D7200の延長線では日本のカメラメーカーはダメになるだろう。
D7200デビュー
噂通りニコンD7200が今日発表になった。デジタル一眼レフというジャンルは、大きなイノベーションが産まれない分野になって数年が経ち、前のモデルからの漸進的な進化に止まるスペックだ。ニコンで言えば、2007年のD3/D300発表、並びに2008年の世界初の動画機であるD90発表以来、大きな機能進化はしていない。レンズ資産というネットワーク外部性を覆す様な大きなイノベーションが起きないからこそ、携帯端末やテレビと違って、昔ながらに日本メーカーが力を持っているのだが、残念ながらユーザーにとってのワクワク感はもう余りない。
スマホのイノベーション
さて、このデジタルスチル撮影の分野で、既存メーカーが持つネットワーク外部性を覆すかどうかは分からないが、それなりに大きなイノベーションと言えば、LYTRO ILLUMが実現したボケ表現の撮影後コントロールであろう。iPhoneも、iPhone6sかiPhone7辺りで同じような機能を積んできそうだ。ただ、LYTRO ILLUMは面白い商品だが、並みのデジタル一眼レフより重くてデカいのと、スマホやPCとの統合度において既存メーカーと変わらない為、メインストリームにはなりそうにない。例えて言えば、ニコキャノのデジタル一眼レフを、解像度で圧倒していたシグマSD1的なユニークなポジションは得るだろうが、メインストリームにはDP1/2の様な小さく安価にリパッケージした商品でも今一歩な為、LYTRO ILLUMもそこに至るとは思えない。一方でiPhone等のスマホは軽くて小さく、一般種のホモ・サピエンスであれば、一眼レフより遥かに持ち歩きやすい。そして撮影から共有までの統合度が高くて便利である。そのスマホの攻勢の前に、画質面で差が小さくなった普及価格帯のコンパクトデジカメは死に絶えつつある。そして、スマホの速い機能進化によって、今は何とか命脈を保つデジタル一眼レフやミラーレス一眼が、コンパクト機と同じように餌食になるのか考えるために、まずはスマホに対しての優位性を整理してみよう。それはこんな感じだろうか。
- 絞りによるボケ表現
- 撮影機会を逃さないオートフォーカスの速さ、正確性
- スピードライトによるポートレート撮影の自由度
- レンズによる表現の多様性、特にズーム
- 常用高感度の高さによる暗い環境への対応度
- 所有による自己満足
将来のiPhoneは、上の1.についてはLYTRO ILLUMとは別の、デュアルレンズ方式によってキャッチアップすると予想されている。そして2.のオートフォーカスについても、原理的にスマホと同じNIKON1 V3のオートフォーカスが、デジタル一眼レフと遜色なく動くのを見ると、実用範囲でのオートフォーカスの速さや正確性については、像面位相差AF技術の発達によって、スマホレベルでも3〜5年のスパンでは今のデジタル一眼レフのレベルにキャッチアップしてくるだろう。3.のスピードライトについてもスマホ用でBluetooth連動の商品が出つつあり、これも時間の問題だ。一方で、スマホはそのサイズの小ささゆえに、大きいセンサーを積めないから、センサーサイズが物理的限界となる4.や5.については、キャッチアップしにくだろう。幾らデジタルズームを積んでると言っても、10倍にズームすると100万画素を切るようでは、フル画面で200万画素以上の超高解像度なディスプレイを持つ現代のスマホ画面では粗が目立つ。イメージセンサーは物理的な特性上、画素と高感度がトレードオフにならざるを得ず、液晶画面の高精細化の方がセンサーの高画素化よりスピードが速いのが現状だし、この状況は将来も変わらないだろう。
近未来のデジタル一眼レフの在り方
こう整理すると、近未来のデジタル一眼レフやミラーレス一眼のスマホに対する優位性は、常用高感度の高さを保ちつつ多画素であるという、要は大きなイメージセンサーを積んでいることと、レンズによる表現の多様性の2つだけということになる。上記の様なIT技術の発展に伴うスマホの進化が、デジタル一眼レフ/ミラーレス一眼に将来どう影響するかを良く考えて、差別性の大きな要素として最後まで残るであろうセンサーサイズに拘って設計されたのが、ソニーのフルサイズのミラーレス一眼だと思われる。そして、余りその将来的な変化を良く考えておらず、現在あるデジタル一眼レフに対して、軽くて手軽で持ち歩ける商品という安直な考えで設計されたのが、NIKON1シリーズだと思えてならない。
また、将来のデジタル一眼レフやミラーレス一眼は、大きなセンサーサイズによる高画素・高感度と、多様なレンズを持つシステムを引き続き保つだけではなく、可能な限りスマホの利便性に近付いたり、取り込んだりしないと競争力は保てないだろう。後者についてはフルサイズのイメージセンサーを持つカメラをなるべく軽く、小さくするというソニーのミラーレス一眼のアプローチもあるし、スマホやSNSとの統合度を上げる方向もあるだろう。マッキンゼーの東京支社長から東大の特任教授をやられている横山さんの社会システム論の受け売りではあるが、カメラメーカーがカメラという既存の縦割り産業分野に属する会社であるという事業定義から、イメージの撮影・表現による欲求充足システムを提供する会社という事業定義に転化すれば、横断的に取り込むサービスがより増えてくる筈である。
たとえば、2012年にInstagramをFacebookが買収したが、あれをニコンが買収して商品との統合度を上げていたら、全く違う地平が見えなかっただろうか。スマホの最大の武器は、前述の通り、軽く小さいことと、撮影してから表現、共有するまでの統合度が高いことである。そのスマホの統合度と同じくらいの出来栄えを、買収によってカメラとスマホを連動させて実現し、そのイメージの質がスマホのそれより遥かに高ければ、Instagramを使うような、人とは一味違った写真を共有したいユーザー層には支持されたのではないだろうか。今のカメラのスマホ連携は殆どカメラ目線で出来ている。一旦撮影はカメラとして行い、そこから転送、共有という分業化されたプロセスである。一方の各社SNSは、スマホアプリの中から撮影も加工も可能であり、何かを共有したい時の利便性は圧倒的に高く、敢えてカメラで一旦撮ってというプロセスをしなくなりがちだ。そこが改善されて、スマホのSNSアプリでカメラボタンを押したら、連動してデジタル一眼レフの撮影機能もオンになり、リアルタイムにスマホから操作できる位の操作性を実現できれば、重いデジタル一眼レフを持ち歩いてでも、一味違う写真を撮りたいと思う人が増えるだろう。カメラは日本メーカーの製品が全世界で使われている分野だから、取り込むwebサービスもグローバルベースのもので無ければ意味がないが、それだけカメラメーカーにとっての機会も大きい筈だ。卑近な収益機会を挙げるなら、youtubeが動画に流れてる曲を自動判別してその曲を売る様に、おっと思った写真の機材をEXIFから判定して表示して売ることも出来るだろう。そして、自社製のSNSを成功させるより、この手のwebサービスはマネタイズが難しいから、ユーザーベースは広がりつつあるが収益は出ていないSNSを買収する方が遥かに簡単だ。
ここまで読んで、そんな風に進化しても自分は使わないと思った既存のデジタル一眼レフユーザーの人も多いだろう。一方、巨大な時価総額を誇るグローバルベースのSNSのサービス開発者の視点から考えたら、注目される写真や動画の量が競争力の大きな源泉になっている以上、自社に共有されるイメージの質によって差別性を得るべく、日本のカメラメーカーを買収して自社サービスとの統合度を上げ、例えば"Facebook一眼"を作っていく、という発想は自然なものに思えないだろうか。その近未来は、日本のカメラメーカーが今のままD7200の延長線の様なモノづくりをし、徐々に進化するスマホに食われて収益をすり減らしていたら、間違いなく到来するだろう。
蛇足として
ここからは完全に蛇足だが、論旨とは別に手持ちのD7000が古くなってきたので、D7200は買う。DXについては、D50→D80→D90→D7000→D7200だから5代目だ。FXはF100→D700→D800と3代目。あとはニコンさん、どこぞのSNSの買収を検討する前に、取り敢えずDXのプライムズームをリニューアルしてくれませんかね。DXのフラッグシップレンズであろう17-55mm f/2.8Gは、今の高解像度センサーに全く対応できず、画像がゆるゆるな上に、さすがにVR無しは時代遅れだ。今のDXの純正標準ズームで一番解像度が出るのが、高倍率の18-140mm f/3.5-5.6Gというのは、レンズシステムとして終わってると思われる。おそらくは、今年後半との噂のD300S後継機と一緒にリニューアルされるんだろうが、それまではニコンDXフォーマットでプライムズームと呼べるのはシグマの18-35mm f/1.8位である。ついでにシグマも、このレンズの続きで35-150mm f/2.8-4なんていう他に全く競合のいない焦点域の、ポートレートに最適な中望遠ズームを出して頂きたい。そしたら、18-35mm、35-150mm、150mm-600mmでシグマの大三元完成ということで、セットで役満320,000円で売るのはどうだろうか。なお、この前35mm F1.4 DG HSMをシグマレンズとして久しぶりに購入したが、写りには感心したし、オートフォーカスも全く問題なかったので、純正がもう決まった焦点域しか出してこない膠着状態を是非打破して貰いたいと思っている次第である。こちらからはこれ以上特にコメントありません。