最適の日帰り紀行

 三連休の初日は、ふらっと房総半島に息抜きに行った。フルにツーリングというのもプランにはあったが、ちょっと週明け重めのセッションがあるので、これを片付けてから行くことにする。その「片付ける」為の景気づけに初日は近場に息抜きに出た。
 エコノミクスとしては批判されがちな東京湾横断道路だが、港区民の僕は芝公園から湾岸に出て、家からものの20分でアクセス出来るので、よく利用している。家から40分でもう辺りは富津の漁村、木更津の田園風景である。このワープ感は極めて価値が高い。富津、木更津、君津。津の付く地名が連なる所に、この辺りの街の歴史的な成り立ちが垣間見える。
Reserved forest at Chiba.
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • お寺の周りは歴史的な禁伐の掟が守られていて、西日本の様な暖帯の植相が守られている。箱根の東では珍しい木も多い。しかし、落葉樹も混じる複雑な構成ゆえ、森は暗い。西日本の照葉樹林の様な、明るく、からりとした森では無い。

 今回の目的は笠森観音である。ここの存在を知った時から行ってみたかった所で、要は清水の舞台が千葉にあるようなもんである。その特異な造形は、殆ど同じ首都圏に属する東京の人に知られていない。少し前に同じ房総の清澄寺の巨木を見に行ったときも思ったが、我々は意外に地元の事を知らない。映像メディアは、どうしても大鑑巨砲主義で、メジャーな所をとりあげがちだから、それしか情報アクセスが無いと、近くのいいものを見落としがちになる。
Kasamori Kannon-Do
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 空はなかなか難しい被写体だが、ちょっと不自然な絵になってしまった。こういうハイライトが強い構図は、オリンパスとかの方がいい色が出るだろう。

 この笠森観音の建築手法は、四方懸造という日本全国でここにしかない特異なものである。近付いて間近にその構造を見るとますます驚く。巨大な岩に木の足組みを組んで、その上にお寺がへばりついているのである。鳥取三徳山投入堂も崖にに木の足組みを組む、なかなか軽快な構造だが、僕はこの笠森観音も勝るとも劣らないユニークさがあると思う。開祖は最澄、なんと784年と伝えられる。由緒ある寺である。なかなか普段1000年より前の年号に触れる機会は無いので、700何年とか、こういう数字を見るとお得な感じがする。この観音堂は、1028年の建立なので、平安中期のものである。鎌倉位まで来ると日本も中世に入り、関東も辺境から脱して文化の香りがしてくるなと感じるが、藤原氏全盛の前なんてのは、殆ど古代みたいなもんだ。その古代の東国で、この様な個性的な木造建築を作っていた昔の日本人もなかなか凄いし、それが1000年保っているのも、特筆に価する。
Bell
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 古代の建築だと、鐘の一つも趣きがある。

Sky scraper of prayer
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 青空に映える塔頭。もう少し絞って撮るんだった。

 今日は静かでクリアに空気が澄んだ、気持ちの良い日だった。観音堂の外廊下で風に吹かれながら、下界を見下ろすのはなかなか贅沢な時間である。こういう知られざる観光地は、人が少ないのがいい。三連休の初日だが、数えられる位の人しか居ない。豊かな午後のひと時で、ガーナから帰ってドタバタの2週間で、すっかり重くなった頭の芯が少し軽くなった感じがした。