南房・清澄寺

どうにも空気の悪い東京に辟易して、急に旅に出た。僕は何かをしようとするとextremeな方向に行きがちで、旅に出るとなると最低でも白河の関の一つや二つ位は越えて、三途の川の手前位で戻りたいのだが、起きたのが昼という事も有って、流石にひより、ライトテイストに南房総を訪れる事にした。目的は、鴨川市清澄寺にある、樹齢1000年とも言われる杉を見に行く事である。

僕はなにげに巨木好きで、旅の途中でツーリングマップルに「巨木」の名が有るとついフラフラと寄ってしまう。有名所では、縄文杉はもちろん、南紀照葉樹林も好きだし、海外では南米のスリナムの首都パラマリボの街中に蔓延る巨大な熱帯樹がとても印象に残っている。もれなくこの辺りは写真を撮っているので、いつかソースが溜まったら、巨木・巨樹サイトでも開こうと思っている。

この清澄寺の杉は、日本杉ランキングというものが有るなら、かなり上位に食い込むべき杉で、高知は八坂神社の大杉や、飛騨白鳥の石徹白の大杉などのメジャーキャラと互角に戦えると聞いていて、いつかは行ってみたいと思っていた。

土曜の夜の嵐が過ぎて、日曜はからりと晴れ、非常にいい気分である。ここんとこ夜行性な日々が続いていたが、人はやはり日光を浴びないと元気にならない。

最近は富津の辺りまで高速道路が出来ているので、南房総へのアクセスは非常に良くなった。途中、何かあるとパチリパチリと撮りながらの移動である。

さて、清澄寺というのは、杉だけの寺ではなく、日蓮宗のそれなりに大きな寺で、小さい門前町の様なものもある山中の名刹である。関東には、吉野や高野山、或いは長谷寺の様な山岳仏教名刹が少ないので、綺麗な空気と観光、というのがなかなか両立しないが、ここは小さいながら、観光に値する仏閣群がある。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
仁王像に守られた山門。日本の赤は美しい。
機材にケチつけてもと思うが、拡大すると右下は少し流れている感じがする。
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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
日本の紫。薄明かりに木が透けて見える。紫を上品に扱えるのは世界でも日本人だけだと思う。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
仁王様の手。荒れた手だ。邪気から寺を守り続けている為とストーリーを作ってみる。力がみなぎっていて、製作者の意図が良く判る。
うっかりしていたら、空は派手に白飛びしてしまったが、単なる背景なので構わない事にする。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
途中、山桜が咲いていた。色のコントラストが美しい。山桜って遠くから見て綺麗だなと思って、山を登って近くに寄ってみるとイマイチで、やっぱり染井吉野かなと思ったりする。遠くからで満足するのが吉。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
本日のメインイベント、清澄寺の大杉全景である。全高47mというトンでもない代物だ。右側の樹勢がイマイチなのは、台風の影響との事。

屋久島で、夫婦杉なる枝で連結した杉を見たが、杉は構造がシンプルで結構ええかげんな生き物だから、これ程大きくなれるのだろう。グルジアも杉が多い国だったが、今度は本場レバノン杉を見てみたい。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
その樹勢がイマイチな部分。確かに台風でもぎとられた傷跡が残る。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
近くの民家。月日を経て出来た錆が、あたかも元から有った模様の様に屋根を彩っている。瓦の仕上げの良さが成せる業だと思われる。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
新緑に赤が映える。美しい寺だ。もう少し露出アンダーで撮りたかったが。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
段々と日が翳ってくる。海が遠い。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
月も明るさを増してきた。右の木影は椿。僅かに赤いのが花である。

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[NIKON D50 /SIGMA DC 18-200]
あんまり狙わなくても、こういう逆光が綺麗に取れるのが一眼レフのいい所だ。夕闇に徐々に青空が負けていく頃である。春霞とは良く言ったもので、冬のキンキンに澄み切った空もいいが、こういう柔らかい光に徐々に増す温かさを感じる。

清澄寺は名前も素敵だが、その名前の由来がすぐ理解できる位、静謐の中に佇む寺だった。硬質な線で構成された赤い山門、伽藍など、一見の価値は有るが、全く観光地化されていない。こういう場所を育めるのも半島ならではである。日本も47都道府県を制覇し、色々な所を旅行してきたが、つくづく半島の先は、例えそれが首都圏であっても異世界が広がると思う。

複雑な海岸線、黒潮に洗われる温暖な気候、都市から隔絶された環境。色々な要素が組み合わさって、ここ南房総も独特の景色、趣きがある。ちょっとした非日常を味わうには距離的にも近いし、なかなかいい場所だ。