USENのライブドア買収スキーム

90年代終盤から21世紀初頭にかけて、連日過剰債務企業の整理のニュースが踊っていた頃、ゼネコンや不動産で、よくGOOD/BADに分けるスキームが流行った。事業を行うGOOD COMPANYと不良資産の処分を行うBAD COMPANYに分割し、GOODの方の売却益でBADの借金を返すか、あるいはGOODの方がヘルシーで居られる限界まで借金を引き継いで貰うかでBADの借金を減らし、最終的に資産処分が終了した時点で、残った借金は債権放棄されるというスキームである。

4月7日には、旧ハザマのBAD COMPANYである青山管財が、資産処分の目処が付いたので民事再生法を申し立て、債務の確定作業という終わりを見据えた作業に入って、懐かしい名前に思わず涙した。

この所、一部新聞にて報道されたUSENライブドア分割吸収スキームは、このスキームによく似ている。

ライブドア解体案が浮上 USEN、子会社化し清算
 有線放送・インターネット動画配信大手のUSENとライブドアの提携交渉で、ライブドアを優良な事業部門と資産管理会社に分離し、実質的に解体する案が浮上していることが12日、明らかになった。USENがいったん株式交換ライブドアを子会社化し、事業部門を分けた資産管理会社は将来清算するとの内容だ。ただ、ライブドアの株主から株式交換に必要な3分の2以上の特別決議が得られるかどうかわからないうえ、ライブドアの資産査定も終わっていないため、実現性は不透明だ。

 同案によると、USENが新株を発行してライブドア株と交換。事業部門を切り離すか、部門ごとの営業譲渡などで、USENがライブドアの事業を事実上吸収。残った資産管理会社がフジテレビジョンなどからの損害賠償訴訟にあたり、問題解決後は清算するという。

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違いは、ゼネコンスキームが、過剰債務という既にある債務をBADに残した訳だが、ライブドアは、株主からの損害賠償請求というこれから起こる債務をBADに残すという事だ。この報道によれば、一旦株式交換をして、残った資産管理会社が営業譲渡や部門売却代金を原資に訴訟に対応する事になる。

ライブドア問題の訴訟は、損害の立証は極めて困難だと思われるが、売名行為なのか本当に正義心に燃えているのか、弁護団が結成されている。僕は、最初から和解を目指すだのと弱気だったり、勝てるかどうか判らんだのと予防線を張るこの弁護団の姿勢には極めて懐疑的では有るが、それでも個人株主が1000人以上も集ったと聞く。1000人というと多いように思えるが、損害額は合計で数十億とかの話なので、フジテレビの345億の損害賠償請求と合計しても400億内外が株主からの訴訟による現時点でのリスクトータルである。

上場廃止時の株価は94円、時価総額は967億。USENがこの金額で株式交換した後、仮に400億全額が損失として裁判所から認められても(有り得ないと思うが)、株に967億、裁判で400億ということで、トータル約1400億、株価140円弱で買収したのと同じ事になる。株価は水物なので、色々な意見が有ると思うが、ライブドアの金融事業なども含めたトータルの収益力からみると、1400億は安いと思う人が多いのでは無かろうか。ライブドアは12月末で600億の純現預金を持っており、これを差し引くと実質は800億。ライブドアの前期の営業利益は120億、今期は200億以上を見込んでいる。減価償却が仮にゼロだとしてもEBITDAマルチプルは4-7倍、営業利益の60%が純利益としても、PER7-11倍程度である。

但し、仮に安かったとしても、これはライブドアという火中の栗のリスクを取ったUSENが正当に享受すべきリターンの様に思う。

あと一つ、USENの賞賛されるべき点が有る。株式交換をするということは、今のライブドアの株主がUSENの株主になるという事である。今のライブドア株主は、長期投資を旨とするまともな投資家というよりは、上場廃止というイベントに乗じて儲けようというハゲタカ顔負けのセミプロ個人投資家や投機筋が多いと想像される。そういう、どちらかというと短期志向の余り歓迎すべからぬ株主を、株式交換で自社株主に迎えてしまおうというのは、大した根性だと褒められていい。

僕個人としては、投資と投機は変わらないと思うし、この世界では儲ける奴とそうでない奴の二種類しか無く、まさに「数字は人格」だと思うので、儲け方で投資家の貴賎の別を作ったりはしないが、もし上場企業のトップとして株主と相対するなら、もう少しお手柔らかな人達とお付き合いしたいものだ。