2トップ論

これでブラジルに2点差以上で勝たなければいけなくなった。相当厳しい状況である。
オーストラリア戦では、個別の選手のパフォーマンス云々の前にベンチワークと2トップの決定力が本質的な問題として浮き彫りになったが、この2つはこのクロアチア戦でも問われてしかるべきと考える。
ベンチワークは無策だったオーストラリア戦よりはマシになった。稲本が入って、確かに落ち着いた。クロアチアが疲れてくると足元が使えて、足の速い玉田を入れた。最後は大黒で一発逆転を賭けた。しかし、この試合が勝たなければいけない試合だった事を考えると、相手の3バックの弱点を突く様に、3トップ気味に対応する様なオプションを早めに考えるべきだったと思うし、そもそも大黒の投入は遅すぎて、何も出来なかった。後半中村がいつもの様にパワーダウンしてきた所で、早めに中村→巻 or 大黒など、前線に数的優位を作る様な交代が必要であった様に思う。

あとは問題の2トップである。今日は高原はずっと消えていたし、柳沢は言わずもがなだが、決定的なチャンスを決められなかった。
もはやここまで言いきるしかあるまい。

  • 2トップでは柳沢は機能しない。

2トップとは、基本的にゴールに向かう人が2人居るフォーメーションである。典型的には9番と11番から構成される。9番は必ずしもヘディングが得意な必要は無い。前線に構えて、攻撃の拠点になれればいいという観点では、体が強くて足元が使える方が望ましい。ヘッドが強い選手が居て、ポストプレイを志向するなら1トップか3トップにして、明確なシャドーストライカーを置くケースが多い。
但し、典型的には、と書いた通り、2トップの役割分担は必要である。9番と9番では、例えばインテルアドリアーノとビエリが共存できなかったり、レアルマドリーロナウドモリエンテスが一緒に出る事は無かったりすることが示すとおり、極めて鈍重な前線で、攻撃が散発的になりやすい。また、11番と11番では、ラウルとオーウェンのコンビとか、インザーギモンテッラのコンビが今一つ怖く無いと同じで、パス、特にサイドからのクロスのあて所が無いフォーメーションになる。

高原は、9番か11番かと言うと、11番の選手である。Jリーグで得点王に輝いた時も、9番の中山が居たから11番の高原が活躍出来た。11番は必ずしもシャドーストライカーという訳では無く、ロナウドの全盛期にラウルもガンガン点を取っていた様に、9番より11番の選手の方が点を取ることも有る。

対する柳沢は、9番か11番なら11番だが、下がり目のポジションでプレイする事が多く、11番より更に下がった、トレクワルティスタかウィンガーに近いプレイヤーだ。イタリアでは、なかなかフォワード登録されずに苦しんだが、誰が見ても彼は1列目のプレイヤーでは無い。

こういった特徴がある2人を並べたフォーメーションで点が取れないのは明らかである。また、中村は上手いプレイヤーだが、ボールを持つとまずゴールでなくて出せる所を探しに行くプレイヤーなので、3-4-1-2で前3人が高原・柳沢・中村というのは、極めて得点の匂いがしない。

もし、高原-柳沢の2トップを前提として解決策を探すとすれば、唯一オフェンシブハーフに前へ飛び出してシュートを打てる選手を置くという事は有力仮説と成り得る。ジーコクロアチア戦で4-2-2-2に戻したのは、これを小笠原に求めていたからだと思う。残念ながら、小笠原もシュートを比較的打てる選手では有るが、どちらかというとパスの出し手をずっとやってきた選手なので、余りワークしなかった。

次のブラジル戦は、2トップを止める為に3-4-1-2に戻すのか、引き分けた実績を評価して4-2-2-2で行くのかは判らないが、少なくとも2トップである限り、柳沢を使った形では2点以上を取るというのは難しいと思われる。久保無き今の日本には、センターフォワードたる9番のプレイヤーは居ないが、中盤からのパスに特徴のあるチーム作りをしている以上、パスの受け手というよりは出し手の様なプレイをする柳沢は、いかに技術が高くても2トップにはフィットはしない。敢えて人選をするなら、高原−大黒だろうか。この方が圧倒的にボールを支配される中でカウンターを狙いに行くには、ボールの出し場所として適切の様に思う。

柳沢の技術自体は素晴らしく、ゴールを外した後に懲罰的に玉田と早めに交代させられたが、これは玉田がワールドクラスのプレイヤーで無い事を確認しただけに終わった。正直、玉田は日韓大会での市川や、ドーハでの三浦泰と同様、「この大会に出てはいけない人」だった様に思われ、柳沢との技術の違いを再認識させられた。柳沢の技術を是非使いたいというのならば、アジア最終予選での日本-バーレーンや、コンフェデの日本-メキシコの様に柳沢1トップでショック療法を行うよりは、3-4-3のウィングに使うなど、適切な「柳沢システム」が必要であろうと思われる。4-2-2-2なら、オフェンシブハーフマリノスの奥の様な、飛び出しが得意で、前を向いてゴールを目指せるプレイヤーを入れるという手も有るが、これは日本の既存MFの創造性とのトレードオフを勘案すると、「無い」選択肢であろう。

1トップや3トップのセンターで有れば、ポストプレイをし、相手に背を向けて2列目の攻撃を引き出すプレイも許されると思うが、2トップは基本はゴールを向く人が2人居る、というフォーメーションなのである。その観点でいけば、2トップである限り、柳沢の出番は限られるのは自明である。それをジーコはなぜ柳沢を使い続けるのか、腑に落ちない。上手いやつからレギュラーになるというブラジル流の始原的な考え方なのか、高原を9番と勘違いしているのか、そこは不明であるが、このミスマッチを解消しないと、ブラジル相手に2点取る方策は見えてこない様に思われる。

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