ALDILA NV Pro 105

 アイアンが軽すぎる。アイアンってのはシャフトの重さでほぼ総重量が決まるのだが、178cm・57kgと超非力、かつスポーツ音痴の僕は、ダイナミックゴールドという、プロも使う130g級の重いスチールシャフトでなくて、90g台の軽量スチールであるべきだと、自分で限界を設定してそれを使ってきた。具体的には、キャロウェイのLegacyというアイアンのGS95というシャフトである。クラブ全体では5番アイアンで400gだから、ベストセラーであるSRIスポーツのXXIOのスチールシャフトモデルよりちょこっと重い程度の平均的なモデルだ。
 このLegacyに変えた1年前から僕はフック(左曲がり)に悩まされていた。初心者の頃は例に漏れずスライス(右曲がり)だった。アイアンのスライスは腹は立つけど怪我は小さい。何故なら、アイアンのスライスはバックスピン量が多いので、サイドスピンが消されて曲がり幅が小さく、かつ高く上がるので林に突っ込んでも枝に当たって下に落ちるからである。一方のフックはロースピンなので球足が伸び、球が低いので枝に当たらずに林の奥深くにボールが転がることも多く、しばしばセカンドOBを食らって、ゴルフを止めたくなった。
 ずっとこれは自分のスイングの悪さだと思っていて、確かにその要素はあった。フックにびびって、スイングが小さくなり、小さくなるとバックスイングが浅くなる。浅い所から、深く振りかぶったのと同じ強さで振ると、余計に手首が返ってボールは左に飛び出す。このスイング縮こまりとフックのデフレスパイラルだったのである。途中、このメカニズムに気付き、十分に捻転をすることで修正を試みたが、問題はなぜ最初に左へ行き出したかである。結論的には、それはクラブのせいだった。初心者向けの掴まりの良いヘッド、ボールを弾いて掴まえる先調子のシャフト、あと最も効いたのは返りの良い細いグリップだろうか。手首が自転車のペダルならグリップはチェーンホイール(歯車)である。同じスピードで手首が返っても、歯車が小さいと余計にヘッドは回転する。つまり、ヘッドからグリップまで、あらゆる要素がフックを促進していた状況だった。
AF-502

  • EPON AF-502。フルキャビティだがポケキャビでは無い。ルックス的には難しめに分類されるのでは無かろうか。

 それに対して、ふとした思い立ちでオクで落札した、遠藤製作所というメーカーのEPON AF-502というアイアンを、この前ぶっつけ本番で使ってみたが、左曲がりが殆ど出ず、大変気に入った。ただ、シャフトがやはり軽量スチールなのである。重さは408g。僅かにLegacyより重いが、大差は無い。いま、ドライバーを310g、ブラッシー/スプーンを330gと徐々に重くしているから、軽量スチールシャフトが合わなくなった様だ。ヘッドスピードが伸びて47-48m/s台を常時出せる様になったのも一つの要因だと思う。どうにもアイアンだけトップのミスが出るので、練習を重ねていたが、ふとしたきっかけでダイナミックゴールドや、K's tourという重いシャフトを打ってみると、これによってトップのミスが減ることに気が付いた。軽いがゆえに手打ちになって、インパクトの時に手が浮いていたからだと思われる。どうやら、自分の非力幻想が成長を止めていた様だ。

  • ゴルフ始めた頃は、こんな数字が出る様になるとは思わなかった。レンジボールは大体5-10%位初速が落ちるので、打ち出し角とスピン量が適正であれば(それが難しいのだが)、実際は250-260ヤード飛んだ計算になる。

 それで重量スチールに移行しようかと考えたが、もう一つ考えるべき事象がある。僕がスキニーなだけに筋肉に鎧われていないことである。慣性モーメントが大きく、単なる重い鉄の棒である重量スチールを振り回して、ミスヒットをすると、軽量スチールとは比べものにならない衝撃が肘や手首に走った。その痛みや痺れを感じる度に、重量スチールでは体を痛めるかも、という思いが頭をよぎった。スポーツの上達を筋トレに頼らないのは僕の一つの小さな主義主張みたいなもんで、ゴルフもここまで体の使い方だけでヘッドスピードを伸ばしてきたが、こういう体へのダメージを防ぐには、体を鍛えないと如何ともしがたい。よって、そこは道具で解決することにした。単に、衝撃吸収力がスチールよりも高いカーボンで、出来るだけシャフトを重くしようという試みである。
 ただ、日本においては重量のあるアイアン用カーボンシャフトというのはえらい高価である。グラファイトデザイン社製のTourAD 115というシャフトが115gも有って知る限り最も重いが、これは何と1本2万円オーバーである。アイアンというのは6本セットがミニマムなので、シャフトだけで12万という西方浄土の彼方の値段である。次に重いのは、釣り具のダイワが社名変更して、更に格好悪くなったグローブライド(泣)のRODDIO I-10という105gのシャフトで、これも1.5万。ダイナミックゴールドは1本2,000円切っているから、ダイナミックゴールドで6本セットをフルにリシャフトした料金よりも、カーボンシャフト1本の方がまだ高いという恐るべき世界である。また、I-10を試打したことは何回かあるが(横浜のHANZ Golf、碑文谷のスパイグラス、あとはグローブライド(泣)の試打会などで打てる)、ダイナミックゴールドや、その弟分にあたるダイナミックゴールド・ハイローンチと比べて、性能にもの凄く大きな差は感じられなかった。衝撃吸収性の一点のみに10万円は高過ぎると感じた。
 それで、世界中のシャフトメーカーのウェブサイトを巡礼した挙げ句に、ALDILAというアメリカのシャフトメーカーがALDILA NV Pro 105というI-10と同じ105gのシャフトを出している事を知った。アメリカの通販サイトでは、一本3,500円である。ダイナミックゴールド2本分だが、法外とまでは言えない。手が届くでは無いか。ALDILAは日本ではマイナーな存在だが、米国では最もポピュラーなシャフトメーカーの一つであり、ロレーナ・オチョアとか、アンヘルカブレラ、あと昨年の全米プロでタイガーに競り勝ったY.E.ヤンとかが使っている。ドライバー用のALDILA VOODOOが最も日本で知られたシャフトだろう。
Aldila NV

  • コスメはグリーン。なかなか綺麗な色だと思うが、フォントはアメリカっぽい。

 このシャフトの情報を取ろうと、ブログなど広いウェブ上を調べ尽くしたが、日本語の情報では、同じくALDILAのVS Proto 100というシャフトを使っている人は居たが、このNV Pro 105というシャフトの情報は一切無かった。相当マイナーな様である。扱っている日本のお店は勿論無い。しかも、英語の情報も決して豊富とは言えなかった。米英でも、カーボンシャフトにアイアンをリシャフトする人は余り多くないのかもしれない。その数少ない情報を総合するに、どうやらダイナミックゴールドよりは打ちやすく、球も上がる様である。僕にはそれで十分だったので、ものは試しに輸入を試みた。合計200$ちょっと。Golf Coast Onlineというサイトで発注したが、発注から2週間で日本に渡ってきた。
 家に到着したシャフトを早速触ってみると、ピンピンに硬い。スチールみたいな緊張感があるシャフトである。重量カーボンは並のスチールよりも硬いのは知っていたが、ちょっと予想外に硬かった。あとシャフトやアイアンのヘッドは公差と呼ばれる製造上の重量誤差が数グラムあるが、6本買った内、最も軽いシャフトと重いシャフトの差が5g有った。大体シャフトの公差は±3gとされているので、ギリギリ許容範囲ではあるが、気分はよろしく無い。105gが標準スペックだが、大体103gが平均であった。260gのヘッドを前提にすれば、5番アイアンで大体412g前後に仕上がると思う。今のAF-502と大差は無いが、カーボンシャフトは15g重いスチールシャフトと大体同じとされるので、ダイナミックゴールド・ハイローンチや、日本シャフトの中で最も重いNSプロ1150GHと同じ位のフィーリングになる筈である。
Aldila NV #8
 あとはヘッドを何にするかである。こういう風に最初からシャフトとヘッドをカスタムで組み合わせる時は、市販品のアイアンをリシャフトすると、標準のシャフトが無駄になるので、ヘッドだけ売ってくれるメーカーのを使ってシャフトと組み合わせることが多い。上述の、この前手に入れたAF-502を作っている遠藤製作所は、ヘッドだけ売ってくれるメーカーの代表的な一社だ。遠藤製作所というのはマイナーなメーカーだが、ヘッドのOEMメーカーとしては世界最大手の筈で、ブリジストンもキャロウェイもナイキもヤマハも、ヘッドは遠藤製作所が作っていて、メーカーはシャフト挿してラベルエンジニアリングをしているだけである。近年では、タイガーがナイキで使っていたモデルが、遠藤製作所の製造だったことが判明し、ネット上ではえらい話題になった。今でもヤフオクを見ていると、遠藤製作所のクラブは、入札件数が70件とかの叩き合いになって、アイアンセットが10万を超えることがある。実は、まだ使用中のキャロウェイのLegacyも遠藤製作所のOEMなので、AF-502に変えても、実際作っている所は変わらないことになる。
 もともと、AF-502を落としてみたのは、ヘッドのスペックとルックスが絶妙だったからである。高慣性モーメント、低重心、短重心距離。ヒールめで打つ自分にはぴったしだったし、他のメーカーと比べて極端に重心距離が短いウッドを作るヤマハのドライバーとクリークを使っているから、繋がりも良い。大手メーカー製は、超簡単なモデル、簡単なモデル、難しいモデルという三分類しか無い感じで、なかなかこの3つが鼎立した「普通のモデル」がなかった。重心距離を短くする為には、ヘッドを小さくせねばならず、ヘッドが小さいモデルは当たりにくく難しそうに見えるので、それが嫌われたのと、ヘッドが小さいモデルは同時に薄くなる傾向があり、薄いモデルは慣性モーメントが小さくなるからである。僕は、ラフでもすぱっと打てそうなイメージが湧くので、ヘッドは小さいモデルが好きなのだが、こういう人は少数派らしい。そんな少数派対応のモデルの中では、もう一社、マスダゴルフという会社のVロッドというアイアンと、フォーティーンのTC-1000というアイアンもスペックは気に入ったが、ちょっとデザインと仕上げが気に入らなかった。それで、AF-502を選んだのだが、遠藤製作所にはAF-502以外にモデルは幾つかある。ものは試しと、さっくりヘッドを決めてしまう前に、自分が使っているLegacyにAF-502と、502より一つ難しいモデルのAF-302、及び一つ簡単なAF-701を打ち比べてみることにした。
 実際打ってみると、前使っていたLegacyは、AF-502とAF-701の間くらいの簡単さの様である。ヘッドの簡単さは、英語でforgivenessというが、僕のレベルでは左右の曲がりについては簡単なヘッドを使っても余りforgiveされた感じがしない。ただ、芯を外すと、シャープなヘッドは露骨に距離が落ちる。AF-502は、Legacyと比べると大分シャープなヘッドなので、Legacyでは芯を外してもボヨーンと飛んでいく所、AF-502では思ったより15ヤード位手前にポトリと落ちる。一番難しいAF-302は、もちろんシャープだが、世界が違う程難しくは無く、502の延長線にある感じを受けた。簡単なヘッドは、トップめの方が飛ぶ時があるが、302はトップすると全然飛ばず、この辺りはプロモデルっぽい。逆に、AF-701というのは、Legacyより更に簡単なヘッドで、どこに当たっても割とスコッと飛んでいく。こちらはXXIOや昔使ってたMACTECに近いノリかもしれない。302や502が打つ感じだとすると、701は運ぶ感じで、ちょっとインパクトがボヤけた感触である。
 普通の世界では、簡単か難しいかなら、簡単の方が良いに決まっている。ただ、ゴルフの世界では、簡単なヘッドは、どうにも自分の感覚とのインプット・アウトプットがうまく交信出来ていない感じがして、必ずしも手放しでは歓迎しかねる。難しいAF-502やその上の302を使っていると、ミスショットの時には、何をミスったのかが直ぐ判る。左肩が突っ込んだのか、コックが早くほどけたのか。それが、LegacyやAF-701だと、よーわからんのである。自分の感覚の鋭さ加減が、ヘッドの鋭敏さ具合と合っていないのだろう。
 ま、鋭さ加減を合わせるより、出来るだけ簡単なヘッドを使った方がスコアは伸びるだろうが、練習をまだ積むことを考えれば、今はある程度鋭敏なヘッドを使っておいた方が、長期的にスコアの伸び代が作れる気がする。後は302か502か。それが問題だ。そこが決まれば発注するだけだから、これで日本語情報としては初のALDILA NV Pro 105のレビュー・インプレッションが書けることになる。ほぼ間違いなく、ピンピンの硬いシャフトにビンビンに鋭敏なヘッドを組み合わせた結果、難しくさせすぎて失敗!というレビューになる事は予言しておく。しっかし、いつぞやこのブログが写真じゃなくてカメラブログと化していた時期が有ったが、すっかりゴルフよりゴルフギアに詳しくなってしまった。単に買い物が大好きというだけで、それをあらゆるジャンルに持ち込んでいるだけなのかもしれない。
Lagacy and Epon

  • 左がAF-502、右はLegacy。ソールの広さは簡単さの一つの指標だが、そこは互角。それなのにフルキャビの502は鋭敏で、ポケキャビのLegacyは鈍いクラブになる。