まえて、アクラで降りようという魂胆である。ちなみに、ウェブサイトまで有って、オンラインブッキングが出来るのだが、なんと支払いがカードで出来ず、ナイジェリア発行の電子マネーOnlyである。これではどうしようも無いので、アクラで現金購入と相成った。

New airline
[Canon Powershot S80/ 28mm F2.8]

  • これが噂のAeroのカウンター。コートジボアール・ガボン・ガーナ・リベリア・マリ・赤道ギニア・サントメ=プリンチペと、ナイジェリアの周辺国はかなりカバーしている。西アフリカにナイジェリア経済圏が有る証拠だ。

 そこそこ高い。短時間の片道フライトなのに450$の余である。ウェブサイトでは200$台の後半だったので、200$弱高いのだが、これは早期予約ディスカウントの有無の差であろう。ナイジェリアの電子マネーアカウントを持っている人は、ウェブ上での早期予約をお勧めする。係りの人に、14時のフライトで、9-11時にはチェックインをしろと言われたので、そんなにお前の会社のフライトスケジュールは、アキュレートなのか、と真顔で聞いたら、「Very Accurate」と更なる真顔で返された。ナイジェリアベースだからと言って、往時のビーマンのイメージでは、ちょいと失礼だったかも知れない。

 ホテルは、昨年と同じOsuという繁華街のGhalebon Hotelである。エアラインでハードランディングならホテルでソフトランディングということで、安宿でなくて中級クラスの宿とした。ギャレボンホテルとは名前は強そうだが、一泊朝食付き、エアコン・ホットシャワー有りで55$の普通の宿である。安くは無い。一人旅なら涙が出るが、グループならアフォーダブルだろう。これより前に、昨年とは違う宿の方がいいかなと思って、中級クラスの集まるOsuでフラフラと、Niagara Plusというホテルを当たってみたが、一部屋195$とか馬鹿げた値段がフロントに掲げられており、逝ってよし!という顔をすると、店員が「これは忘れてくれ。で、幾ら出せる?」と聞いてくるので、50$と言ったら、目が泳ぐばかりで交渉不成立となった。60-70$位が相場なのだろう。旅人にこういう扱いをする都市はたまにあるが、きっと景気が良いのであろう。アジアを旅する人なら、安宿なら5$とか150バーツとか、エアコンとホットシャワーならまぁ、15-20$かという相場観がある筈なので、55$とか70$とかというとトンでもない高額に思えるだろうが、これがアフリカの相場である。昨年泊まった安宿、Crown Princeでも、水シャワーで15-25$という感じであった。とはいえ、アフリカの人がアジアの人よりも豊かな暮らしをしているかというと、そうでも無いのだが・・。

 夜は、White Bellというローカル料理のレストランに行った。よほどエキゾチックな場所でない限り、世界の料理の基本コンポーネントは共通だ。主食と具たる動物性蛋白質、そして味付けの主体たるソースである。フランス料理なら、主食はパンで、具は牛だの鴨だので、ソースは小麦粉や油脂をベースとして野菜などで風味をつけたものを用いる。ベトナムのフォーガーなら、主食はコメの麺で、具は鶏肉で、ソースは鶏がらベースのスープそのものである。また、日本なら、ご飯に刺身に大豆ベースの醤油というのが典型例だろう。農作物の主食が存在するのは、その単位面積当たりのカロリー創出力によると思われる。同じ面積に牛を放牧して、その肉を食べるとなると、同じ面積から牛の食い扶持と人の食い扶持の2つを捻出することになる。主食を構成する農作物栽培であれば、人の食い扶持だけである。要は、農作物生産と比べて、骨とか脳とか、牛の人が食べれない部分を成長させるカロリーと、牛が動き回って消費するカロリー分だけ肉食は効率が悪いということである。よって、農耕民族と遊牧民族が争った場合、単位面積当たりの人口の差で、農耕民族が戦闘力を持ち、勝利してきた可能性が高い。そして、勝ち残ったのが農耕民族であるからこそ、世界の大抵の料理は、主食たる農作物で主たるカロリーを摂る、農耕民族の料理になっているのだろう。これは、ステップや半砂漠など、農業に適さない土地になると、トゥアレグ匈奴など、遊牧民族が力を増した歴史からも推察できると思われる。

 一方で、モンゴル民族の様に農耕民族を蹂躙した遊牧民族もかつて有った。ただ、これについては、単純に馬の戦闘能力によるものと僕は思っている。田畑やら家やら道路やらで過密な農耕民族の土地よりも、広大な草原では、遊牧民族のネイチャーも相俟って、より多くの馬を生産できたのだろう。そして、鉄砲以前の時代までは、この馬の戦闘力の優越によって、一部の遊牧民族が覇を唱えることが出来たのだろう。

 さて、物凄い脱線をしたが、ここガーナの主食はというと、第一には実はコメである。アジア以外はパン、という日本人の先入観は、欧米のみが海外という昔の外国観から生まれており、アフリカでも或いは南米でも、かなり幅広くコメは主食として食べられている。ここガーナで、コメの次あたりによく食べられているのは、フーフーという、ヤムかトウモロコシの粉をこねたものである。フーフーには、煮込んだ肉か魚が乗せられて、スープをかけて食べる。いわゆる「ぶっかけごはん」だ。正確に言うなら、ぶっかけフーフーだが、これはガーナを長く旅するなら付き合わなくてはいけないものの一つである。味は好みなので何とも言えないが、僕は食べ慣れない主食は苦手としていて、まずくは無いのだが、なるべくならコメとのお付き合いを優先している。

 長々と書いたが、要は僕はフーフーが得意ではないので、White Bellでは、コメを食べたと、そういうことが言いたかったのである。話が遊牧民で恐縮である。

Ghana cuisine
[NIKON D80/Nikkor 18-200mm F3.5-5.6]

  • 魚の下に潜んでいる丸い巨大な塊がフーフー。東アフリカで、トウモロコシ原料であれば、ウガリと呼ばれている。ちょっと日本人が手を出しにくい外観をしているかもしれない。しかし、魚の臭みを気を配る民族が世界にそれ程多くないのはどうしてだろうか−?