個人技の応酬

ブラジル VS フランスは、面白さでいったら今大会随一のゲームだった。
衰えを見せず今日もマルセイユ・ルーレットを決めてくれたジダン、後半アドリアーノが入った後のロナウジーニョほかカルテット・マジコの面々などの、ボディバランスと足技は勿論のこと、リベリーやサア、アンリなどのスピードも一つの個人技で、さながら「超人コンテスト」みたいな様相を示していた。
それが単なるサーカスに終わらず、試合を試合として締めていたのが、守備的MFだった。ロナウジーニョビエラ一人にタッチ際に追い込まれてボールを失ったシーンには驚いたが、特にフランスのビエラマケレレは強く・固く・速く・上手くかつ組織的で、後半も半ばを過ぎるまで殆どブラジルに仕事をさせて居なかった。
ブラジルの方も、ゼ=ロベルトとジウベルト=シルバという世界屈指の守備的MFが居て、これまでの試合を玉田の一点に抑えていたのは、放り込んでくるボールにはセンターバック2名、つないでくるボールには今日は不出場のエメルソンも含めて守備的MFが極めてよく利いていたからに他ならない。しかし、フランスはそれを知ってか知らずか、この守備的MFに対して勝負を掛けていたのはジダンだけで、基本はここをパスしてリベリーやアンリをウラに走らせるボールを多用していた。結局、この攻撃からは点は入らなかったが、こういったアクシスが極めて強力なチームの場合は、速くて長いボールでDFのウラを取る攻撃は有効だ。今大会のブラジルは非常に高いディフェンスラインを保っており、これによって守備的MFとの間のスペースを消して、相手につなぐサッカーをさせていなかったが、逆にDFの後ろのスペースをフランスの速い攻撃的選手に利用された形だ。
前線にも中盤にも世界的選手が揃っていたが、両チームの守備的MFがそれに勝るとも劣らない高い能力を備えていた為、一点を争う緊迫した展開となった。
個人技からフォーメーションに目を移すと、フランスは典型的な4-2-3-1のフォーメーションを引いていて、アンリの1トップに左からマルーダジダンリベリーという攻撃的MFだったが、中盤が5名と最も厚くなるこのフォーメーションの利点を存分に生かして、ルーズボールを効率良く拾っていた。また、4-3-3と比べると、4-2-3-1は守備的MFの横にスペースが有るのだが、フランスは逆にここにブラジルを戦略的に追い込んでは、右サイドならサニョルビエラリベリーの3人、左サイドならアビダルマケレレマルーダの3人で囲んでボールを奪っていた。フランスの守備は余り高い位置からプレッシングはしないのだが、中盤に屹立する強力な守備的MFの前でボールをスローダウンさせて、ブラジルが仕方なく横のスペースにボールを出すと、そこで3人で囲んでしまう、という勝ちパターンが出来ており、カカやジュニーニョ・ペルナンブカーノ、或いは上がってきたカフー等は、その前に為すすべ無くボールを取られるシーンが目立った。
世界最高のテクニシャンが揃うブラジルと、アルジェリア系のジダンを含んでアフリカ大陸代表の様なフランスで、極めて個人技が目立った試合では有ったが、守備については、個人技のベースが有るとはいえ、フランスの方が組織的だったと言えよう。
ブラジルは、試合開始からアドリアーノ登場までが今のACミランと同じ4-3-1-2で、キーパーのジーダ、右サイドのカフー、トップ下のカカというのがブラジルとミランと共通していた。カカはパスもシュートも出来る理想的なトップ下だが、カカを封じられてもピルロがゲームを作れるミランに対し、今日のブラジルの守備的MFはゲームメイクという観点ではややシンプルすぎ、それがパフォーマンスの違いに繋がった様に思う。あと、守備的MFを3人にしたのに、ジダンを90分間フリーにしっ放しじゃゲームにならない。ちょっと王国の慢心が出たのだろうか。もしかしたら、ゾーンマーカーが付いていたのかも知れないが、ジダンはゆっくりとしたリズムで、プレッシャーは無きが如しであった。
結果、フランスがジダンの素晴らしいフリーキックからきっちりアンリが決めた一点を、この堅い守備で守り抜いて勝ち抜いたのだが、ブラジルも最後の最後でも放り込まずにグラウンドでサッカーをして、王国のプライドを示していた。
はてさて、これで4強が揃ったが、欧州の国ばかりである。今回のブラジルもアルゼンチンも強いチームだったが、それでも欧州で開かれるワールドカップではなかなか勝てないというのが面白い。
4つの国で行くと、ポルトガル・フランス・イタリアは非常に守備が良いチームで、守備の堅さからリズムを作れるタイプのチームだが、今回のドイツは伝統に反して守備よりも攻撃陣の活躍が目立つチームである。その意味で、カテナチオのイタリア対2トップのキレが良いドイツは面白い試合になりそうだ。イタリア VS ウクライナは見ながら、なぜイタリアの守備は堅いのか、という考察をしようと思っていたが、今ひとつウクライナが弱かったので、余り違いが判らなかった。今回のドイツ戦ではその辺のアイディアが浮かべばいいなと思っている。