釜山初日

もともと今の仕事は3末にケリを付け、5月はユーラシア大陸をまたにかけて、イラン・アフガン聞かせてバラライカの予定だったのだが、関係当局やらマスコミやらが僕の邪魔をたっぷりしてくれたので、休みは夏に逃げ水の如く去ってしまった。本当なら今頃は、シュパーギンPPsh41年式短機関銃、通称バラライカでは無いが、カラシニコフの銃声の一つや二つはアフガニスタン西部で聞いていた筈なのだが・・。

それでも何とかかんとかカレンダー通りには休めたのは幸いであったが、5連休というのは中途半端で始末が悪い。遠くの海外に行くには短すぎる。近場には長すぎる。相当迷った末に、大分は国東半島の古い仏教遺跡を見に行く事にした。相変わらずの脈絡の無い展開だが、国東半島は、熊野磨崖仏という奈良〜平安時代の作と伝えられる全長8mの巨大な磨崖仏が有り、鎌倉以降も連綿と磨崖仏が作られ、半島中に点在しているという、日本における「磨崖仏のメッカ」なのである。アフガニスタンの至宝、バーミヤンの巨大磨崖仏を破壊前に見そびれて歯がみしている僕が、日本で行くべき観光地を一つ挙げろと言われたらここしか無いだろう。また、718年創建の阿弥陀堂とか、京都奈良にも比すべき仏教遺跡が「重文ですが何か」という感じで無造作に有るのが国東半島である。侮れぬ。

そんなこんなで国東半島に目的は定まったのだが、僕には困った事に寄り道癖が有る。今回は、福岡からうっかり釜山に水中翼船で2泊3日寄り道する事にした。博多港から釜山港は2時間55分の船の旅、まさに一衣帯水である。

韓国はもう6回目である。片言の韓国語も話せるし、ハングルも時間は掛かるが読むことは出来る。まったく外国という感じがしない国である。釜山は何度目だろうか。韓国は飛行機で行くより船で行った回数の方が多かったりする。大垣夜行→新快速と乗り継いで下関を目指し、そこから夜行船の桟敷席で釜山へ渡る。そんな旅行を幾度ともなくしたものだ。下関駅から港までの道すがらにある東京銀行をよく覚えている。今は亡き外国為替銀行法に、東京銀行は「外国為替上重要な場所」に出店する事が定められているが故の支店である。銀行マニアにはしびれる経験だ。

今回もまったりと旅行する事にした。韓国は、ドイツやマレーシアと並んで、僕が最も気張らずに旅行できる国の一つで有るし、先を急ぐ旅でも無い。

前に韓国を訪れたのは2001年の1月であるから、5年の余が過ぎている。前はソウルだったので正確な比較は出来ないが、またぐっと先進国の趣が増した様に感じる。人々の小奇麗な服装・髪型、非接触ICカードによる地下鉄入札システム、24時間営業のコンビニ、信頼できる交通機関。全てが洗練度を増している。中進国の面影は、偽ブランド品とエスカレーターや電車の列のマナーぐらいだろうか。

旅自体がゆるかったので、目に付くものもゆるいものばかりである。


UVとあるので、何らか紫外線をカットしたいのだろうが、ここまでしてカットしなくてもと思う。彼女が美白でこんな姿をしていたら100年の恋も冷める。

マスクの形も不可思議で、なにやら熱帯の名も知らぬ甲虫の口の様なデザインだが、服のセンスもかなりキテいる。


BHCが何かは知らないが、もう少し気合いれよう。OH YEAH〜。
韓国と日本ではフォントへの感覚が違うのだろうか。このフォントでは、日本では脱力系と捉えられるが、右側の男の気合の入った表情からすると、韓国ではこのフォントが強調の意味位持っていそうな風情だ。


こういうの、大分減りました。昔は大韓航空の機内音楽の日本語はメタメタで本当におかしかったのだが、この20年で日韓関係も成熟し、ものすごくまともになったと思う。だが、なぜ伸ばす。英訳のred-beanに引きずられたのか。ぜんざり。こっちは判らんでもない。


釜山タワーのエレベータ。2ホキという発音だが、多分2号機という意味だろう。途中が階数では無く、高さのm数で表示されている。なかなか臨場感溢れていいアイディアだ。

ちなみに、僕は銀行マニアというレアな性癖があるが、それに加えて何を隠そうエレベータマニアでも有る。こう書くと常ならぬあちらの世界の住民の様だが、本人は至ってまともなサラリーマンである。エレベータマニアと言っても、最適運行アルゴリズムの研究をしてしまう様なガチンコでは無く、旅に出るとついついその国のエレベータ業界を分析してしまう程度のライトなものだ。さて、韓国のエレベータ業界は、どうやらLG-OTISが寡占的な地位を占めている様である。OTISはアメリカの企業で、日本では松下電工と組んでいる。マニアらしく、僕にはエレベータの中の階数を押すボタンのフォントでメーカー名を当てられる特技が有ったりするが、OTISのは日本メーカーには無い硬質な味わいでなかなかよろしい。ボタン自体を、透明なプラスチックではなく、周囲と同じ金属素材としたり、色とりどりの不透明なプラスチックとするのがOTISの特徴で、かつ高層ビルでは階数ボタンを日本メーカーに多い2列でなく3-4列に横長に配置する事も多く、一目見てアメリカを思い出すデザインである。

ちなみにエスカレータも韓国はLG-OTISが多く、こちらもシルバーのフラットなデザインでアメリカ的である。


ありがちなコンビニのお菓子だが、名前は情。思わず情に駆られて買ってしまった。

全然観光をしてないが、まだまだこんな細かい所でも楽しめる自分が居て良かった。アジアをある程度旅行していると、徐々に驚きが薄れて、どこに行っても、これはかつて見た光景だと嘯く様なシニカルな状況に陥ってくる。アフガニスタンを次の目的地に選んだのも、一度そんな状況に陥ったが為に、一つ先のアジア、まだ見た事の無いアジアを求めたがゆえにである。年を取ると好奇心は磨耗する。好奇心を失った時が旅の辞め時だと思ってはいたが、ここ釜山で、どうやら僕の好奇心は徐々に元のかさを取り戻しつつある事を感じた。

旅は人の生の鏡である。