政治制度上の欠陥

 前稿の続きである。

○2009-09-02 民主が勝った選挙

 前稿を書いててふと思ったのだが、「強く長期でコミットできる政権」を作るにあたっての最大の障害は制度じゃないかという気がしてならない。衆議院の平均任期は3年そこそこだから、3年に1度半数が改選される参議院と併せると、なべて平均1.5年で国政選挙が来ることになる。これまでの自民党政権衆議院で勝った政権も次の参議院で負けると、概ね退陣していたし、「安倍おろし」の様に同僚から引き摺り下ろされることも多かった。
 ひるがえって企業経営の世界では、市場に内在する短期収益志向は常に問題視されていたし、短期的な株価動向を無視すべきでは無いが、徒に右顧左眄することなく、長期持続的な収益成長を企業は志向すべきである、という点はアフターリーマンショックの時代においては、大体においてのコンセンサスであろう。しかし、大胆なリストラをしたり、ヒット商品が出たりすると、半年とか1年くらいで施策が数字に出ることもある企業経営の世界と違って、政策の世界は効果が出てくるまで数年単位で時間がかかるものである。それなのに、評価制度が1.5年毎の国政選挙では、そもそも実態と評価制度が合っていないと考えるべきであろう。
 イラク情勢を悪化させたのは明らかにブッシュのせいだが、金融危機はその前のクリントン時代の401kの非課税限度引き上げやグラス・スティーガル法の廃止(これは共和党議員起案だが)に端を発すると思われるし、クリントン時代は好景気だったが、これにはレーガン・ブッシュシニア時代の減税、市場強化政策、および冷戦の終焉による「平和の配当」の影響が大きい。政策と効果には必ずタイムラグがあるし、政策を実行中のプロセスで評価するのは困難である。従って、時の内閣は1.5年周期の選挙結果、つまり「短期的評価」にむしろ右顧左眄すべきではない。
 また、本質的には首相の資格を持つ人が首相を互選する議院内閣制も利益相反を孕んでいる。今の首相が代われば自分に首相になる機会が訪れる制度では、議員自身が権力の頂点を目指したいと思っている前提であれば、ワークしそうに無い。前稿に書いた「伝統的な集団主義の精神を発揮できずに足の引っ張り合い」を日本の政治家がついしてしまうのは制度設計の欠陥にも起因する。議院内閣制下においては、自身の選挙に逆風が吹かない限りにおいて、長期政権にインセンティブが働いていないのである。
 そういう意味では、大統領制というのは議院内閣制の利益相反構造も無いし、アメリカなら4年・フランスなら7年の政権が担保されているので、「まともな人」がトップになるのなら安定した政治を行える制度ではある。ただ、日本の場合は、普通選挙実施から81年経って、ようやく政権交代が実現した程度の政党政治の成熟度合いだから、誰でも立候補できてしまう大統領制は「まともじゃない人」が風で当選してしまうリスクを孕む。これは知事選を見てると現実の危惧であって、橋下知事は大変な仕事をしていると思うが、前の前の横山ノックは、昔のエントリに書いたが、大阪府の一年の税収入相当という巨額の債務を増やした失政を行っている。

○2008-04-20 橋下知事は「藩政立て直し」先駆者となるか?

 大統領制は、候補者プールの質の担保が肝なのである。米国では2大政党制が成熟しているし、予備選という大統領候補になる迄が長い制度設計になっているから、そこで一定の選別が行われる。それでも、ブッシュみたいな例はあるのだが、仕組みとしては大統領制の弱点をうまく予備選で補っている。日本においては、現状の仕組に問題ありとは思うのだが、一足飛びに大統領制に行かずとも、ある程度の年限、議員を務め、何回か選挙の洗礼をパスした人を有資格者とした首相公選制とか、議員は議員でない人を首相として選ぶ「首相選帝候制(?)」とか、短期的評価や長期政権への利益相反、候補者の質の問題といった現在の制度設計上の欠陥を補う中間的ソリューションがあるのでは無いだろうか?