新銀行東京
新銀行東京が大騒ぎになってきた。
主なネタは、
- 1,000億出資して、累損が1,026億に
- 400億の追加出資負担と減資して繰損一掃した場合は更に637億の負担
- 経営陣への刑事・民事の責任を問う
てなとこである。
新銀行東京 「旧経営陣責任重大」
東京都が1000億円を出資して設立した新銀行東京(千代田区)は10日、経営難に陥った原因について、「債務不履行の発生を認識した旧経営陣が抜本的な対策をとっていれば、危機的経営は一変していた」として、開業時の旧経営陣に責任があるとする調査報告書を発表した。特に元代表執行役の仁司(にし)泰正氏(67)を「責任は極めて重い」と名指しし、刑事・民事両面から責任追及するとした。
この問題は面白い題材だが、これまでマスコミで語られていないトピックとして、果たして最初の1,000億円と今度の追加の400-1,000億はドブに捨てたのか、という事がある。この2,000億が有ったら何を都がしたかを考えると興味深い。比較的若めの都民としては、将来の税負担の大きさを示す都の債務12兆円を1%でも返済して欲しい所だが、実際には最初の1,000億は不景気の時に出資されているから、財政の健全性確保よりは、公共投資に使われた可能性が高いと思う。とすると、1,000億は環状道路建設や湾岸地区の整備、もしかしたら地下鉄14号線とかに化けていたことになる。かたがた、新銀行東京が失った1,000億は、システムコストや家賃、行員の給与といった経費と、デフォルトした不振企業に回っている。不振企業はその融資されたお金で、自社の社員の給与を賄い、仕入先に代金を払ったのだと思われる。新銀行東京のシステムは日立製作所のパッケージで、インプリはNTTデータと日系コンビである。行員や融資先社員は殆どが東京在住であろう。また融資先も小規模な企業だとすれば、全国から仕入れているというよりは、近隣との付き合いの中で商売をしている可能性が高い。とすると、失ったお金の行き先は結局殆ど東京となる。要は、これは形を変えた限定された都民に対する1,000億円の減税みたいなものなのである。
[Panasonic 920P for Softbank/ F2.8]
新銀行東京が無ければ、不景気の真っ只中で路頭に迷っていた社員、売掛債権を回収できずに連鎖倒産したかもしれない中小企業が、新銀行東京の資金注射によって、暫くの間生き長らえたのだ。どうせ会社コカすにしても、新銀行東京が出来てから昨年くらいまでは一貫して景気は回復基調にあった事を考えると、少なくともソフトランディング効果は有ったし、不景気の時にトンでいれば失業保険で公的負担が増える所が、その時は資金注入によって飯を食いつなぎ、新たな職を見つけやすい時期に倒産したお陰で失業保険負担は発生しなかった例もあるだろう。こう考えれば、後は1,000億円で道を作るのが良いか、負け組企業・社員にダイレクトに資金注射した方がいいか、その経済的な乗数効果で成果は判定されるべきでは無いだろうか。
ついでに考えてみたいのは、この銀行は果たして儲けるべき銀行だったのか、ということである。マスコミの典型的な論調は下記の通りで、悪い会社に対面審査も無しに貸し出して怪しからん、というものだ。
新銀行東京、債務超過4000社に融資・07年12月末時点
多額の累積損失を抱え経営難に陥っている新銀行東京(東京・千代田)が2005年4月の開業以降融資した中小企業のうち全体の約3割に当たる約4000社が債務超過だったことがわかった。東京都が11日、都議会に明らかにした。これらの会社への融資総額は貸出残高の約1割の259億円にのぼる。
もともと新銀行東京は貸し渋りの時に、資金が取りにくい中小企業向けの政策として設立されている。中小企業であっても財務が良ければ金融不況の最中でも、銀行は収益極大化に邁進していたのだから、十分資金は取れた筈で、借りにくい中小企業というのは、要は財務がイマイチな会社であるから借入において限界的であり、その中には債務超過の会社が多く混ざっていてもおかしく無い。そもそも新銀行東京のミッションからすれば、債務超過会社への貸し出しはある程度前提とするべきであろう。中にはスコアリングに頼り、対面審査をしなかったことが原因という記事まであったが、対面審査をしたらその分だけ人件費が膨らんだ筈で、その対価としてクレジットコストが下がったかと言われると、それはそもそも普通の銀行が貸さない所に貸すのだから、そう簡単では無いと思われる。また、スコアリングにしても、スコアリングモデル自体が、そもそも3-5年の実績を元にバックテストして、エイジングさせないと精度が上がらないものだから、このスコアリングモデルの是非を問うのは、これからの話である気もするが、マスコミにそこまでの議論を求めても致し方無いだろう。
[Panasonic 920P for Softbank/ F2.8]
という訳で、若干都を擁護はしてみたものの、新銀行東京の業績が惨憺たるものであるのは事実である。その一方で、似たような時期に似たような理念で出発したキムゴーこと木村剛の日本振興銀行をご記憶だろうか。僕は、新銀行東京の一件に関わらず、「中小企業の為に!」と理想論のもとに高利貸をする、この変テコな銀行をたまに思い出して、ウェブサイトをチェックしていたのだが、この中間期は業務純益で黒転を果たし、経常でも来期位には黒字になりそうな所まで業績が改善してきている。業務純益が黒転というのは、要はコストを賄えるだけの規模に達したということだ。銀行は装置産業であり、人件費と家賃の塊である支店と巨額の費用がかかる勘定系システムという固定費が重く、資産を積み上げて、そこから生まれる利息収入がこの固定費を賄えるかどうかが損益分岐点になる。日本振興銀行は、ようやくここまで来たということだ。
同じ様な時期に銀行を始めて何が違ったかと言えば、この一点に尽きる。政策的な目標があったのか、短期間で2,200億もの融資を一桁台の利息で貸し付けた新銀行東京と、300億を15%と高利で貸しつけている日本振興銀行という事実が示す、リスクに応じた利率の賦課が出来たかと、どこまでリスクを積極的に取ったかの差である。新銀行東京の決算説明を見ると、貸金利回りは実に2.57%と普通の銀行よりと同じか低い位である。この普通の銀行と同じ利息で、普通の銀行が貸さない所に貸すのだから、そもそもビジネスモデルとしてペイする筈が無い。15%の金利を賦課していれば、2,200億の融資が+12%位の利益を生み出すので、+264億の利息収入となり、昨年の赤字である400億の6割強は賄え、預貸率が低ければ余資を証券運用に回してブレークイーブンを目指せた計算である。ただし、この形では黒字になるかもしれないが、都が高利貸しをするのか、という謗りを免れ得まい。と言うことは、これはもとより政策金融機関として、銀行の赤字は度外視で東京の中小企業に低利で資金出します、という建てつけでそもそも有るべきでは無かったか。僕は、そもそも民間調達できない企業が延命するのは、健全な競合にとって良ろしくなく、果たして真の経済成長にとってはマイナスでは無いかと思うが、都がどうしても銀行やるなら、こういう割り切った建てつけしか無かったと思う。
付け加えるならば、出来上がった大きなビジネスで有れば、競争戦略の問題、組織の問題等など、出てくる問題はどの企業でも共通しており、業界の知識が無くても、経営上の問題解決のプロであればトップは務まると思うのだが、スタートアップで門外漢というのは、ちょっとハードルは高かった様に思う。トヨタ出身の人がトップだった新銀行東京と、ゴタゴタはあったものの、トップ3人がex-日銀、ex-りそな、ex-DKBという体制だった日本振興銀行とは、そこに関する見識に差が有ったし、これが単純に都知事の有名な銀行嫌いに起因しているならば、相当プリミティブな問題だ。
さて、ここまでつらつらと述べて来たが、個人的に一番インパクトがあったのは、都知事を守る為にスケープゴートを作る事なんてのが、平気の平左でまかり通っていることで、あらためて政治とは恐ろしい世界だと再認識した次第である。
[Panasonic 920P for Softbank/ F2.8]
- 前日の日記に書いた通り、携帯を買い換えて、今日の写真は全部この携帯である。904SHと比べると少々画質は落ちるが、まぁ満足すべきクオリティでは無かろうか。