マリオット名古屋

bohemian_style2006-02-10


金曜の夜、東京を発って名古屋に向かった。
味噌カツを食べに行ったのではない。
ましてや、やまちゃんで手羽先を食べに行ったわけでも、天白川五条川に身投げをしに行ったのではない。大体、あんな浅い川では溺れ死なない。

さて、話がずれたが、岐阜にスノボに行く為である。関東では岐阜のスノーリゾートは馴染みが無いが、中部や関西では「雪質」「近さ」の軸で切ると、もの凄い近いわけでも、半端じゃなく雪質がいいわけでもないが、合計点では上位に食い込んでくる、みたいなバランスの良さで人気がある。東京人の僕に取っては逆にもの凄い遠いのだが、たまには変化球もいいかと思って、今週のスノボは岐阜に行くことにした。

そんでもって、一泊目の宿はマリオットアソシア名古屋である。アソシアと言うのは、ドラッグストアでカゴで売られてそうな安い化粧品臭がするネーミングだが、JR東海のホテルブランドである。東日本で言うなら「ホテルメッツ」、西日本なら「グランヴィア」がそれだ。つまり、このマリオットはJR東海グループの運営なのである。名古屋駅にはこのマリオットアソシアとは別に、アソシアターミナルというホテルも有って、こちらも勿論JR東海の運営であり、極めてややこしい。

こういう舶来ブランドを日本企業がライセンスを受けてオペレートするときには、このマリオットアソシアの様に自分のブランドをくっつけて、自社ブランドのマーケティングをちゃっかりやっている例が散見されるが、余りそれをやって自社ブランドの方が成功した例は無いと思われる。カッシーナ・イクスシー・・片仮名だととても間抜けなので英語で書き直そう、Cassina-IXCにしても、IXCが高級ブランドとして高い認知を得たかというと疑問だ。アソシアも同様であろう。

あともう一つケチをつけるなら、片仮名で最後「ア」で終らせる造語はこの世から無くなってくれと思っている。ヘルシアだのアクシアだのセントレアだのホワイティアだの探し出すと多くて気になる。ただし、僕を最もイラつかせるネーミングである平仮名地名よりはマシであるので、撲滅運動のターゲットとしては二番目だ。先ずは、あきる野市という意味の判らない地名を、秋留野市、と硬質かつ格調高く、かつてどんな原野だったのか想像を描きたてる素晴らしい旧名に戻す事が先決だ。

もはや何の話だったのか判らなくなりつつあるが、ホテルの論評だった気がする。ホテルの話をするなら、まずもってマリオットアソシアの部屋は思ったより狭くて閉口した事は言わねばなるまい。2ベットルームだったが、30㎡弱という所だろうか。ビジネスホテルに毛が生えたレベルである。間違いなく名古屋では一番を争うホテルなのにこれは寂しい。ここ数年、大阪経済の低迷と名古屋経済の好調という対比が伝えられており、人口も200万人台の中盤で然程変わらない2都市であるが、大阪には最もベーシックな部屋でも40㎡前後の他のホテルならスイートに該当する部屋をサーブする、トップエンドのホテルがウェスティン、リッツ=カールトン、阪急インターナショナルと3つ揃うのに対し、名古屋にはトップエンドにフォーカスしたホテルというのは無さそうだ。

こういう贅沢品は、一見無駄なように見えて、風格だとか品位だとか余裕だとか、目に見えない都市の価値は、そういったものの存在から成り立つ部分もある。また、逆に無駄なものにお金を使える文化の成熟があってこそ、贅沢品がその都市に商売として成り立っているとも言える。名古屋も経済のパフォーマンスは自動車中心に疑いようが無いが、ここからどう都市として熟成を重ねていくかについては、まだまだ時間を掛けて他の都市に学ぶべきは多そうだ。

この文化の成熟度というコンテクストからマリオットを更に見直すと、メインダイニングがミクニなのも気になってしまった。オテル・ドゥ・ミクニは量が半端じゃなく多いという以外は、素晴らしいグラン・メゾンだが、ちょっとお手軽すぎるチョイスの様に感じるし、また、メインダイニングに東京のお店を起用せざるを得ないという事自体が、名古屋の食文化の未成熟を示しているのかも知れない。もし既に名古屋に十分な数のトップエンドのレストランが有るなら、そういった名古屋に根付いた、名古屋のグラン・メゾンを用意できる筈だ。また、名古屋には独特の食文化が有るのだから、大阪のリッツ=カールトンのメインであるラ・ベが上方の食材を使う様に、その土地に根付いた濃い食文化に影響を受けた、「ローカル・フレンチ」みたいなものにチャレンジするというのも、既存のクラシカルなフレンチに対峙するものとして面白かろう。そういった異端を許容し、育てる姿勢がその土地一番のビッグホテルには有っていい。

どちらかというと批評色が強くなったが、経済が良いってのは、それだけ使えるお金が増えるって事だから、放っておけば勝手に需要と供給が増えて、こういうトップエンドのお店もホテルも増えていくだろう。今後10-20年位かけて、名古屋の都市としての成熟がどう進むかってのは追いかけてみたいテーマの一つである。