グラミン銀行にノーベル平和賞

 バングラディシュのグラミン銀行創始者ノーベル平和賞が授与された。グラミン銀行というのは、ちょこっとNGO/NPO関係とか開発経済学とかを勉強して、国際協力銀行やJICA、或いは外務省を目指す(した事のある)人には極めてメジャーな存在で、要はバングラディシュの無尽である。女性などの社会的弱者が僅かな手元資金の不足により、高利貸しに頼ったり、困窮している事態を解決すべく、グラミン銀行創始者であるムハマド・ユヌス氏が低利かつ信用で借りれるマイクロクレジットと言われる小口金融を始めたのである。

ノーベル平和賞バングラデシュのユヌス氏
 ノルウェーノーベル賞委員会は13日、06年のノーベル平和賞を、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏(66)と同氏が創設したグラミン銀行に授与すると発表した。
 同委員会は、受賞理由について「貧困解消に貢献した」と述べた。
 ユヌスさんは、83年に貧しい人たちのためにグラミン銀行を創設。担保がなくても小口融資で融資を受けられるようにし、人々に貧困からの脱出を支援した。

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 ユヌス氏が工夫をしたのは、地縁を主にした5人からなるグループを単位として、連帯保証しあう仕組みを導入したことである。これによって、地縁によるディシプリンが借り手に発生し、デフォルトによる地域での面目丸つぶれというリスクを避ける為に借り手は一生懸命働き、地域は色々と借り手に対してアドバイスをし、結果として返済の確率が上がるという次第である。グラミン銀行の資金のどの程度が預金で賄われているかは知らないが、預貸率が100%に近い、乃至は切るのであれば、日本近代の五人組制度、隣組といった相互監視制度の上に、無尽の様な組合金融が組み合わさったものと考えればそうは間違いは無いだろう。ちなみに、グラミン銀行の期日返済率は98%に上るらしく、これは日本の消費者金融のデフォルト率よりも低いのでは無いだろうか。15%とか20%とかの金利を取って、デフォルト率が2%を切るという産業が存在し続けられるとは思えない。
 この様な仕組が成功して、貧困が減少しているのは誠に結構なことだが、これがマイクロクレジットの発明(再発見?)によるノーベル経済学賞では無く、ノーベル平和賞というのが面白い。キリスト教圏の平和賞がイスラム圏に授与される。これは、世界に蔓延し、平和を脅かすテロリズム自体が貧困の反動であり、貧困を撲滅する事こそテロリズム撲滅、すなわち平和実現の王道と考えた先進国の人々が、テロリストを多く輩出するイスラム圏で最も貧困撲滅に活躍している人を表彰したのだと考えるのは穿ちすぎだろうか。
 この貧困さえ無くせば平和が訪れるというのは、極めてミもフタも無い話ではあるが、一面真実とも言える。80年代にテロの猛威を振るった北アイルランド独立派のIRAがもはやテロ組織では無いというニュースが最近流れたが、80年代に10%台の後半だった北アイルランドの失業率が、今や5%を切るという経済の状況とこの組織の変質は無関係では有るまい。豊かになれば人々は富を守る為に保守的になる。だからと言って、頼むからテロを起こさないでくれと、先進国の人々が途上国で貧困撲滅の為に頑張っている人を表彰するという構図が本当なら、かなり滑稽な事ではある。
 ただ、表彰する側がいかに滑稽だとしても、グラミン銀行の果たした業績にはいささかの曇りは生じない。このニュースを見て、僕が法律を学ぶ学生だった頃に、日本の経済復興に自分が貢献するなら官ではなくやはり民の立場からだと確信して、志望を官僚から民間金融機関に変更した理由の一つは、グラミン銀行の存在を知った事だったのを思い出した。10年前からバングラディシュ国内のみならず、極東の一学生にまで影響を与える存在だったし、上述の皮肉はおいておくとして、今や世界の平和に対して貢献する組織にまで重要度を増しているのである。