メキシコに学ぶこと
マキシ=ロドリゲスの、こいつはどうしようもないね、という豪快な一発でメキシコはアルゼンチンの前に沈んだ。決勝トーナメント一回戦は好カード目白押しだが、僕はコンフェデに続くメキシコ VS アルゼンチンが随一の組み合わせと思って、今日は朝まで起きていた。
「試合巧者」を絵に描いた様な2チームである。特に守備、ボールの奪い方が素晴らしい。アルゼンチンの守備はアジャラ・エインセをセンターバックにした4バックだが、後半メキシコが前半の1トップ2シャドーからボルヘッティの位置にフォンセカを上げると、きっちりスカローニを下げて3バックにしてスペースを消している。この時は、3-3-2-2の様な形になって、アイマールとリケルメの共存というのが見れたのだが、流石に守備的MFが1名だとルーズボールが拾えなくて、メキシコの時間帯になった時もあった。パサーが低い位置に2名揃ってもあんまり役に立たない事が良く判る。
アルゼンチンの守備の特徴は、この動的な3バック⇔4バックの切り替えをサイドの選手で行うことと、守備的MFとDFの間を5-7m程度の等距離に保って綺麗な2列を形成することである。これによって、相手に与えるスペースを機械的に消している。これぞアルゼンチン、という固い守備だ。
一方でメキシコはDF登録がなぜか6人もいる妙チクリンなメンバーだったが、白眉は鴨川の川沿いに並ぶカップルもかくやという等間隔のポジショニングである。ボールが真ん中に来ればその間隔は急速に縮まって危険なスペースを消すと同時に、2-3人で囲んでボールを取りに行く。逆にサイドに展開すれば、間隔は綺麗に広がってフリーの選手を作らせない。このオートマティズムはマスゲームを見ているかの様に美しく、これが「メキシコの守備は粘っこい」と見ている人に思わせる主因の様に思われた。
メキシコの選手は、バルセロナのマルケスとボルトンのボルヘッティを除けば殆どが国内リーグでプレイするので、全く無名なのだが、こういうオートマティズムを実践できるからには余程代表チームが、時間を掛けて鍛錬されたか、或いはメキシコリーグに共通した守備方法なのだろう。
あと、両チームに共通して言えるのは、ボールを簡単に失わない事である。ロングパスを柔らかく体の下に落として、プレッシャーを掛けられても相手に取られない技術が全員にある。また横パスも速いグラウンダーだけでなく、ふわっと相手の肩近くを通すパスも取り混ぜて、相手に最も取られない様な球質をきっちり選んで出している。トラップも次にロングパスを出す時は体の正面に、切り返して相手を抜く時は勢いを消すだけで前に出し、ショートパスなら小さく体の下に出す等、多彩である。また、全てに亘って、判断がとにかく早く、ダイレクトでプレイが続く。
これらの、
- 動的な守備
- プレッシャーが掛かる中でボールを失わない技術
- 速さ、ダイレクトプレイ
という要素は、両チームが備えるもので、これによって質の高いゲーム運びが実現されていたが、ひるがえると我が代表チームに欠けているものばかりである。アルゼンチンは世界的な名手が揃っているので、これに追いつけってのは余りに高い目標だと思うが、メキシコは国内リーグの選手が多く、フィジカルも日本人と変わらないので、十分追いつける筈だ。この国のサッカーは、前回ワールドカップでも極めて印象深かったが、ウーゴ=サンチェス以降攻撃面での絶対的なストライカーを欠いているにも関わらず、堅い守備とボール運びで4回連続16強以上という実績を残している。
僕は、日本人が学ぶべきはブラジルの創造性やフランスのエリートシステムでは無く、こんなメキシコの基礎技術とオートマティズムでは無いかと思うのである。