フェデックス炎上とその報道

 今日は風が強くて、スーパーハードのワックスで固めた髪も、出社の頃には無茶無茶になっていたが、成田では飛行機が横風にあおられて落ちてしまった様だ。広州発のフェデックスの貨物便である。
 フェデックスは広州がアジア地域のハブである。何を運んでいたかは明らかでは無いが、広州がハブである以上、中国からの荷物というよりは、全世界からの荷物なのだろう。ご存知の通り、金融は電子化が進んだとはいえ、契約書とか各種証券とかは紙が生きている世界なので、フェデックスやDHL、EMSなどの国際郵便に膨大なお金を落としている業界である。特に書類の多い外為とかは大混乱に陥っていると想像するが、M&Aやファンドの世界でも、3末を目指したディールの契約書とか、海外に実体のあるファンドの議事録とかが10枚くらいは燃えてしまって、担当者は頭を抱えているかもしれない。
 さて、フェデックスは、MBAのケースだとブランディングの統一の例でよく採り上げられる会社だが、よりコア業務であるロジスティクスのシステムも大したもので、この新設の広州拠点の規模と効率性は物流業界では話題になっている。

○LNEWS
○メディアサボール

 これらの記事からも相当でかいことが見て取れるが、こういう拠点が出来てしまうと、貨物は物理的な距離に反して、米国と中国の方が時間的距離が近くなってしまう。フェデックスの拠点そのものが生み出す雇用とかは大した話では無いだろうが、米国や欧州から時間的距離が近いことで生み出される、その他の企業の拠点や、ドキュメント処理のアウトソーシングのビジネスだとかからは無視できない需要、雇用が生み出されることだろう。また、着陸料を仁川並みの30万としても週136便も飛べば年に21億で馬鹿に出来ない収入になる。日本の政治家も、口を開けば「道を造れー橋を造れー」というのが多いから、ロジの重要性を判っている人は沢山居る筈なのだが、これが地方レベルじゃなくて、国家レベルになると、何か戦略的に取り組んだ感じが全くしないのは謎である。日本はアジアではトップレベルの親米国家で、米国債の上得意先でもあり、おもいやった予算まで組んでいるのだから、これ位政治力で自国に持ってくる位の取り組みをしても、バチは当たるまい。
 あと、最初の会見では、メインのプレゼンターだったフェデックス北大西洋地域副社長が謝罪しなかったことがニュースになっていたが、毎度毎度ながらマスコミは企業のトップを謝らせて何の価値があるのか疑問である。この副社長も、二度目の会見では謝罪したそうだが、一度目のニュースは時事通信で13時の配信、二度目のニュースは18時の配信である。この5時間の間にPRエージェントを雇って、二度目の会見のコミュニケーションストラテジーを副社長は練ったのだろうが、大事故の最中、こういう所にトップの時間を使わせるのは、無駄以外の何者でもない。
 ちなみに、最近はコミュニケーションとして難易度が高いリコールとか、敵対的TOBとかの時のPRストラテジーを、危機管理の視点も交えてアドバイスできるエージェントが日本にも増えてきた。僕も流石に一度目の会見は日本のマスコミ受け的にはミスったなと感じたが、大きく二度目を間違えなかったのは、そのお陰だろう。この様に、企業が何かやらかすと、日本のマスコミの視点は謝罪の有無に集中する傾向が強くなってきたから、企業もアドバイスするPRエージェントも、とりあえず謝ればOK、みたいな安易な方向に流れている感じがする。今回の二回目は、「頭を揃って下げる」絵も出ていたから、まさに「絵を土産として出しとけばいいや」的な雰囲気だったし、報道の見出しもそれで「謝らせたぞ」と納得しちゃっているトーンであった。
 この事故は、向かい風で着陸しようとしたら、最終局面で突然の横風にあおられた、というのが事故の原因だと報道されている。本当にそれが原因だとすれば、フェデックスが謝ってOKという筋の話では無いだろう。むしろ、管制誘導はどうだったとか、空港の構造の特徴とか、拡張が難しかった歴史とか、こういう気象現象の過去例とか、成田はそれが起こりやすいのかどうかとか、今日の他の便はどうだったかとかの方が重要な視点の筈だ。その中で、一つだけフェデックスを責める余地が有るとすると、フェデックスが使ってた機体は、懐かしい3発のMD-11なのである。MD-11は、同時期にデビューしたライバルの中では、挙動が最も敏感で、事故率が高い機体として、航空マニアの間では知られており、軍事面ではF-22の失注、民需面ではこの機体の商業的失敗が、マクドネル・ダグラス社の消滅をもたらしている。ここは突っ込みどころ、謝罪のしどころの筈だが、機材の問題だとすれば、そもそも極東レップの日本人が出てくるレベルの話では無さそうである。

○追記

 翌日読売の朝刊で機材の問題が報道された模様である。