不動産ブームはいつまで続くか

誰が見ても不動産はバブっている。僕が住む麻布十番も然り。この前更新だと言うので、不動産の更新だけはしてくれるなという家訓を持つ僕は、あちらこちらを見て回ったのだが、今住んでいるマンションより、狭くて古くて5万円高いとか、そんなのばっかりで、結局11年ぶりに更新をする羽目になった。大体、隣のマンションの同じくらいの広さの部屋で10万円違うのである。幾らあちらが新築とは言え、有り得ない差である。
そんな生活者の実感の様なミクロな話の反対側でも、同じ結論が出る。不動産投資家というのは、お金を借りてきて不動産を買い、金利よりも高い収益で回れば儲かるという業態なので、不動産投資収益率から金利を引いた投資家の想定利回りがマクロ的なバブり度合いを示すものと考えられる(いわゆるイールド・ギャップ)。この利回りがかなり縮小しているのである。縮小しているという事は、不動産に投資しても儲からないという事なので、即ち価格も頭打ちという事である。
ここからもう少し詳しく書いてみよう。不動産投資収益率は、不動産からのコスト差引後純収入を購入価格で割ったキャップレートが主に用いられる。これは純収入が金利と考えた場合に、購入価格が元本として、何%で回っているかという事を示す。
また、不動産はネイチャーとして長期投資の為、金利長期金利を用いるのが普通だ。不動産投資家の主な資金源である不動産ノンリコースローンは、極めて厳しいアファーマティブコベナンツが付くのが通常で、スワップなどによって固定金利で借りさせられる事が多い。従って、長期固定金利であるスワップ等の長期金利を用いるのはメイクセンスする。
さて、構造を明らかにした上で、今の都心部のキャップレートはと言うと、3%台と言われている。地価が反転する直前の03年ごろには6,7%と言われていたから、この間に不動産価格は倍になった計算だ。一方で長期金利は上がっている。今の10年のスワップ金利は約2%だ。この数字をもとにすると、イールドギャップは1%ちょっとという計算である。クレジットスプレッドを考えたらペイしない水準になってきつつあるのは明らかだ。欧米でも大体イールドギャップは1%前後だから、この意味でも限界点は近そうだ。
ただ、これだけの情報から、そろそろ地価上昇が終わると結論付けるのは、ちょいと早計である。上記は現状を所与とした議論で、その前提であれば正しいのだが、現実には今は賃料が上昇基調にあるからである。今の賃料ではキャップレートが3%でも、賃料がじわじわ上がっているのを織り込めば実は4-5%で回っているという事も有り得るという事だ。麻布十番の地価だけでは無くて、オフィス賃料も総じて上昇している現在においては、この値上がりを見込んだ価格が付いていてもおかしくない。
そう考えると、賃料は景気次第なので、好景気が続き、陣容を拡大したり、より設備が良いビルに移って生産性を上げようという企業が増えれば賃料も上がっていくし、逆に不景気になればコストカットプログラムの中で、賃料は最も槍玉に上がりやすい費目であるから賃料相場も弱含むだろう。つまり、今この時点でもっと景気が続くと思っている投資家がそれなりに居れば、賃料の強含みに期待して更に買い進み、より地価が上がるという事も有り得るという事だ。
ただし、ここから上がるにしろ頭打ちになるにせよ、長く続いた不動産が他の投資対象と比べて明らかに割安で魅力的なプロダクツだった時代は終わりを告げたのは間違いない。株式と同様、相場の見方で運用の巧拙が分かれる、普通のプロダクツになったという事である。