ビルの色

 いつしか海外旅行によく行く様になり、それは主に辺境の野原が僕を喜ばすのであったが、旅の入口と出口は大都市を避けようがなかった。都市はエキサイティングだが、それは東京でも味わえる種のものだ。旅の途中で都市に辿り着くと、僕は無意識に東京と離れたものを探してしまう。それは、横丁とか、安宿とか、或いは歴史そのものであったりしたが、中でも僕の目によく留まったのは、ビルの色である。白と灰、よくて銀色のビルに埋もれる東京や大阪に慣れた身には、クアラルンプールのカラフルなマンションやドバイの人を驚かす色・造型のビル、或いは逆に陰鬱な暗灰色の建物しかないブカレストは、ひどく刺激的だった。異国にいることを建物の色で感じていたのだろう。特に、イスラム諸国は、その厳格な戒律のイメージとは裏腹に、建物の色使いの多彩さと造型の自由さで他の宗教圏の追随を許さず、僕はそれを愉しんだ。
 この点において、日本の建物は実に色に乏しいと僕は常々感じていたのだが、ビルの竣工ラッシュとなった2003年問題以降、徐々に変化が訪れている。六本木ヒルズのメイン棟は銀だが、レジデンシャルタワーは明るい赤茶色と白の組み合わせである。その後、メイン棟に色がついたビルが近隣に2つ出来て、それは赤坂インターシティとミッドタウンである。ミッドタウンのメイン棟は、壁という構造を用いず、柱と床だけで構造を作って、後はガラスパネルを外からペタペタ貼る、ガラス新構法で出来ているが、柱の部分は明るいブラウンに塗られている。赤坂インターシティも同じ系統の明るい色である。


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  • 六本木から新宿を遠く望む。以外に中途の青山が街なことが判る。

 東京駅周辺や、日本橋その他、あちこちで再開発が行われて、これからまたビルがニョキニョキと建っていくが、その中で、どれ位の数が白と灰と銀の呪縛から逃れているだろうか。