紙一重の差

イタリア VS ドイツの旧枢軸国対決は、延長終了間際の2点でイタリアが勝利した。
枢軸国は英語で the Axis というのだが、試合自体はどちらかというとアクシス(中央)の選手ではなくて、ラテラル(サイド)の選手の活躍が目立った。最終ラインの真ん中の2人がお互い堅くて、なかなかここをこじ開けられなかったからである。最初の30分を見終えた段階で、これならPK戦かなと思う位、攻めあぐねる展開が続き、案の定の延長戦だった。
ただ、守備が光っていた両チームだが、守り方は対照的である。ドイツは、ラインが非常に浅い。在りし日のトルシェ・ジャパンと遜色ない位で、レーマンがゆっくり時間を使って蹴るゴールキックの時くらいしか、ライン取りを確認する機会は無いのだが、結構前がかりで、ラインをコンパクトに保っていた。ただでさえでかくてごついドイツ人がスペースを作らせないラインを引いているので、非常に中盤は窮屈である。ゆえ、メルテザッカーメッツェルダーという若いセンターバックのパフォーマンスが素晴らしいというよりは、オフサイドトラップと中盤でのスペース消しで守っている様な印象を受けた。
一方のイタリアは、ラインは非常に深い。1回ストッパーの2人しか残っていなくて危ないシーンが後半に有ったが、基本的にカウンター気味に攻撃を受けても3-4人は必ず残っているし、ラインも極めて深い。同じ様に守備が安定していた両チームだが、守り方は対照的である。
こういう守備を前提として攻撃を作るのだが、イタリアはボールの取り所が自陣深くで、かつドイツのラインが浅いので、勢いFWを前に走らせるピルロからのロングパスが多くなる。こういう攻撃だといまいちでかい9番タイプのトニはフィットしないので、後半はもう少しスピードのある11番タイプのジラルディーノに変わった。これは妥当な交代だが、もっと速いインザーギでも良かったと思う。どちらにしろ、トニが出ている時は、イタリアには全く得点の匂いがしなかった。トニの1トップが大会を通じてシステムを微調整する中で熟成されたとか何とかと解説が言っていたが、こういうのは相手次第で、何がベストかというのは一概には言えないのである。
ドイツはというと、ドイツはイングランドに似た、4-4-2で中盤の4人がボロウスキ・ケール・バラック・シュナイダーとフラットに並ぶ。こういうフラットな4-4-2は、MFの4人がサイドと真ん中という役割分担のみで、特に守備と攻撃という分担が無く、全員が両方こなすのだが、ガットゥーゾとの勝負に分が悪かったのか、ドイツのMF陣は中盤でボールを奪っても、真ん中からは攻め上がらずに、クローゼに当てるか、サイドのボロウスキ、シュナイダーに出すかというパターンが続いていた。ドイツの2トップは今日も好調で、ポストも出来るし、一人でボールも持てるという、背番号は11だが、タイプは9番のクローゼと、スピードが有って、反転してシュートまでの時間が尋常でなく素早いポドルスキは非常に良いコンビで、クローゼが競り勝つとチャンスが生まれていた。
膠着した試合展開だったが、延長になって、ようやくラインが間延びして、中盤にスペースが出来、サッカーが動き出してきた。イタリアはもともと一応高い所からチェックには行くが、ラインは割りと長めだったので、チェックは甘くなったものの、ガットゥーゾと最終ラインで跳ね返す守備はそれ程大きな破綻を見せなかったが、ラインのコンパクトさで勝負していたドイツは、やや中盤の高い位置でイタリアにボールを持たれる様になって、苦しくなってきた様に見えた。これを見ると、120分同じ形でパスサッカーをしていたアルゼンチンというのはやっぱり異常なチームで、普通は延長になると、ロングボールが増えて、中盤は間延びするものなのだ。
延長後半に入ると、ジラルディーノやデル=ピエロなど、足元の技術の高い選手をリッピが入れて、徐々に出来てきたスペースで彼らがボールを持てる様になった為、イタリアに徐々に流れが傾いた感じがしたが、グロッソのゴールがこの流れの中で生まれたかというと、正直これは運が半分、流れが半分だと思う。ピルロからグロッソグロッソからゴールマウスというボールの短い軌跡が、5-6人のドイツチーム選手の脇を抜けたが、これだけ偶々人がうまい具合にコースに居なかったというのは、一つはドイツDF陣が集中を失っていたというのも有るだろうが、殆ど「運」である。ただし、ピルロペナルティエリア近くでボールを貰えたというのは、延長戦に入ってドイツの中盤が間延びしてプレッシャーが無くなったからなので、これはイタリアが掴み掛けていた流れの影響だろう。ただ、ドイツに取ってはややアンラッキーだったが、イタリアもその幸運を掴み取る為に、十分攻めていたと思う。これは、守備的MFのアシスト、サイドバックのゴールという結果を見ても明らかだ。120分という長い戦いの中で、最後の数分だけドイツがプレッシャーを途絶えさせた瞬間に、これまでの守備的サッカーを捨てて、うまく厚く攻撃に張ったイタリアの勝負勘は素晴らしい。
また、視点を監督に変えると、後半からジラルディーノイアキンタ、デル=ピエロなどスピードが有るか、足元の技術が高い選手を入れて、徐々に出来てくるであろうスペースを有効に使おうとしたリッピ采配は流石である。一方のクリンスマンも、シュバインシュタイガーオドンコーとサイドを活性化し、疲れたクローゼをノイビルに変えるなど、攻撃の意図は理解できたが、ドイツは、コンパクトなラインから高い位置でボールを奪っての素早い攻撃がリズムを作っているので、足が止まって、ラインがズルズル下がってリズムが悪くなったのを放置したのは少々疑問である。ここはサイドの人間を2人変えるのでは無く、一人はケールとか真ん中のMFを変えてボールを追う人を作り、リズムを取り戻す方が良かった様に思う。
イタリアはラインがもともと深かったので、攻撃と守備を独立して考える事が出来るが、ドイツの様に攻撃と守備の連動性が高いチームでは、攻守を睨んだ視点が交代で必要になり、一段難易度が高い。その意味で、采配もドイツは少々単純に過ぎたかと思うのである。
つらつらとイタリアとドイツの差を書いてみたが、どれもこれも決定的というよりは、色々な紙一重の差が積み重なった所に幸運が舞い降りて、イタリアが振り切ったのが良く判る。拮抗したゲームってのは面白い。