ネット巨人二社の壮絶な相討ちと独禁法なる茶々

YAHOO!が「買い物革命、始動!」らしく、YAHOO!ショッピングを出店無料、売上ロイヤリティ無しとし、ヤフオクの出品料も0円とする事を発表した。業界トップの楽天を狙い撃ちにしてるのは明らかな施策である。ちなみに、楽天の出店料は月額5万円、売上ロイヤリティは2-4%であり、その他クレジットカードの決済手数料やアフィリエイトの利用料などを考慮すると、年商によってバラつきはあるが概ね8-10%を取られる様で、これを一般には「楽天税」と呼ぶ。それが、YAHOO!においては、クレジットカードの決済手数料とアフィリエイトとTポイントの利用料各1%は必須なので、5%強になるというのが今回の趣旨である。
これを受けて楽天の株価は当日▲11.7%の暴落、YAHOO!も減収懸念で▲6.5%下落した。株価的には完全に誰得状態の見事な相討ちである。それも、兵法の達人同士、技を出し切った美しい相討ちというより、これからお互い必死でうんこ投げ合いするんだろな的な勝者なき泥仕合を思わせる。関係者各位におかれましては、今のうちに秋の食材でお腹一杯にして頂いて、ぜひ泥仕合の原料を豊富に用意して頂きたい所である。ちなみにこの泥仕合YAHOO!も勝算無ければやらないと思うが、それは恐らくこっちは無料にして、別段の広告ならびに決済と物流の中抜きで稼ぐモデルという事なのだろう。そうなると、独占禁止法のいわゆる一般指定の6項、不当廉売に該当するかどうかが気になる所である。
公正取引委員会ウェブサイトの不当廉売のページを見ると、構成要件としては、

  1. 供給に要する費用を著しく下回る対価で継続的に安売りしているか
  2. 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるか
  3. 正当な理由があるか

の三つの面からとらえることができる。個別にみれば、1.は恐らく該当する事になるであろう。決済手数料と広告費用、ポイント費用だけで、自社の利用料は無料とする事は、システム構築やらオペレーションなど、供給に要する費用を付加しないという事だからである。2.は楽天は結構儲かっているので、事業活動を困難にさせる所まではなかなか行かないだろうが、当該公正取引委員会のウェブサイトでは、

例えば,有力な事業者が,他の事業者を排除する意図の下に,可変的性質を持つ費用を下回る価格で廉売を行い,その結果,急激に販売数量が増加し,当該市場において販売数量で首位に至るような場合には,個々の事業者の事業活動が現に困難になっているとまでは認められなくとも,「事業活動を困難にさせるおそれがある」に該当する。

とあり、急激にYAHOO!ショッピングが販売数量伸ばしてトップに立つ様だったら、ここに該当しうるという事になる。3.の正当な理由とは、言い訳すればOKとかそういう話でなく、賞味期限ギリギリの叩き売りとか、余った在庫の処分売りとかの限定的状況のみが該当する様なので、今回は正当な理由は無い。よって、この施策が結構上手く行ってしまうと、スロットが3つ揃って、じゃじゃーん、当たりー!となる「可能性はある」。
そんな訳で、ビジネスパースンにおける正しい本件の愉しみ方は、この独禁法絡みに関して、志田先生や狛先生あたりの独禁法村の有名どころの弁護士チームをどちらがどう確保するかを眺めつつ、実際ほんとに訴訟になったら、楽天サイドに全力で頑張って頂いて、「当該サービス以外での広告や決済などの収益を前提とした無料サービスは不当廉売に該当」みたいな、超長射程のトンデモ判決を引き出して頂き、ウェブサービス各社全体に波及して大激震、この豊葦原の瑞穂の国からアドウェア消滅の危機が訪れる、的な超展開を期待して野次馬する事なんじゃ無いでしょうか。法律と裁判の真の面白さと恐ろしさは、うっかりすると世界が決まってしまうのに、それを裁く人が必ずしもその問題についてプロでは無い事なのである。裁判官がネット通販に詳しい筈が無い事は容易に想像できようし、業界の内情とか慣習とか常識で無く、法律論ですっぱり切るから仕事になってるのである。
また、訴訟にならず、両社ビジネスであくまで勝負をしていく場合は、新陰流兵法における真剣の奥義の様に、敢えて踏み込んで相討ちに持っていく事で、踏み込みの差で相手の斬撃をずらすが如き真の達人の技が、積み上がったうんこの山から見出されるか、そちらに注目したい所である。それは結局は、ネットショッピングが決済や物流にバリューチェインを伸ばし、バーチャルとリアルの区分けがこれまで以上に薄まって、本件で一番困ったのは実はヤマトだった、みたいな話になるんでしょうね。