業績予測できるかな?

 この会社を買いませんか、という案件紹介の時に、必ず付属するのが業績予測である。この確からしさはデューディリジェンスで勿論検証され、下方修正するべきはしていくのだが、M&A業界の慣習的に、売上の伸びは提示されたものよりも大分現実的になるが、呈示されたコスト削減策などは出来そうな分を採用するのが通例である。よく、前職でそんなデューディリジェンスをやっていた。結果、売上は伸びないが利益はなんとなく微妙に伸びていくなんていう修正業績予測になりがちだ。こんな業界の慣例的業績予想の時、果たして何がリターンの源泉であるかというのは面白いイシューである。
 LBOファンドなんだから、デットの返済でしょ、というイメージがあるかもしれないが、実はそうでは無い事が多い。上記の様な修正業績計画を作り、それが仮に年率5%位のEBITDA成長率だったとしよう。そのケースで、大体買収価格のEBITDAマルチプルが8倍位だとすると、1年当たりEBITDAの40%分株式価値が増大する。これは一部複利で効くから、2年と半分位でEBITDA倍率1倍分のリターンが株式出資者には発生する。これ位のインパクトがあれば、借金を返すより遙かにリターンが上がることになる。
 もちろん、不確定要素のある業績改善なんぞ見なくて、フラットな予測を元に算出した価値で会社を買えれば、それに越したことは無いが、今は大抵の案件がオークションだから、それではファンド間の競争に勝てない。ゆえ、出来そうな改善というのは業績予測に採用して、その分価格に織り込まざるを得ない。理屈としては、既に立案済の策はファンドが出したバリューでは無いので、立案時のオーナーに価値(の一部がと言いたいが、実際は殆ど)が帰属するということである。そして、当然の帰結として、首尾よく落札すると、採用した改善を本当に成功させないとリターンが上がらない、という状況にディールチームは直面する。
 この辺の状況は日本だけではなくて、一緒に仕事をした海外のファンドも同じ様に業績予測を作っていたので万国共通であろう。これは、安く買えない限り、業績を改善しないと商売にならないということで、バイアウトファンドには宿命的にフィナンシャル・エンジニアリングと業績改善の双方が必要とされるのである。という訳で、バイアウトファンドってのは、投資後実際に経営者と一緒に実現しないといけないという、後工程に極めて手の掛かる、気の長い投資スタイルだってことは間違い無い。同じ株式投資なのに上場株トレーダー出身の人がこの業界に殆ど居ないのは、そのせいかも知れない。流動性は低い、手間は異常にかかる、ロットも小さい、というバイアウト投資の世界は、その逆の上場株投資の世界を一旦知ってしまった人からすると理解不能なのは想像に難くない。そんなハンディがあるから面白いと思いたい所だけれども。