また靴を買ってしまう。

何を隠そうドレスシューズオタクである。
世には50足も100足も持っていて日がな愛でているフェチも居るそうだが、そこまででは無い。それでも、こつこつと買いためて、ドレスシューズで20足位にはなるだろうか。「数ある趣味の一つ」にしてはハマっている方であろう。これ以外にトレッキングシューズもなぜか3つも4つも有ったり、ショートパンツに合うスパイキーなスニーカーが無いとかで、一時期片っ端から購入して合わせてみたりで、基本的に何でも靴は好きなのである。
ただ、僕のマンションは、普通のマンションの2倍位のシューボックスが付いているのだが、もうそこにも靴が収まらず、洗濯機の上とかを占有している始末なので、ここ半年はうっかり買ってしまったブランキーニと、アフガニスタンに備えて買ったデザインの良い軽量トレッキングシューズ以外は物欲を控えていた。話がずれるが、デザイン的にイケてる軽量トレッキングシューズは僕が数年捜し求めていたものである。僕は旅行は秘境派なのだが、秘境に行く時は、必ずスニーカーではなく、安くてもいいから必ずトレッキングシューズで行く事にしている。アマゾン下流の泥濘を越えた時や、キリマンジャロの麓をトレッキングした時、或いはアンデスは標高5,000mを越えるガレ場を行く時に、スニーカーでは無く、くるぶしまで保護されて、靴底が厚く、防水のトレッキングシューズを履いていた事に何回も感謝した。スニーカーは特に泥に弱く、一旦泥濘にはまると、もう元には戻らないのである。フランス領ギアナからブラジルのマカパという街に、雨季の泥濘の中、36時間掛けて移動した事が有り、その時車体を軽くして泥沼を突破する為に4WDから降ろされたのだが、4WDに乗っていた人間の中で、トレッキングシューズだった僕だけが、抜けた後にさらりと水で泥を落とせて、普通に行動できた。スニーカー組は、現地の人を含めて、皆次の町で靴を買う羽目になっていた。カネが無かった同行人は、必死で靴を洗って乾かそうとしたが、一度泥が沁み込んだ靴は、二度と元には戻らず、かつ靴なんてのは一日やそこらでは乾かないのである。
ただ、トレッキングシューズにも難点が有って、行き帰りのゲートシティたる大都会のホテルには似合わないのである。そこは諦めてバックパッカー宿に泊まればいいのだが、ついつい大都市だと旅に変化を付ける為に、その都市で一番クラシックな有名ホテルに泊まって、それまでのケチケチ旅行の数倍のお金が飛んだりする。その時にごついトレッキングシューズというのが、どうも僕の美意識にはそぐわないのだ。トレッキングシューズだけど、綿パンに合わせるとそれなりに見えて、Three Starのレストランでも気兼ねなく入れるという代物を捜し求めて早数年、紆余曲折を経て、ようやく3ヶ月くらい前に神保町のさかいやで発見したのである。
とてつもなく話がずれたが、話は最近は靴欲を控えているという所に戻る。それで、さる金曜、一仕事終えて、ふらっと取り寄せ品をピックアップしに有楽町に寄ったのである。知っての通り、有楽町は銀座という危険な街と隣り合わせになっており、僕はここ数ヶ月の節制を忘れて、ついつい虫が光に惹かれる様に、銀座のワールド・フットウェア・ギャラリーとトレーディングポストという老舗インポートシューズショップに入ってしまったのである。

・これが結果だ!
まぁバーゲンシーズンという事も之有り、結果は推して知るべしでオフィスには、LIDFORTを持ち帰る羽目になった。
普通のUチップじゃない、この人を食ったような曲線が悪いのだ。この曲線がバチバチと夏の夜を騒がせる殺虫機で、僕はそこにフラフラと寄っていってしまった羽虫という訳である。
色も良い。キャメルだが、最近のイタ靴の流行りで、色ムラをわざと残している。これがまた響いてしまった。
僕の足はウィズで行くとDと、日本人にしては際立って細いので、ややワイドめのLIDFORTは気になったのだが、このデザインの前には、ちょいと足が踊る位は目をつぶるのが清く正しいチョイワル30歳というものだろう。
たぶんコバが狭いのでマッケイだと思うが自信は無い。ドレスシューズにはまり始めの頃は、やっぱりハンドソーンウェルテッドが、とか製法もチェックしていたが、最近はもうデザイン一発である。ファッションの1パーツだから、きっとそれが正しいのだと思われる。
しかし、家に帰って冷静になってみると、置く場所が無い。週末に大体片付けたり、ワックスを掛けたりするので、そこでスッキリするのだが、片付ける前は、一体何人この家にゲストが来ているのかという位、玄関が靴で埋め尽くされるのが近況である。

・これは片付け後の玄関。LIDFORTの右下がブランキーニ。その奥には、in the roomで買ったいやらしい「見せるための」シューズストッカーが有る。靴は下から、グレンソン、テストーニ、サセッティ、サントーニ、ブルーノ=マリ・・・
結論的には、やはり選択と集中というのか、ターンオーバーと言うのか、最近1年くらい履いていない靴は涙を呑んで、オクに出すことにした。新しい靴を買う為に古い靴をオクに出す。なにやら、延々と美食の限りを尽くす為に、食べたそばからリバースしたと伝えられるローマ貴族みたいな、気味の悪い話である。手持ちはイタ靴ばっかりになってきたが、イタリアってそういう国なのかしらん。