カリヨン、日本でファンドレイズ

以前、ソフトバンクによるボーダフォンKK買収の記事を書いた時に、フランスのカリヨン銀行の事を書いたが、今日の日経にはこのカリヨン銀行が日本でファンドをレイズして、バイアウトビジネスに参入する事が掲載されていた。400億円。1号ファンドのレイズとしては立派な規模である。

仏商銀系のCLSA、400億円で新ファンド

 仏商業銀行クレディ・アグリコール系の投資ファンド、CLSAキャピタル・パートナーズ(香港)は日本で未公開株投資事業に参入する。日本企業専用の総額約400億円のファンドを新設、消費財や食品などの企業に投資する。純粋持ち株会社に移行するなど事業部門を売却・再編しやすい組織に変える企業が増えており、投資機会を探して日本に進出する海外ファンドが相次いでいる。

NIKKEI NET

実は、このCLSAキャピタル・パートナーズの創業者のお一人とはお目に掛かった事が有り、前職を辞められたご挨拶の葉書が来ていたので、大体のところは知っていたのだが、割と短期間に大規模なファンドが出来たものだと感心する。400億位の規模だと、ファンドビジネスはかなり安定的に営めると思う。

バイアウトファンドは、大体において年間の管理報酬と案件毎の成功報酬の2つが収益源になっている。管理報酬ってのは投信の信託報酬みたいなもんで、プライベートエクイティ絡みの本にも書いてある通り、大体相場は1-2%だと思われる。これが仮に1.5%とすると年間6億のrevenueは確保されている事になる。一方でコストはと言えば、4-5人で立ち上げるとすると50坪位のオフィスと必要経費位が人件費の他に必要だろうから、そんな赤字になる程では無い。

例えば、

オフィス:月坪30,000円 × 50坪 × 12ヶ月 = 1.8億円
人件費:平均2000万円 × 5人 = 1億円(こんなに掛からないと思うが)
必要経費:一人当たり1000万円 × 5人 = 0.5億円

てな感じで、合計しても6億には大分差が有ることになる。

CLSAの事例を離れて、バイアウトファンド一般に話を敷衍して損益分岐点を考えてみると、人数的には、代表1-2名、アソシエイト2名、経理事務1名の4-5名はファンドをやるにはミニマム必要だろうから、オフィスコストをリモートな場所にするなり、インテリジェントビルをギブアップするなりで効率化したとしても、ファンド規模200億くらいがポイントになるだろうか。

という訳で、僕でもうっかり200億のファンドをレイズしてしまえば、しばらく案件出来なくても、一般的にファンドライフである10年とか12年とかは食えてしまうのである。これが、「バイアウトファンドは死なない」と巷間言われる事の本質である。新聞報道では、今後過当競争でファンドの淘汰が進むなんて暢気に書かれているが、割とルースに資金解約の出来るヘッジファンドとバイアウトファンドとは少し状況が違い、金余りの時に勢いで出来てしまった実力の無いファンドが仮に有ったとしても、実際にはなかなか淘汰されないのである。

さて、国籍に目を転じてみると、欧州系のファンドというのはそれ程多くない。日本では黒船来襲とばかりに米欧が一緒くたに語られるが、バイアウトはアメリカが本場である。欧州系のファンドだと、有名どころではペルミラ(旧シュローダー・ベンチャーズ)、CVCキャピタル、ファンドを作るという話は有ったが出来たという話は聞かないベルギーのフォルティス位が、日本で名前を聞く所である。CLSAはその数少ないケースの一つという事だ。特にペルミラとCVCはイングランドのファンドだが、CLSAは大陸欧州がオリジンである。

僕は、アメリカのファンドの仕事を見たことが有り、流石に20年を超える歴史があるパイオニアなので、ノウハウには一日の長が有るなと感じたが、大陸欧州のファンドはどうだろうか。金融業界全般で見ると、英国のマーチャントバンクや運用機関には長い歴史とノウハウが有るし、チューリッヒの小鬼たちも独自の地位を築いている。但し、98年にドイツ銀行に買収された米バンカーストラストのバンカーが、ドイツ銀行にRAROC(Risk Adjusted Return On Capital=リスク控除後投下資本利益率)の概念はおろか、部門別収益管理すらままならない状況で驚いたという話が示す通り、英国とスイスの両国と、その他の大陸欧州では大分金融の発達度が異なっていた様に思われる。しかし、大陸欧州系のバイアウトファンドが日本に出てきたという事は、少なくとも日本よりは大分matureな状況なのは明らかであろう。

では、日本の運用機関が、今後海外に出て行く可能性は無いのだろうか。僕は、日本のトップティアのバイアウトファンドも、海外に進出して成功する位の気概と戦略が有っても良いと思う。その観点でいくと、バイアウトでは無いが、不動産投資のクリードがベルリンオフィスを設けて欧州で投資を開始したなんてのは心強い話である。開設チームの一人が知り合いという事も有るが、是非成功して欲しいものである。また、スパークス・アセットマネジメントが香港の会社を買収して、香港での運用に進出している。

日本から見るとアジアでも欧州でも海外展開の難易度には差が無いように思われるが、オイルマネーや米欧の年金資金にとってみると、アジア・パシフィック タイムゾーンにおけるバイアウト投資のワンストップショッピングが出来るのは、意味がある様に思われる。彼らからは、far eastはやっぱり遠いし、そこでトラックレコードを積むファンドが一まとめにfar eastをカバーしてくれるというのはバリューがあるだろう。こんなファンド自体の経営戦略として次の一歩を考えられるというのも、自社にトラックレコード(投資実績)が積み重なって、目の前の案件を追う以上のことを考えられる余裕が出てきた証拠であろう。実感としても、1年位前まではとにかく案件をどう獲得するかに追われていたけれども、最近は余裕が出てきて、この余裕が打ち手に繋がり、さらなる実績を呼ぶという好循環に会社が入りつつある感じがしている。バイアウトファンドってのは間違いなくグロースインダストリーだから、それ特有の面白さってのは有る。matureな日本の産業界では結構稀有な体験をしている様に思う次第である。