堀江さん保釈

ついに、3ヶ月ぶりに元ライブドア社長の堀江さんが保釈された。

堀江被告、検察と全面対決したまま保釈
 逮捕から約3カ月ぶりに保釈されたライブドア前社長の堀江貴文被告(33)。東京拘置所周辺に200人以上集まった報道陣に「申し訳ございませんでした」と頭を下げ、ワゴン車で走り去った。創業したライブドアが「現時点では株主の一人という認識」(広報部)と距離を置く中、堀江前社長は検察と対決したまま、初公判に備える。

http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1893371/detaillivedoor News

ファンド業界、ひいてはバイサイド、M&Aといった世界の住民は、概ね堀江さんには好意的である。我々はバンカーという類に属するが、基本的にリスクテイカーを愛する嗜好の人々だからである。また、日々の仕事でも、バイアウトファンドやITベンチャーは特に2000年前後から勃興してきた業態であるし、外資投資銀行にしても存在感を増したのは90年代の中盤であり、共に日本の経済社会への新参者として、既得権益・硬直した常識に対し、自らの智恵を恃んで、法律が許すギリギリのフロンティアで戦い続けて、自らの世界を広げて来たことは共通している。
堀江さんは、そのギリギリのフロンティアから一歩向こう側に行ってしまった可能性は有るが、だからといって、憐憫の情を失う事は無い。
年が明けてから4ヶ月、ライブドアの話題が出なかった日は無かったと思えるほど、堀江さんが行ったこと、その法的解釈論はし尽くされた感が有る。実は、いま一般に報道されている内容に対して、違う分析、見解を自分は持っているのだが、これは書かないでおこうと思う。投資を生業としている自分が、近い世界に居た彼が用いた手法について、あれやこれやと書き立てるのは、マジシャンが同業のタネを明かす様な行為である気もして、ふさわしからずと思うからである。
さて、思い返してみれば、20年前にベンチャーの旗手として一世を風靡したリクルートの江副氏も贈収賄で逮捕され、その職を失っている。リクルートライブドアを比較すると、企業体としては遥かにリクルートの方が日本経済に与えた影響を大きいが、個人として時代精神に与えたインパクトは堀江さんが大きく勝る様に思う。
リクルートは、情報をどう企業が商売にするかという手法自体を発見し、広めた会社だと認識している。ネットに取って代わられた部分は多数有るものの、情報を買う側でなく、情報を出す側からお金を取るモデルを確立し、かつ情報を出す側をプロプライエタリーな大企業に限定せず、小口の個人や中堅企業の集合体からでも儲けられる事も証明した会社だ。対するライブドアは、株券を通貨代わりに使う時価総額経営を日本で初めて徹底的に追求した会社であるし、オープンソースベースで日本有数のトラフィックを安定稼動させているという技術的な側面もあるが、比べればリクルートの方が「時代を創った」のは間違いない。
一方で、そのトップの影響力はというと、江副氏の活躍を見て、アントレプレナーを目指したという人は少ないのでは無いか。逆に堀江さんは、起業を目指すかどうかに関わらず、その強烈な個を見て刺激されている同世代のビジネスマンは数多いし、優秀な人がリスクを取って起業を目指す世の中になりつつ有るのは、彼が成功者としての一つのモデルを提示した事が大きく貢献している様に思う。
今はまだ日本は、大企業主導の経済社会であるが、数年したらよりアグレッシブなアントレプレナーの存在感が増し、googleの様に社会を変えるインパクトのある会社が生まれているかも知れない。根拠は無いが、数年前の不良債権の山に呻吟し、今にも金融恐慌が起きそうな状況から状況が一変した事を考えると、これ位の変化は起きてもおかしくない。
団塊Jr.の後に続く僕の様なジェネレーションYに属する世代は、高校時代にバブルが破裂し、就職して以来「景気が良い」という状況が無かった世代である。そんな僕も、ようやくここ2年くらい好景気というものを実感し、金利が上がったり、レントが上がったりという、今まで無い変化に戸惑いながら、ビジネスに好景気というものをどう捉えて、入れ込むかというチャレンジをしてきた。言い換えれば、好景気の時にはどの様にビジネスを行い、如何なる投資をすべきかという事だが、そのチャレンジの過程で強く学んだのが、「過去からのトレンドで未来を予想するのは間違いだ」という事である。
書いてみれば当たり前の事だが、人間は生来トレンドフォロワーなので、物事が悪化しつつある時は、ついつい悲観的な未来を書きがちである。これが逆になるとバブルになる。しかし、現実は常に変化をしている。過去、日本にテクノロジー主導のベンチャー企業が余り生まれなかったからと言って、今後も生まれないと予想するのは愚かであろう。以前と比べて、起業する環境、テクノロジーが生まれる環境にはどんな変化が有ったかを冷静に考えてみて、それを基に予想を行うべきである。僕は割と楽観している。
数年後、日本に世界に誇れるアントレプレナーが何人も輩出したら、その時堀江さんは何と評されるのだろうか。業界は違うが、日本のマイケル=ミルケンは堀江さんだった、ときっと言われると僕は思う。