カメラメーカーの経営

 D700を予約して、多額のお布施をニコン様にすることが決まったので、ふとカメラメーカーの経営について、思う所があった。別に大した話では無いのだが、カメラメーカーってのは、自社ボディには他のカメラメーカーのレンズは付かない、レンズシステムという閉じたバリューチェインの後工程を持っているにも関わらず、安くプリンタ売ってトナーで儲けたり、タダで携帯配って通話料で儲ける、みたいな行動経済学における近視眼バイアスを利用した価格体系が露骨には見られない。見かけ上はカメラはカメラ、レンズはレンズでそれぞれ儲けが出る価格設定になっていると感じられる。これが正しいとして、なぜ近視眼バイアスが出てこないかと言えば、

  • キットレンズ付けっぱなしの人が多く、皆レンズを余り買っていないから、レンズで儲けられない
  • シグマやトキナー等のレンズのサードパーティが有り、レンズの価格を上げて回収することが出来ない

位が理由の様に思う。もし、後者であれば、サードパーティがあるゆえに、安いレンズを買えている訳だが、サードパーティが無くなれば、レンズがバカ高い割にカメラがタダになる時代が来るのかもしれない。
 また、レンズシステムは若干のネットワーク外部性を帯びる。利用者が多いシステムにおいては、レンズの種類も豊富になって更に利用者の便益が向上する一方、例えばSONYのαレンズは同じ様な性能なレンズを比べると他社より価格は高く、シェアの小さいシステムのコストは高くつく。この点でCanonと同等か、あるいは累計ではむしろ高い位のシェアを持つNIKONの現行レンズのラインアップが高いか安いか古いかで真ん中が無く、結構しょぼいのは謎である。売れないレンズはディスコンにした結果だろうが、レンズは食品の様に在庫を持っても腐るものでは無いし、在庫を賄う金利も日本では安い。また、近年は旧来型の見込み生産から、IT技術の発達に伴って、より正確な需要予測とぐっとリーンなサプライチェインによる生産ロスの低下が顕著である。また、前稿にも軽く触れたが、生産技術も長足の進歩を遂げており、セル型生産方式、混流ライン、多能工化等々、多品種少量生産に対応できる体制が整ってきている。売れない商品をディスコンにして選択と集中を進めるのが20世紀型の生産性向上のキーだとすると、21世紀の今はロングテールな消費に対して如何にコスト安く多様な商品をロスなくデリバリーできるかが、販売量から生産までの全体最適を図る為のキーになっている。Canonは生産技術面でもトヨタ式生産方式の優等生として定評がある会社だが、NIKONがどうだかは僕は知らない。ただ、生産技術が相対的に低いがゆえに、多様なレンズラインアップを持てず、それによって入り口のシステムとしてのカメラの魅力度を落として、いまいちシェアを拡大できていない、という可能性は結構あると思う。
 あとは言うまでもないが、レンズシステムのあるカメラという商品は、システム変更に伴う取引費用が極めて高く、市場が不完全になりがちである。その意味で、この不完全市場にオープン規格を作ってみたフォーサーズの失敗は明らかだ。フォーサーズというのはオリンパスが主導するレンズシステムで、カメラメーカーをオープンにしているのが特徴だ。これによって、多様なメーカーを引き込もうというのだ算段なのだが、実際にはオリンパスPanasonicしかカメラを出していない。
 色々原因はあるだろうが、一つにはフォーサーズ陣営の中でのカメラメーカーのスイッチは容易なのに、フォーサーズと他の規格とのスイッチには他と同様の取引費用がかかるというのが理由としてあるだろう。フォーサーズは、自前のレンズシステムを持たずに一眼レフ市場に参入できるという点で、メーカーの参入障壁を下げた積もりだったが、フォーサーズ間ではユーザーの囲い込みが出来ないという点で、メーカーにとってこの市場の魅力度を逆に下げた可能性がある。また、フォーサーズレンズは大半がオリンパス製であり、賛同カメラメーカーが増えるとオリンパスのレンズが売れる構造にある。Panasonicがカメラのみならず、Leicaブランドでフォーサーズレンズを出したり、SIGMAが頑なにレンズはフォーサーズに出しても、カメラは自社マウントを守るのも、要はレンズは自社製品を売らないとカメラだけではいまいち儲からない、という事だろうか。そう考えると、議論は最初に戻って、実はカメラは原価比安くて儲からず、レンズは高くて儲かる、という、近視眼バイアスが実は少しは働いた市場なのかもしれない。

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[NIKON D80 /Nikkor 50mm F1.4]