すかいらーく非上場化

bohemian_style2006-06-23


 すかいらーくTOBが始まった。ワールドを上回る国内最大のMBOディリスト案件である。先ほどブラジル戦を待ちながら、数分ぴっぴとプレスリリース等を見てみたら、結構公開情報で判ることが多く、なかなか興味深かった。
 要は、こういう話である。

すかいらーく、2700億円超の国内最大MBOで非上場に

 すかいらーく<8180.T>は8日、野村グループとCVCキャピタルパートナーズからの出資を仰ぎ、経営陣による企業買収(MBO)を実施すると発表した。成立すれば東京証券取引所に上場する同社株は上場廃止となる。全株式を取得した場合の買収金額は2718億円に上り、MBOとしては昨年のワールドをこえる国内最大となる見込みだ。

 横川会長兼最高経営責任者は同日午後、抜本的な事業再構築に株主の信任を得るにはMBOが最良の選択肢と強調。既存店を軸とした事業立て直しに3年半から5年でめどをつけ、将来の再上場も選択肢にする考えを明らかにした。

ASAHI.com

買付価格による株式価値は2,718億、B/Sを見るとネットデットは756億である。そうすると、

という事で、企業価値(EV)は、3,472億である。大きな規模のディールだ。

これがM&A的に高いか安いかというと、直感的には高めだ。EBITDAは330億で、Free Cash Flowは直近を平均してならすと160億なので、

  • EV/EBITDA Multiple : 10.5倍
  • EV/FCF Multiple : 21.7倍 (=割引率4.6%)

ということになる。Entry EV/EBITDAが10倍を超える案件は通常ターンアラウンド案件であり、すかいらーくはそうでないから、ちょっと高いなという感じがする。また、不動産投資と違って、M&Aでは余り割引率の様な単純なキャップレートを見たりはしないが、値段の水準感を見るには便利である。今回4.6%ってのは、日本のとても安い金利を勘案すると、シナジーとかFCFにアップサイドが通常有る事業会社ならギリギリ正当化できる範囲という感じだが、ファンドが出すには勇気が必要な値段である。

NPF(野村プリンシパルファイナンス)は証券会社の自己勘定投資なので、上場企業或いは競合他社以上のROEがハードルレートとすれば、この水準でも合理的なのかも知れないが、co-investorのCVCは、本国では赫々たる実績を残す素敵なファンドなので、我々と違う高値を出す人達ではない。では、なぜ儲けられるかというと、経営改善を大きく見込んでいるのだろう。
 報道によれば、NPFが1000億・CVCが600億・経営陣が50億で合計1,650億を買収目的会社に出資するとのことなので、これが新株主の投資元本である。今期の営業利益が185億なので、利払を勘案すると純利益は大体100億を切る位であろう。細かい計算は省くが、1,650億の投資に対して、PER20倍ついても2,000億では余り儲からない。バイアウトは、オルタナティブ投資である以上IRR25%位は狙いたい所で、3年間25%で回すと元本は2倍位にはなる。ということは、時価総額が3,300億位になる必要がある。再上場後のPERを20倍と想定すると、これを実現する為には、150億少しの純利益が必要だと思われる。これは前期の1.5倍を超える数字である。
 この、純利益が3年とか5年で1.5倍になるという前提だが、なかなか示唆深い事の様に思われる。我々バイアウトファンドというのは、投資後実際に経営改善を行って、その価値を享受する事業である。従って、バイアウトファンドが投資してから発生する経営改善効果を、投資時に織り込んでプライシングするのは、投資前の株主に投資後の努力を還元してしまう行為を意味するので、余り行わない。よって、今回の様な案件でも、かなりファームに固まった経営改善計画が有って、ファンドがそれ程汗をかかなくても十分実行可能と確信が持てているのだと想像される。
 小売や外食は、既存業態の拡大や新業態開発による出店が、オーガニックなほぼ唯一の利益成長ドライバーである。従って、サチュっていない新業態とかだと3年後に純利益1.5倍でも違和感は無いが、すかいらーくの業態はクラシックで、出店余地はもう無いと言っていいと思う。これについて、すかいらーくの会長は、リニューアルなどを考えていて、既存店の売り上げを持ち上げたいと述べている。ファミレスの限界利益が何%かは知らないが、既存店の売上増で純利益1.5倍ということは、既存店売上は少なくとも「割」の単位で増加が必要だろう。その様な強い売上増を達成する為には、そうとうエッジが立って、差別化されているコンセプトが必要だし、このコンセプトの存在がきっと投資判断のキーになっていると思う。この既存店リニューアルは順次実行に移されていくのだと思うが、すかいらーくは消費者の目に見えやすい業態だから、どんな手なのか注目している。小売・外食は裾野の広い業態だから、それはきっと、自分の次の投資の時に役立つインサイトを提供してくれるだろう。