WBC:杉内 or ダルビッシュ

 最後もつれたものの、五輪チャンピオンの韓国は9回に誇りを守り、日本はイチローのバットと今回の在日球団代表的存在だったダルビッシュの腕で勝利を収めるという、実にスポーツドラマとして美しい展開だった。
 結果は良かったと思うものの、僕的には一つだけ采配に引っ掛かる点が有って、それは9回杉内からダルビッシュに変えたことである。実況も8回に杉内が救援している時から9回はダルビッシュだろうと言っていたし、まぁ知名度的に収まりはいいと思うのだが、ダルビッシュが9回を投げるべき合理的な理由は、前の米国戦で同じ役割を果たしたこと以外には見当たらなかった。
 昨年度、ダルビッシュ防御率1.88という見事な成績で、これは杉内の2.66に勝る。但し、相手別戦績をYahoo!プロ野球で見ると、ダルビッシュソフトバンク楽天といった昨年の下位チームを0点台に押さえ込んだのに対し、交流戦セリーグチームやパリーグの上位チームには2点台の防御率である。一方の杉内は特に上位下位で点の取られ方に差がなく、交流戦に非常に強いのが特徴である。つまり、初物との対戦や強いチームとの対戦を特に杉内は苦にしていない、と言える。
 また、野球のデータ分析のことを、サイバーメトリクスというのだが、ここんとこのサイバーメトリクスの隆盛の中で、投手の指標として台頭しているのがDIPSという指標である。DIPSとは、Defense Independent Pitching Statisticsの略であり、投手の成績について、自分がコントロールできる指標と、野手や飛ぶ方向の運の影響が入る指標に分けて、投手のコントロール下だけの指標で投手の善し悪しを判断しようというコンセプトである。具体的には、奪三振、与四球、被本塁打が投手のみに責任がある指標であり、この3要素に係数を掛けて基本的に数字は計算されている。このDIPSでいくと、杉内は2.51で、2.55のダルビッシュより僅かに良い(出典:プロ野球データリーグ)。杉内の数字は昨年のパリーグでは、シコースキー・岩隈に続く3位で、4位がダルビッシュである。防御率では差のある両ピッチャーだが、DIPSでは差がないと言うことは、つまり、ソフトバンクは日ハムと比べて野手が投手の足を引っ張る度合いが大きいということだ。事実、昨年のソフトバンクは日ハムと比べて失策が約30%多い。また、杉内は、被安打数と比べて与四死球が極めて少ないピッチャーで、これがDIPSの数値に良く作用したのだろう。
 あと、ダルビッシュは今大会失点をしているが、杉内はしていない。また、ダルビッシュは右投げで、杉内は左投げであり、9回の韓国打線は左が並ぶ。そんな大会の状況と、上に書いた杉内が初物を得意とし、強いチームとの対戦を苦にせず、DIPSではほぼ互角、というデータを考慮に入れると、杉内続投の方が正しい判断の様な気がするのである。ダルビッシュが同点に追いつかれたのは結果論にせよ、クローザーとして9回を任せるなら杉内かなと僕は思った。余談ながら、前の韓国戦でダルビッシュが初回3失点したからか、ダルビッシュは立ち上がりに弱いというイメージがこびりついていて、イニング別被安打率を見てみたが、データ上は特にそういう傾向が無かったことは付記しておく。
 僕は世代的にも生まれた地域的にも落合信者で、監督になってからの落合采配もかなりツボだ。そもそも個人の完全試合よりチームの勝利優先に決まっているだろうと思っている。落合なら、どういう采配したのかは妄想すると面白い。そもそも、先発陣をリリーフにつぎ込まざるを得ない人選をしてなかった可能性は高いのだが。日韓W杯でMFのアレックスを最後FWで先発させた指揮官が居たが、ぶっつけ本番の布陣が出る時点で監督としてのシミュレーション不足を感じざるを得ない。ま、そんな妄想が心安らかにできるのも、勝利したがゆえなのは間違い無い。
Sakura Bokeh
[NIKON D90 /AF Nikkor 35mm F2]

  • 広尾にて。開放F2は若干ハロっぽい。古いレンズの個性である。