ファニーメイ、フレディマック救済のインパクト

 朝方からGSE - Government Sponsored Enterprisesの2社、ファニーメイフレディマックを米国政府が公的資金で救済する話でもちきりだった。両方とも90兆円のアセットを持つ、巨大住宅金融公庫であるから、合計180兆円の金融機関が売り込まれて信用不安ということである。日本に換算するなら、米国のGDPは日本の約3倍だから、60兆円の話ということで、これは在りし日の6大都市銀行クラスである。6大都市銀行で最初に市場にやられそうになったのは、山一・安田信託とグループ企業に危機が連鎖したときの、富士銀行だが、まぁ話のインパクトの目安は富士銀行がやばくなった位と思っておけば良い。まずい話なのは間違いないが、国が滅ぶ様な話でもない。
 ただ、米国のややこしい所は、日本の銀行は余りオフバランスアセットを当時持っていなかったが、このGSE2社が証券化が本業みたいな所で、一説にはオフバランスを併せたトータルの関連アセットが500兆円もある所である。こうなると上記の日本換算だと170兆円、都市銀行が3つトびそうということで、凄い話になってくるが、オフバランスである以上、オリジネーターとは倒産隔離になっている筈である。従って、システミックリスクというよりも、心理的インパクトが問題ということなのだろう。
 あと、投入された公的資金FRBのB/Sに乗ることでドルの信認云々という話が出ている様だが、これも規模的にそこまでいく話では無さそうだ。既に時価換算するとフレディマックとかは2-3兆円の債務超過だが、仮に自己資本が3兆円のマイナスと考えて、シンプルに8%の自己資本比率へ回復させても、投入額は16兆円に止まる。日本のgoing concernな銀行への公的資金の投入総額が大体12兆円で、経済規模も財政の健全性も違うし、また本来住宅ローン資産は規制資本上はリスク掛け目が低いから、そこまで資本が要らない可能性が高い。
 また、この2社で米国の住宅ローンの50%から直近90%位を扱っていた様だが、仮にこの2社が全く機能不全に陥ったとしても、米国GDPにおける住宅投資の構成比は僅か4%強だ。よって、この2社の動向がもたらす米国経済そのものへのリスクも限定的と思われる。むしろ、巷間言われている様に、住宅の値上がりが住宅の担保余力を増加させ、個人が住宅担保ローンでファイナンスして消費する、という資産バブルが米国のかつての好況の本質であって、このバランスシート調整がどこで終わるかが、不況と信用不安の終着点を指し示す筈だ。
 米国民の平均年齢は先進国の中ではずば抜けて若く、移民によって人口は増加を続けている。この様な国だから、どこかで住宅価格は必ず下げ止まるし、しかも、そのどこかは、平均年収とあるべき住宅価格の年収倍率によって、精度を追求しなければ、比較的簡単に推測できる。あるべき住宅価格が定数になれば、住宅ローンのロスも、金融機関の自己資本の不足額も、GDP上の個人消費と住宅投資の落ち着き所など、いま完全な変数になっているものが計算可能になる。ここまで見えてくれば、後は落ちるべき所までは続く不況とバランスシート調整をやり過ごす時間が必要なだけである。
 危機をあおる報道ばかりが目に付き、冷静な意見が顧みられないのは、世の常ではあるし、今後も落ちるべき所までは不況が続き、散発的に信用不安も発生するだろう。ただ、日本もいつかはバランスシート調整を終えたのだ。底無しのスパイラルの恐怖に勝って、「落ちるべき所」の相場を見切り、底で拾って大儲けしたのは不動産にしろ、銀行株投資にしろ、バリュー投資家である。バリュー投資は不況時・暴落時にこそ最もリターンを上げるのである。

Flower by the food
[Softbank mobile 920P /F2.8]

  • 逆光は勝利。

○追記

 その後の報道を見ると、この2社は住宅ローン証券化商品に対して保証をしているとのことで、これだと500兆円がオンブックになっていると思われる。これを考慮して、もう少し正確に計算すると、500兆×35%(規制上のリスク掛け目)×8%で、やはり10数兆が必要そうだ。ただ、ここまで住宅ローンがボラタイルになっていると、35%のリスク掛け目より保守的に積む可能性はあり得て、その場合は20-30兆円という規模になるだろう。これは、米国の連邦債務残高が9兆ドル、1,000兆円に迫り、年間の経常赤字額が7-80兆円、財政赤字が25兆円という規模感の中では、国債ファイナンスして資本注入するだけなら、屋台骨を揺るがす程では依然として無いと思う。あと、市場では500兆円に直接政府保証を付ける案も取り沙汰されていて、これだと1,000兆の債務残高がいきなり1.5倍になって大変、too big to bailだと言う話だが、この2社の債務は通常の政府債務と違って、資産担保であることは留意しておきたい。究極的には、資産の変動リスクが幾らかということで、全損というのは有り得ないから、それが規制上の10数兆なのか、もう少し積まないとまずいのか、政府保証がどうであれ、最終的な政府負担は結局そこに帰着するのである。