奈良ホテル

bohemian_style2005-07-17


関西に3年住んで、ひとつ心残りだったのは、関西の素敵な宿にあまり足跡を残せなかった事である。神戸の北野ホテル、大阪の阪急インターナショナル、京都の柊屋。北野ホテルは友人の結婚式に出たことは有るが、結局泊まっていないし、後の2つは東京に戻ってから出張やら旅行やらで泊まることとなった。

さて、奈良といえば、やはり奈良ホテルである。興福寺に程近い高台にあるこのホテルは河合浩蔵の設計で有名な、大正モダンの代表的な建築物である。東京の人には、富士屋や万平みたいなもん、と言った方が話が早いかもしれない。

今日は奈良に来て、奈良ホテルにお泊りである。部屋の天井が恐ろしく高く、調度の品は良く、格調も高い。大正という時代の豊かさを感じられるホテルであった。

僕はなにげに将来ホテルを作ってみようと思っているが、その理由のひとつに、ホテルとはオーナーの人生の豊かさへの価値観の表れだという点がある。ホテルは時間を過ごす場所であり、オーナーがこんな空間でこういう時間を過ごすことがリッチだと考えるものがホテルという形になる。

日本も海外もくまなく放浪し、安い宿も高い宿も経験し、色々な印象深いホテルがあるが、この奈良ホテルもひとつそのリストに加わった。ここに来ると、それが作られた時代の空気や考え方がビビッドに感じられる、そんな空間である。日本は戦争に負けて、米国に占領されたことも有り、近代と現代の間で文化や歴史が分断されており、大正という「近代」は異文化に近い。奈良ホテルでは、その近代がどういう時代だったかを、五感で感じる事ができる。面白い経験だった。