あなたを便意から救うたった一つの方法

王都は指し示す

お腹の弱い半生だった。
子供の頃はそんな事感じた事なかったが、いつしかトイレが近くなった。だが、僕にも男の矜持がある。超人的な精神力により、事故に至ったのは一度もない。ほぼ事故というのが2回だけ。1度はジャカルタの都心で炭酸飲料が僕の腸を圧迫した結果、僕は路線バスのドアから射出されて、広い広い道路の中央分離帯の植え込みの陰に駆け込んだ。もう1度はブルキナファソからマリへの砂漠の旅路。運転手にフランス語でクソクソ叫んだ挙句に僕は、サハラ砂漠に滋養を供給することになった。
一方、日常を過ごす日本で事故の経験は無いが、余りにギリギリでのうっちゃりを続けた結果、腹痛は醒める事が分かっている悪夢の様になってきた。あと1分以内に決壊という所で、必ず開かずの扉が重々しく開くか、あるいはトイレそのものがビルの地下から、または通りすがりのカフェから、はたまたデパートのもう一つの上の階から出現し、僕はモンスターボールを投げる事が出来た。悪夢は醒めるのだ。最後にはモンスターボールを投げられる事が分かっているのに、なぜ僕はこんなにも脂汗を流して焦らないといけないのか。そんなメタなゲームの主人公の様な気分で、僕は都会を走り続けた。孤独なロードランナーだ。
だが、今はその悩みもかなり減った。もう、ロンリーロードランナーになる機会は余りない。なぜ減ったのか。僕は1年半前に王都バンコクと王の離宮ホアヒンを訪れ、そこで暴れる胃腸を治める秘法を学んだのだ。バンコクに行く前あたり、僕のお腹は史上最低だった。どれ位最低かと言うと、バンコクへの出発前に入念にトイレに行ったにも関わらず、乗ったトイレの無い京成スカイアクセス特急で我慢しきれずに途中下車する程度の最低さだった。僕はその頃、この最低さを改善させる為、ありとあらゆるお腹に良いとされる方法を試していた。あらゆる種類のヨーグルト、乳酸菌飲料、医師から処方された整腸剤、はたまた赤子用に買ったバイオガイアのロイテリ菌をひっそり飲んでみたり。炭酸飲料も冷たい飲み物も辛い食べ物も絶っていた。だが、僕のお腹は当時悪化するばかりだった。そして南国の食べ物、飲み物は細菌に満ちており、別の意味でお腹を下しやすい。僕は、南国に行く時、いつもマラリア予防でドキシサイクリンという抗生物質を使っていて、今回もこれを飲んだ。これを飲むと、お腹を下した時の薬をあらかじめ飲んでいる状態なので、経験的にマラリアに加えて細菌性の下痢も避けられる事を僕は知っていた。

コロンブスの勇気

なんとかバンコクに着いた後の、僕の懸念はバンコクからホアヒンまでの4時間のバスだった。このルートは何度か行っているが、ドライブインが途中に一つだけしかない。成田までの1時間が耐えられないのに、4時間を半分に割った2時間が耐えられるのか。僕は恐怖におびえながらバスに乗り込んだが、しかして、これが、特に何もなく耐えられたのだった。その後のホアヒンライフも快適だった。ホアヒンではトイレを遠く感じた。遥か遠く、黄金の新大陸にあるかの様だ。ホアヒンではトイレに至るのにコロンブスの勇気が必要だ。僕はサンタマリア号に揺られながら、何が自分の身体に起こったのだろう、何が日本と異なるのだろうと考えてみて、一つの仮説に行きついた。抗生物質である。
一般的にお腹については良いと悪いで捉えられている。

  • 一般論


きょうび、このフレームワークに則って、悪いお腹を直して良くする為に、善玉菌を増やしましょう、腸内フローラは全てを変えるんやーと、ありとあらゆる乳酸菌飲料や整腸剤が推奨されている。だが、このフレームワークは間違っていないだろうか。


善悪二元論でなく、中庸が良く、極端は両方悪い。フレームワークはこうじゃないのか。サンキュー、孔子。君が中庸という概念を編み出したので僕はこの思考に至っている。乳酸菌飲料とか整腸剤とかはお腹を良くするとは言われるものの、よく考えるとその作用は便秘を下痢方向に持っていくものだ。世の中には堅くて悩んでいる人の方が、柔らかくて悩んでいる人より圧倒的に多いのかもしれない。堅いものを柔らかく。そこんとこ、僕のお腹はずっと下痢状態だったので、下痢のものをより柔らかくしたら悪化するに決まっている。下痢の人には下痢止めが必要だ。抗生物質は細菌を増やさないか殺す作用があり、いずれにせよ細菌は減っていく。これは悪い細菌(赤痢菌とか)に対しても作用するが、腸内細菌に対しても作用し、一般に抗生物質は副作用として便秘がある。そう、僕の柔らかい方向に振れ切った腸内フローラに対し、抗生物質が腸内の善玉菌を殺しまくった事で、丁度良い方向に戻る作用があったのではないか。善玉菌も多くすれば悪をなす。僕は、そんな腸内フローラを抱えていたのかもしれない。そして、どうやらお腹を柔らかくする善玉菌がほっておくと勝手に増える腸内環境っぽい。住み処が恐ろしく善良なせいなのか、善玉菌は増えるばかり。それが、僕をロンリーロードランナーさせていたのさ。

コンキスタドール

という訳で、定期的に風邪の時に貰って余ったフロモックスやタリビットを飲んで、いたいけなインディオを制圧するコンキスタドールの様に、腸内フローラを虐殺して中庸を保っている。本来の使い方ではないので推奨はしない。そこんとこだけよろしく。題名は最近バズってたブログエントリを参考にさせて頂いた。