歯痛には抗ヒスタミン薬仮説

わたし喉が余り強く無いので、のど飴箱買いしてバカバカ、いやペロペロ舐めてたらいい年こいて虫歯だらけになったでござる。それで伝手を辿って歯科医にオフィス近隣の歯科を推薦して貰い、自由診療で1年がかりの口内大工事を行っているんだが、最終盤まで特に問題無く進行していた。それが、最終の型どりでーす、なんて先生が仰った直後、西新橋の邪悪な味の蕎麦屋さん「港屋」で脂分たっぷりのスープすすって、ゴマを噛んだ時に左上の4番がぐきっと行ってやな感じ。隣の3と5は抜髄済で、4も神経ギリギリとは言われていたが、これまでレジンの仮歯ながら、何ともなかったのにズキズキと痛み出す。
歯の痛みって余り経験したこと無かったんだけど、これが噛んだり温かいものを食べたりすると、脳天に突き抜ける痛みが走る。音を上げて次回予約の際に先生に左上4番がやばいんですが、と伝えてみたところ、

「セメントも問題無く入ってるし、これで温かい刺激で痛みが出る様だと抜髄するしかありません。」

とのこと。ここ両隣が抜髄済だけになるべくやりたく無いので、色々と調べてみた。歯痛なるものは、歯髄すなわち神経の所まで虫歯が進行したり細菌が入り込んだりして炎症を起こすものが典型的な様だが、今回は既に治療済みの歯であり、上述のぐきっと行った時に象牙質が割れて神経が露出したとしても、セメントで接着されているから、ものの数分で細菌が入り込んで炎症を起こし、それが痛みに繋がるという確率は低い様に思われる。他にどんな原因が考えられるかだが、痛みの原因は歯髄以外には、象牙質・歯周組織・歯肉・歯槽粘膜・咀嚼筋・神経障害・心因性と色々とある様だが、どれも細菌感染やら潰瘍の形成やらを要する為、突発的に歯が痛くなった原因には当たらない様な気がした。ますます疑問が深まって調べると、最近の学説では歯髄炎の原因は細胞でなく神経では無いか、という事になってる様だ。

 従来はムシ歯が深く進行して、そこに巣食うさまざまな菌が象牙細管を通して歯髄内に侵入し、歯髄に感染して、そこに炎症を起こすのだと考えられてきました。しかし、最近の学説では、歯髄炎を起こす主役は、細菌ではなくて、どうも“神経”のほうだと考えられ出しました。もちろん、これは神経の研究の成果の結果なのですが、歯髄の炎症には神経細胞に含まれている「神経ペプチド」というアミノ酸からなる一連の物質が作用する結果ではないかといわれ出したのです。
 神経ペプチドというのは、脳の中に広く存在し、ホルモン様な働きをするだけでなく、神経伝達物質として作用をするもので...これらは一般に血管拡張を引き起こし、毛細血管の透過性を亢進させる性質があるらしいのです。
 実は、ムシ歯菌の毒素とか冷水や熱いものの刺激が歯髄に伝わると、もちろん痛いわけですが、痛いだけでは済まなくて、刺激によって神経ペプチドが出現するのです。これがまず局所的に血管を拡張させ、血管の透過性を亢進させるわけです。つまり炎症が起こることになります。血管透過性が高まると血液成分が血管から外へ出て(炎症性滲出)、その結果間質圧が高まるわけです。なぜ間質圧が高まるかといえば、歯髄は硬い象牙質に囲まれているから、歯髄自体は腫れることができなくて、圧がこもってしまいます。
出典:たかはし歯科医院

なるほど。スギ花粉アレルギーに悩まされる半生を送ったわたしには、こちらの説明は大変判りやすい。何らかの刺激が加わると神経ペプチドが出て、血管拡張を引き起こし、歯の内圧が高まって痛むと。これは週末に酒を飲んだ際に激しく歯が痛んだこと、そして週明けに常温のコーヒーを飲んだらやはり歯が痛んだことで確信に変わった。アルコールもカフェインも血管拡張作用があるからだ。温かいもの食べると痛むのも、温かいと血管拡張するから整合的である。
先生に歯痛を訴えたら標準的措置としてロキソニンは処方されるだろうが、ロキソニンは痛みを緩和するもので、炎症を抑えるものでは無い。この炎症そのものを断てる方法は無いだろうか。論理的に考えれば、この神経ペプチドの作用を阻害すれば良さそうである。一般的な抗アレルギー剤の作用機序と同じ原理だ。現状を説明する仮説としては、ぐきっと行った時に歯髄が物理的刺激を受けて炎症を起こし、神経ペプチドが少しでも出て血管拡張すると、内圧が閾値を超えて痛みが出る状態になっており、前は問題無かった噛んだ圧力や温熱による刺激でも閾値を超えてしまう、というものである。この神経ペプチドの作用を一定期間阻害すれば、炎症が徐々に収まり、噛んだ圧力や温熱程度の刺激では閾値を超えない前の問題無い状態になって、抜髄しなくても済むという算段である。
歯髄炎に関連しているとされる神経ペプチドは、専門的に言えば、サブスタンスP(SP)とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と言われてるものが挙げられる。これらは検索してみると片頭痛を初めとした痛み全般の原因物質とされている様であり、更にそれに係る論文を見ていたら、痛みの研究そのものが、そもそもなぜどうやって痛むかも含めて、まだ解明途上のフロンティアの様に思えた。道理で歯髄炎の原因が何かというのにも新しい学説が出たりしてる状態で、定まっていない訳だ。とはいえベストエフォートとして、この学説に基づいた措置をするとして、後者のCGRPというもののの受容体拮抗薬は片頭痛の治療薬として何個か有るようだが、これの入手は自分が片頭痛持ちで無い以上手持ちは無く、ナラトリプタンという薬のゾロは3000円程度で個人輸入できるが副作用があり、また、このCGRPという物質そのものが炎症を起こす作用でなくて、逆の抗炎症作用をもつ可能性すらあるという論文が見つかるという、あやふやな状況の様なので、こちらは一旦後回しにした。
一方、前者のSPはと言えば、手持ちのスギ花粉症薬のクラリチンでも効きそうな勢いである。確かにクラリチンを毎日飲んでた春先は痛みを感じなかった。ツイッターやブログで歯痛という単語の時期的出現率を調べて、有意に春先が低ければクラリチンでも良さそうという仮説を持ち得るが、期間指定しての件数表示という機能は無いことが判って、話は振り出しに戻る。この、前者のSPなるものは、ヒスタミン、ロイコトリエンB4などを遊離させて、血管拡張や血管透過性亢進を起こす、という機序の様で、ヒスタミンとロイコトリエンB4というものの作用を阻害すれば良い筈だ。クラリチンヒスタミンの作用を阻害するが、ロイコトリエンB4には効かないようである。両方効くのはと調べると、アゼプチンという第二世代抗ヒスタミン薬が見事カバーしており、かつこれはエーザイからスカイナーALという名前でOTC薬として出ている。これは素晴らしい。麻布十番トモズにGOして、のど飴じゃなくてスカイナーALを箱買いだ。そんな訳で、歯痛を止める為に抗アレルギー薬を買ってきた。痛みとアレルギーは、人の認識としては全く違うものだが、作用機序としては双方とも炎症を経る点で似たような所がある。ちなみに薬剤師さん曰く、売れてない薬とのことだった。頑張れエーザイ

午前中にスカイナーAL飲んでみたけど、とりあえず今は熱々の紅茶をすすりながらも特に温熱刺激による痛み無く駄文を書けている。頑張れわたし。頑張れヒスタミン受容拮抗薬。

6/2追記:上記のまま痛みは引き、数日歩く振動が歯に響く不快感が残ったが、今はこの歯で噛んでも、熱いもの食べても、アルコール飲んでも全く大丈夫である。途中歯科に行った時、レジンの仮歯取ったら、冷水がえらいしみたので生活反応はあり、炎症で神経が死んだ訳でも無さそう。どうやら抜髄の危機は去った様だ。もし、薬理の研究をしている方が、このネットの片隅に来る様なことがあったら、是非細菌感染を原因としない歯髄炎にヒスタミン受容拮抗薬が本当に効くか、それとも単なる経時的な回復に過ぎなかったのか、検証して欲しいと思う。でも、このスカイナーALという薬は飲んだら眠くなって大変だった・・。クラリチンやアレグラ万歳だね、その点は。