メゾン・ド・ウメモト 上海

この西麻布の店に行ったのはもう4ヶ月も前だ。
何でそんな昔に行ったレストランの事を書こうと思ったかと言うと、テレビにここのシェフが出ていたからである。梅本シェフ、26歳。24歳で独立したらしい。
結構毒を吐く人である。

  • 最初7,000円でコースを出していたが、素材と自分の才能に合わせて10,000円からにしたら人が予約の取れない店になった
  • 15,000円以下で美味しいものは食べられない

言いますな。
その番組は、初めて見た「花の料理人」とかいうので、今日は若手シェフを集めてロンブーとまちゃみが絡んでいた。

  • 若手?おっさんばっかじゃないすか。

とか言い放つ梅本シェフを前にすると、ロンブーもヌルく見えてしまう。

かと言って、彼が単なるビッグマウスでは無い。実際彼の作るご飯はとても旨かったのである。結構中華ってのは難しくて、そこそこ高い店は腐る程有るが、なかなか吉兆とかロブションと同等に語れる味も雰囲気もサービスも名声もトップエンドな店は少ない。福臨門と龍天門位だろうか。僕は、この梅本シェフのお店、「メゾン・ド・ウメモト 上海」は、この東京の高級中華料理の双璧「ツインゲート」に割って入るべきお店だと思っている。
ここの名物は、上海蟹の蟹味噌坦々麺なのだが、これがまさしく絶品。コース料理の中の一品なので、量は少ないが、その濃厚な味にぷるぷる震えてしまった。あと、特筆すべきは高級食材の扱いの上手さ。フカひれも、鮑も極めて贅沢に使って、独創的な料理に仕上げてくる。傲慢に自分の価値観を押し付けてくるが、それが旨い。料理人の世界観が立っている。そんな第一印象を持った。
料理の豪華さに比べて、内装は相当抑制的で、悪く言えば高級店にしてはしょぼいと思う人も居るかも知れないが、僕はあまりゴテゴテした中華料理店の伝統的な内装は好きではないので、好感を持った。
そんなこんなで、僕にとっては、麻布十番「富麗華」と並ぶ中華のお気に入りのお店である。今日はテレビで、あれやこれやと豪語する彼を見て、ふと鮮やかに4ヶ月前を思い出した訳だが、むしろこういう人物が作っていたのかと反感というより興味を持った。傲慢に旨さを押し付けてくる、という第一印象の通りの人柄である。洗練という美名の下に小粒になりがちな現代の日本社会では、こういう人物は貴重だ。
伝統的中華は古臭い、かと言ってヌーベル・シノワは軽すぎると常々思っていただけに、彼の様な実力も自信もあるシェフに、東京の中華マーケットを革新して欲しいと思っている。番組の中で、10,000円のコースも安すぎると思うので、これから15,000円をボトムにして客層を絞りたいと言っていたが、彼がやりたい事からすると妥当な方向性の様に思う。それでも、旨ければ客は来るし、客筋が絞られれば、雰囲気も洗練される。
気軽に行けなくなるのはちょっと痛いが、楽しみである。