財政健全化と国民の生活

 僕は法学部出身であって、その後金融業に携わりはしたが、決して経済学をきちんと学んだ訳では無い事は、あらかじめ前置いた上で本稿を読んで頂きたい。前日のBlogに、「将来の税負担の大きさを示す都の債務12兆円」と書いたが、国の借金の本質は、という話である。
 一般には、国の債務については、国の借金として大変な金額(債務全体で約1,000兆円!)が喧伝されており、借金の証書たる日本国債の格付けはAAAを失って久しく、これはデフォルトリスクが現実のものとして懸念されていることを示す。財務省発表の国の財務諸表を見ると、年金の積み不足とかの簿外債務を除いても合計980兆円、資産は700兆円で、債務超過が280兆円である。しかし、資産の中には、公共財や多分返ってこない財政投融資関係と思しき貸付金がざっと400兆含まれているので、全部が全部価値ゼロでは無いにせよ、粗っぽく見積もって500-700兆円位は埋めないといけない財政赤字があると思って良いだろう。国の税収は50兆円そこそこだから、Debt/Salesマルチプルで実に10-14倍という、恐ろしい状況である。しかる状況ではあるのだが、どうもこの問題は、国が破綻すると大変だねと他人事の様に語られているきらいがある。国の収入は税収入が基礎であるから、国の債務というのは将来の税負担の大きさを示すものであり、これは全く他人事では無いのである。国も「国の債務」が沢山あるとして、国と国民をあえて分けたコミュニケーションをする必要は全く無くて、将来の税負担で返すべき国の債務が幾ら、と言えば、極めて問題の大きさを国民も理解しやすいと思うのだが。国債金利がリスクフリーレートと呼ばれるのは、国債の担保は国家の徴税権と考えられる為、無限に国家が税率を上げていけば、どこかで債務は返せる、という前提のもとにリスクフリーだと定義されているのである。

suck off Spring
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  • 蜂もようやくご飯が食べれる季節になった。花のコントラストが高くて、フレア?っぽくなってしまったのが残念。

 それで、このDebt/Sales倍率10-14倍の借金をどうするかだが、実際には3つの考え方があって、それは、上記に書いた税収で返すことに加えて、通貨発行権を駆使してインフレを起こすことと、いっそアルゼンチンみたいにデフォルトすることである。後ろから考えてみたいが、デフォルトしてバックれると何が起きるかというと、国債を買っているのは日本の銀行、機関投資家郵貯であるから、国がデフォルトした瞬間に金融機関のバランスシートが毀損し、国民の預金や将来の保険がカットされることになる。マクロ的には、債務超過の500-700兆がデフォルトすれば、外資保有分は6%位と僅かなので、その金額は殆どそのまま国民の金融資産に跳ね返り、1400兆が700-900兆に減ってしまうということだろう。それだけなら、右から左でストックである預金が半分になってやり直し、という事だが、その過程では国債資産のカットによる金融機関の破綻、あるいは自己資本毀損に伴う貸し渋り、クレジットクランチで日本経済はフローでも奈落の底に叩き込まれるであろう。
 次に、インフレである。インフレがなぜ債務削減に効くかというと、固定金利2%で国家が割引国債を出し、そこで5%のインフレが発生すると、5年後の1.28が今の1と等しい為、税収はインフレに連動して5年後には税収規模が今の1.28倍になっている一方、国債元本は発行時から固定ゆえ、1で発行したら2%×5年で1.1の償還である。ということは、実質的に元本が86%に削減された様な効果が生まれる。これはとっても良いことの様に思うが、この低利でインフレ率に負けている国債を持っているのは、前述の様に結局国民の為、国家の負債をインフレで減価させた分だけ、国民の資産を同じ様にインフレで減価させただけの話で、国債デフォルトの様なハードランディングを判りにくく実行する、という効果を持つに過ぎない。エコノミストは、一時期インフレターゲティングを喧伝し、外来語で良さそうに聞こえたが、要はインフレによって資産保有主体から債務保有主体への価値移転を行う、現代の徳政令みたいなものである(日本国の最大の資産保有主体は国民であり、債務保有主体は政府である)。政治家が不景気の時でも余りこの方法を直接主張しなかったのは、一応は選良として、国民資産に対する遠慮があったのかもしれない。

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  • エスカレータに乗っていたら、ふとコントラストが気に入って1ショット

 最後は税収で返すことで、これは単に増税と歳出削減によってキャッシュフローを増やそうというポイントと、経済成長によって自然税収増を達成しようというポイントに分けて考えられる。政治家で言えば、与謝野氏に代表される財政再建派は前者であり、中川秀直氏ら上げ潮派は後者を重視した考え方であるが、中川氏は歳出削減による政府支出の減少を民間需要増で補って経済成長を維持するという観点を主張しており、歳出削減と経済成長がセットであることは一応留意しておきたい。霞ヶ関埋蔵金なんて話は、中川氏が歳出削減の一環として主張していたことにオヒレがついたものである。
 上げ潮派のロジックは非常に国民受けの良さそうなものであるが、経済成長率はインフレ率と長期的に一致する筈であるから、成長すればインフレ率は上がる。これは、要は歳出削減・成長による自然増収・インフレによる債務の実質削減をセットにしたもので、悪く言えば、インフレターゲティングをマネタリーポリシーだけでなくて、成長が伴えばいいんでしょ、と受けが良い形に言い換えただけとも考えられる。そもそも、政府支出の減少は、民間需要の減少に波及する為、成長と歳出削減の両立は論理的には結構テレコな政策であり、詳しく調べた訳では無いが、相当な工夫がなされていてしかるべきである。
 さて、ちゃちゃちゃっと借金の返し方をまとめてみたが、この問題はややこしいが、先送りすればする程拡大していく性質のもので、そのツケは結局増税か資産の減価によって国民にハネ返ってくる。したがって、ややこしいからと目をつぶらず、国民負担がどう考えても避け得ないものとして、早期に解決策を作らなくてはならないと思われる。GDPはざっくり言えば、個人消費と住宅建設、設備投資、輸出と政府支出しか無くて、どれかが経済を支えないといけない。よって、政府部門が負債を負って支出するというのは、GDPをその分だけ支えてくれてたということである。国の債務超過が500-700兆の一方、国のGDPは約550兆でほぼ同じレベルである。1965年の赤字国債初発行から約40年間均等に500兆円の借金をしたと仮定すると、毎年12.5兆円を借金して支出していたということで、計算は面倒くさいのでしないが、毎年結構な割合で国はGDPを底上げしてきて、国民はその経済成長の恩恵に蒙れたのである。一部には無駄な(=乗数効果が低い。この投資で飯が食えて消費してGDPに貢献した人が居るのだから完全に無駄ではない)公共投資が有ったのは間違いなく、その検証や責任追及もしなくてはいけないが、より重要なのは、今後の投資は効果が高いものを選別すると同時に、国民負担を傷が広がらないうちに、逃げずに議論して、早めに確定することでは無いだろうか。
 ・・・と格好つけてみたものの、個人的には、預金と保険は国債買ってなさそうな外資系金融機関に早速移し、かつインフレに負けない様に外貨や株式、コモディティ、不動産への配分を増やすことにするのが良さそうである。

narrow sky
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  • 狭い青空。