メルシャン売れちゃった。

 いつか出る出るとM&Aマーケットでは言われている「出る出る銘柄」の一つ、メルシャンの嫁ぎ先が麒麟麦酒に決まった様だ。メルシャンは、業績が下降傾向なのは気になるものの、昨年ぐらいまでは株価が実に割安なのと、大株主味の素と全くシナジーの無い業態とで、M&A担当者ならみんな一度は売り手に立ちたいと目を付けていた銘柄である。ただ、今年の初めにポーンと上がって、とても買えない所まで行ってしまい、少なくとも僕は興味を失っていた。その後、じわじわと下げてきたなとは思っていたのだが、このTOBである。大株主の味の素は既に同意済なんて書かれていたから、味の素がTOB前提のオークションをしていたのだろう。でなければ、昨日まで260円の株に370円なんていう猛烈なプレミアム価格がつく筈が無い。
 メルシャンは、EBITDA50億、FCF15-20億という小ぶりの会社である。ネットデットが70億あるから、ファンドなら300-350億がいいとこのバリューだろう。それがTOB価格を換算すると時価総額494億なんて数字だから、しぶーい時も多いが出すときの事業会社の価格は凄い。このファンドが出せそうな価格と実際付いた価格との差額は、シナジーによるCFのアップサイドと、事業会社とファンドのリターン及びD/Eレシオの違いである。直感的には、シナジーはチャネルシナジー中心にかなりありそうだから、主にそこの違いが価格の違いなのではあるまいか。かといって、Oracle-People Softの時の様に、買ってすぐ営業はキリンに統合でーす、あなた方の営業はいりませーん、これ即ちシナジーでーす、とは日本ではならないので、シナジーを出すのはそう簡単では無いのだが。
 また、麒麟麦酒はPER30倍そこそこの会社なので、シナジーでもっとメルシャンの純利益が上がる前提なら、メルシャンの株を30倍やや超で買っても、既存の株主が損したという程では無い。今回のTOBは実績に対して35倍、予測に対して29倍なので、ま、これ以上高いと既存の株主はブーたれるかもね、というギリギリの水準とも言える。
 あと、PERのもとになる純利益だが、今は金利が安いから余程デットが重くない限りは、設備投資や運転資金に安定した会社ならUnlevered FCFと純利益は近似した値になる。こう考えるとPER20倍は、デットフリーで有っても割引率5%相当、30倍なら3.3%相当なので、20倍でもM&A的にはちょいと高めということになる。世には非公開化ブームの様に言われるが、ファンドがお手伝いするなら、PER20倍以上だと売れるアセットが沢山あったり、リジッドな改善余地があったりしないと厳しい。という訳で、前よりは非上場化MBO案件が増えるのは確実だが、今みたいにやや高めの日経平均のレベルなら、そうワサワサと案件がある訳でも無い、というのが今んとこの感触だ。
 はてさて、こういう出る出る銘柄は、出なそうに見えて、必ずいつか出て、判りやすい売却候補企業というのは減っていく運命にある。これが日本の資本市場の効率化の進捗を示すものと思うのだが、しかし、親子上場でホッタラカシというのは感心できないねぇ。