バイアウトファンドで求められる能力(1)

 以前いずれ書くと宣言して、その後なおざりになっている「ファンドメンバーに求められるスキルセットとは」という命題について、最近複数のリクエストを頂いた。ブロガーにとってはとてもエキサイトする出来事である。リクエストの一部はメールで質問の形で頂いたので、それに返信する過程で、色々と考えた結果、散漫としていた思考がまとまって、何とか一つの仮説らしきものが出来てきた。ゆえ、この仮説について、これから何回かに分けて書いてみたい。今日は、まず第一弾として、能力の定義と、専門性か汎用性かという点について前説を述べてみたいと思う。
 今回のテーマは非常にスペシフィックな分野の話であるが、どんなに特殊分野であっても、まずは原題・本質から考えたい僕としては、まずそもそも人の能力とは、という話から始めたい。僕は、仕事上の能力は4つ位のレイヤに分かれていると考えている。僕の荒っぽい定義だが、こんな感じだ。

  1. バリュエーションが出来ます、ロジックツリー展開が出来ます、原価計算が出来ます、という最もミクロな作業レイヤ
  2. マーケティング経理、戦略構築、財務アドバイザーといった、一つのプロフェションをコンプリートワークする分野レイヤ
  3. 対人能力、プロジェクトマネージメント、アントレプレナーシップ、戦略思考など、ジェネラルに仕事のできる/できないに関わる特性レイヤ
  4. IQの高さ、48時間ぶっ続けで考えられる体力、3ヶ月前に見た資料の157ページの21行目に書かれていた数字を覚えている記憶力、最後までファイトし、自分の意思を通せる精神力といった肉体レイヤ

 人をPCに例えるなら、ソフトの個々の機能−アプリケーション−OS−ハードウェアというレベル分けだろうか。人もPCも残念ながら個々のハードウェアには大きな違いがある。この差を埋めたり拡げたりするのがソフトウェアであり、専門性である。これは、人の能力の定義であるが、仕事起点で見ても、どこに重点がある仕事かという点で分類が可能である。1)や2)に重点がある人はスペシャリストであり、同様にここがキーの仕事であれば、それは専門性の高い仕事であると言える。逆に3)とか4)とかに力点があるとジェネラリスト志向の人、或いはジェネラリストを必要とする仕事という事になる。例えば、医師というのは、非常にプロフェッショナルな仕事だと思うが、その中でバチスタ手術を得意中の得意として、その臨床ばかりやっている先生が居るとすれば、医師という分野の中でバチスタ手術は作業レイヤにあたるから、それは相当のスペシャリストであろう。勿論全ては程度の問題で、医師が専門性を要する仕事と言っても、対人能力が低いと困ったお医者さんになる。しかし、対人能力と、臨床技術では、臨床技術が高い方が明らかにベターな医師であるし、上に書いたバチスタ手術専門医が人の目を見て話せず、院内政治はおろか、部下の教育もろくに出来ない人物であっても、仮にこの医師の技術が人並みはずれて優れていれば、命を救って欲しい患者は途切れず押し寄せ、名医の名前を勝ち得るのではないか。

 人の能力を上記の様に定義した上で、果たしてバイアウトファンドの仕事は何が必要なのか考えてみたい。バイアウトファンドは、

ソーシング

事業評価

バリュエーション&ストラクチャリング

ファイナンシング&エグゼキューション

企業価値向上

投資回収

という長大なバリューチェインをもっている。ファンドメンバーは、大抵の場合、この長いバリューチェインを一気通貫に担当している。バリューチェインが1サイクル回るのが3-5年という恐ろしく気の長い仕事であるのに、その期間分業しないというのは割りと凄いことで、個人が多岐に渡る仕事にトライすることになる。分野レベルで考えると、「バイアウトファンド」という分野は、インベストメントバンカーと、戦略コンサルタントと、経営者と、IPOでEXITする場合は上場株トレーダーの分野と重なっているのだ。ただ、バイアウトファンドというと、何やら専門性が有る様なイメージもあると思うが、幾らハードワーカーと言えど普通の人間が、この全ての分野において、専門性を持つレベルまでスキル・知見を持つのは不可能である。逆に言えば、このどこかに深い専門性が有るだけでは、ファンドでは食っていけないのだ。となると、バイアウトファンドというのは、ジェネラリスト性が強い仕事である可能性が高いという事になる。意外かもしれないが、実は特定の専門性で食ってます、という人は余りこの業界に居ないのだ。
(続) バイアウトファンドで求められる能力(2)