カリフォルニアロールとゴルフ

ゴルフの全英オープンは、いわゆるリンクスと呼ばれる茫漠たるゴルフ場で行われる。リンクスは、日本人の目からすると特殊なものに見える。ただ、知っての通りゴルフはあちらのリンクスが原点である。英国で育まれ、米国で大きく羽ばたいたスポーツだ。「日本人の目」は、ゴルフ全体からするとかなりローカルな感覚に違いない。この点について、生まれた時からゴルフと共にあり、世界中の評価の高いゴルフ場を回った事のある友人は、日本のゴルフ場は、やはり特異であると言っていた。

「日本人からすると、海外で見る日本庭園は、どこも何かおかしいでしょう。同様に、日本のゴルフ場を英米人が見たら、そう思うでしょうね。」

なるほど。ガーナの野口英世記念日本庭園は、サボテンが生えてて唖然としたからよく判る。言い換えるとすれば、日本のゴルフ場だけの経験でゴルフを語るのは、米国人がカリフォルニアロールだけを食べて寿司を語る様なものなのだろう。カリフォルニアロールも美味しいけど、それは本場の日本人からすれば、寿司じゃなくて"スゥシィ"であって、それで寿司のユニバースは語れないと言う事だ。
 言われてみれば、米ゴルフマガジン誌選定の世界のゴルフ場トップ100に、日本からランクインしてる廣野、東京、川奈、ときどき鳴尾といったゴルフ場は、みな英国人のチャールズ・H・アリソンが設計なり改造なり何らかの形で関与している。一方、日本国内では評価の高いゴルフ場は他にも数あれど、クラブ創設時から日本人だけで作られたゴルフ場は、世界トップ100に一つもランクインしていない。日本人設計家の代表格である井上誠一のコースのメンバーシップを保有する身として残念極まりない。日本人が作ると、知らず知らずに、GOLFじゃなくてGORUFUになってるのだと思われる。
 これに対し、ランクインしているゴルフ場は、みな古い歴史をもった格式あるゴルフ場だからポイントが高いのであって、設計は評価の要素の一部に過ぎない、という反論は有り得るだろう。しかし、お隣韓国から唯一ランクインしているナインブリッジズは2001年の開場とごく最近であり、他の国からも比較的新しいゴルフ場がぽつぽつとランクインしている例を挙げる事が出来る。これは、設計が素晴らしければ、新しいゴルフ場でもランクインしうる事を示す。そして、チャールズ・H・アリソン以降に出来た数多ある日本のゴルフ場には、(選定者の米国人・英国人からすれば)そこに目を見張るものは無いという事なのだろう。ただ、もう一度繰り返すが、この事実をもって、日本のゴルフ場、あるいはカリフォルニアロールがダメだと断じている訳ではない。どちらもローカルの人々にとっては、楽しめる存在だからである。言えるのはただ、それらは各々が属するユニバースの中で、かなり辺境に位置する特異なものだ、という事だけである。
そんな訳で僕は、ゴルフのユニバースを語るべく、9月のスコットランドへ旅だった。