城崎にて

 東京ではそれ程有名とは言えないが、関西では良く知られた日本海沿いの情緒あふれる温泉街、城崎温泉に行ってきた。東京でここにずばり該当する街を挙げるのは難しい。鬼怒川にしても、草津にしても、伊香保にしても、東京近郊の温泉街というのは、巨大な観光ホテルが聳える大きな街であるが、城崎は小さな温泉旅館主体の街である。かと言って秘湯という訳でもなく、古くから開けた街ではある。強いて挙げれば、白骨温泉みたいなものだろうか。また、「週末、城崎温泉に行って来た」という台詞の「城崎温泉」を何に変えると東京で同じ様な反応が得られるかと考えてみると、軽井沢が近いかも知れない。一泊二日に最適な距離で、かつ独特の雰囲気があり、行って恥かしくなく、何となくみんないいね、と反応してくれそうな所が似ている。街の規模は勿論、城崎の方がぐっと小さいのだが。
 実は友人夫妻がこの近くに住んでいる。ずいぶんと長い間、関西に行く折が有ったら、友人夫妻との再会かたがたこの温泉街を訪ねようと考えていたが、ようやくこの秋の機会に訪れることが出来た。伊丹空港について、車を借りて、そこから昼ごはんに出石蕎麦とか、寄り道をしつつ5時間の距離である。東京からだと片道6-7時間だ。結構気合が要る。

Yukata in Kinosaki
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 城崎は外湯が有名で、湯治客は浴衣を羽織って街を歩く。鮮やかな色浴衣はシックな町並みによく映える。

Kinosaki town
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 街は川を挟んで二分される。温泉街の物理的な配置自体は、東日本では山形の銀山温泉が近いかもしれない。

Taisho roman
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 温泉の始まりの言い伝えは、聖武天皇とかが出て来る関西ならではのえらい古い話だが、この街を特徴づけているのは、こんな大正モダンな匂いである。

Kinosaki Danjiri group
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 期せずして、だんじり祭りの日だった。この「警護」と呼ばれている、だんじりの進行指揮する役目の人々は、黒づくめでおもしろい格好である。書生風とも、バンカラ風とでも言える。やっぱり志賀直哉な感じなんだろうか。いい街並みに、ユニークな文化ながら、この電線だけは日本の風景から何とか消したいといつも思う。

Danjiri collection
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 神社に集結して奉納されている所。山車が傾いているのは、何度も右左に傾けるアクションをしている為。

Danjiri Dashi
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • これが山車。なかなか精巧な作りである。

Onsen temple
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 城崎温泉市街にある温泉寺。中には重文の11面観音と四天王がある。平安後期の作。びっくりする程近寄れて、かつ人は全然いないので、仏像好きは必見。

Chairs
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • こういう陰のある孤独なモチーフは好きである。城崎美術館にて。展示は仏教美術中心で、なかなか面白い。狩野正信の掛け軸があり、触ってはダメだが、触ろうと思えば簡単に触れる距離に展示されている。

Cosmos
[NIKON D80/Tokina AT-X M100 PRO D 100mm F2.8]

  • 城崎を離れて、ドライブしていた時に見つけた一面のコスモス畑。確か国道9号沿い、和田山の近く。あんまりお花マクロは撮らないのだが、夕暮れ時の暖かい光がうまく出たと思う。

Bited leaves
[NIKON D80/Tokina AT-X M100 PRO D 100mm F2.8]

  • 何か、この複雑な輪郭に合致するものをこの世から探したくなる。

Saruo Fall
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 日本100名瀑の一つ、猿尾滝。100名瀑コンプリートは旅人の良くある目標の一つ。僕はようやく3分の1位か。ここは、落差は余り無く、急峻で平たい岩の表面を滑り落ちてくる、どちらかというと急流の切り立ったやつ、という感じである。なかなか面白い。岩がえぐれて無いので、比較的新しい滝と見える。

Holl is sky
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 森の切れ目から空が見える。滝の近くだとよくこういう光景に行き当たる。きっと、こういうのを見た人が、ステンドグラスとゴチック教会を作ったので、みな教会に行くと、上をあんぐり見上げる羽目になってるんじゃないかと想像する。

View of Amarube great bridge
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 自分は旅行マニアではあるが、鉄分は低いと自認している。その僕でも知る余部鉄橋(正式名称:餘部橋梁)である。20世紀初頭の山陰本線開通時における最大の難所であり、昭和61年には、強風でこの鉄橋から電車が落ちるという悲劇もあった。しかし、よく見なくても、こんなもんよく明治時代に作ったなと驚く構造だ。この鉄橋も、今月から架け替え工事が始まり、いずれ風情の無いコンクリート橋に生まれ変わる。結局、この上を電車で通った事は無いまま鉄橋時代は終わりを告げそうだ。山陰本線は、余りに本数が少ないので、通るのが非常に難しい。以前、関釜フェリーで朝下関に着いた後、北の山陰線周りはどうかと検討した事が有るが、一日経っても浜坂止まりで山陰線すらコンプリート出来ない事が判明して断念した。山陽本線なら静岡の実家まで帰りつけるのに。・・なんか書いてて、文章に鉄分が増えてしまった。

Amarube great bridge
[NIKON D80/TAMRON A16 17-50mm F2.8]

  • 青い空に赤い橋。このコントラストが素晴らしい、と思いきや盛大にゴーストが発生。これだから純正じゃないレンズは・・と機材のせいにしてみたが、レンズフードを付け忘れていたのを思い出した。

 道というものは、都市と都市を結ぶもので、その道の大きさと道から地域への影響度というのは両端の都市の大きさに比例する。その観点では、若狭湾から京都、兵庫、鳥取に至る日本海側は、日本でも指折りの人が少ない地域であり、道は細く、まだまだ独特の文化が残されている。街道を行くだけでも面白いし、東京からはちょいと遠いが、ゆっくりとこの辺を旅するのは、旅に飽いた旅人にこそお勧めだ。
 冒頭にも書いたが、近年になって、東京の膨大な需要を当て込んで大資本主導で開発が進んだ関東の温泉や、人が少なく歴史も長くない東北の秘湯に慣れると、こういう関西の古い歴史は有るが、小さな旅館しか無い様な温泉街はとても新鮮で、外湯につかりながら、その様な成り立ちの違いを考えるだけでも楽しかった。