E-P2 VS RICOH GXR

 軽量コンパクトな一眼「ノンレフ」カメラ、オリンパスE-P1を買う買う吠えている内に、E-P2という後継機種が出てしまった。EVFという電子式ファインダーが付いただけのマイナーチェンジだが、こちらの方がずっといい。やっぱりカメラは、ファインダー覗いてホールドしないと手ブレしやすいからである。オリンパスE-P1は、出て直ぐにレンズ規格を共有するパナソニックから、より軽量でAFの速いLUMIX GF1が出てしまったので、要らない子の様に言われているが、軽量規格なのだから、手ブレ補正を重くなるレンズ式より、ボディ内補正を選択したオリンパスを僕は支持する。AFも大きな差ではないし、一眼レフと違って、こういう一眼ノンレフカメラはAFはハードよりソフトの影響が大きいから、ソフトなら頑張ってファームウェア開発して追い付いて、という気持ちもある。
 そんな訳で、E-P2を今度こそ買おうと思っている。きちっといい絵を撮りたいときは重量級のD700、多少絵は妥協して軽さを取る時はD90、ボケは捨てて手軽に撮りたい時はLUMIX LX3、とにかく小さく軽いのを求める日常ユースはSONY W300という、僕の中の軽さと画質を軸としたデジカメヒエラルキーが存在するが、E-P2D90と出番を争いそうだ。E-P2の軽さでそれなりの絵を撮れるなら、「レフ」の必要性は動きもんのAFに限られてくる。動きもんの為に追加300gを持ち運ぶか否かという選択である。300gというのは、容積に対する東京ドーム換算と同程度に頻用される、グラム重量に対する牛肉換算で考えると、ワラジみたいな巨大な塊になる。D90という存在は、E-P2にワラジ大の肉塊を加えたものに等しいのだ。「前モデルの贅肉を削ぎ落とし、コンパクトに再設計された新商品」というのはよく聞く表現だが、こちらは贅肉どころか血も滴る肉塊の有無であり、2つは別ものと言っても良いだろう。しかも、この肉塊は食用には適さず、海外旅行してる時にサッカー撮ったりするのに役立つ位なのである。ご推察の通り話が収拾付かなくなったが、300gの差はかくも大きいと僕は言いたい。
 僕は歩く旅行を愛するバックパッカーゆえ、テントやら浄水器やらバーナーやら蚊帳やらといった重い装備は、1gでも軽いものをチョイスしている。こんなF1マシン並みの軽量化努力に、日頃から研究時間と資金を投下しているのに、肝心のカメラで軽いものが出たら検討しない訳にはいかんのである。

  • E-P2。E-P1と同じデザインだ。肉でも魚でも無い。

 それで、はてE-P2資金をどう捻出するべきかと考えていたら、今日RICOHからクリエイティブなカメラが発表されていた。一眼と呼ばれるカメラはレフレックスミラーの有無を問わず、レンズを交換するのが当たり前になっているが、今日発表されたGXRというデジカメは、センサーとレンズが一体となったユニットを交換する。コンパクトな単焦点マクロレンズにボケと画質の良い大型センサーを組み合わせたユニットと、大きくなりがちなズームレンズに小さなセンサーを組み合わせて小型化したユニットが同時に発表されていた。奇抜な様に感じるが、アナログ時代で言えば、レンズとフィルムを一体で交換するということである。アナログ時代には、ニコンのレンズとコダックのフィルムだとポートレートが死体みたいな肌色になったりとか、レンズメーカーとフィルムの組合せが普通に語られていたから、そういう意味では別に新しい話では無いのかもしれない。
 さて、デジカメからレンズと撮像センサーを取り除くと、ついでにシャッターと画像処理ロジックも取り除かれるので、後は背面液晶とバッテリとメモリスロットとストロボだけであり、これが本体になる。こう書くと本体が無価値の様に思えるし、実際ネット上の議論を見ていても、そういう議論が先行していたが、僕はもう一つ残るものがあると思ってて、それはユーザーインターフェースである。コンパクトデジカメにおけるRICOHのUIは秀逸で、高感度も解像感もイマイチなRICOHのデジカメが支持され、RICOHを使い継ぐロイヤルカスタマーが多いのは、地味だがこのユーザーインターフェースの貢献が大きいと僕は思う。RICOH消費財メーカーだから、コンスーマーサーベイを何度も行って、自社の強みがレンズなのかUIなのか、或いはパッケージングなのか「絵作り」と呼ばれる画像処理なのか、こういった軸毎に要素還元したユーザー支持率調査を間違い無く行っていることだろう。この結果として、UIの強み度合いが大きいとなれば、センサーで無くてUIを消費者に売ろうという発想でカメラを企画することになる。この順番で考えると、UIを統一し、センサーやレンズを外出ししたGXRみたいなアイディアに行き着くのはある種自然ではある。

  • こうやってレンズじゃなくて、ユニットをガチャッと入れ替えする。

 しかし、もし本当にこの発想でニーズ有りと判断したのであれば、落とし穴が一つある様に思われる。僕もコンスーマーサーベイを仕事で触ることがあり、こういう要素還元で自社と競合の相対的な位置関係を捉える調査は基本中の基本である。しかし、この調査の一つの欠点は、その強みが認知可能な差異となったり、スイッチングコストを伴うまで強かったりするかどうかまでは証明が難しいことだ。アップルの製品は、圧倒的にUIが良く、それは新規顧客にも認知可能なレベルの差異であり、かつ既存顧客はそのUIに慣れ親しんで、容易に他社製品にスイッチ出来ない為、iphoneを始めとするアップル社商品は競争力を持つ。また、新規顧客が認知するに十分な量の宣伝も投下されている。アップルのUIの優秀さは閾値を超えているのである。RICOHのUIは秀逸だけど、果たして新規顧客がそれを認知できる程の差異かと言えば、僕は余程宣伝が上手く無いと答えはNOだと思うし、既存顧客が他に乗り換えられないと思うまでの差異かと言えば、そこまで大きく無く、閾値は超えていない気がする。だとすると、UIを売るというコンセプトには無理があるということになるが、この辺りのアートはブラインドテストなどを併用したとしても、なかなかサーベイだけで結論を出すのは難しい。
 多少脱線したが、小型センサーから大型センサーまで統一したUIで扱えるというのは、閾値を超えているかは別として強みなのは間違い無い。しかし、成長市場の一眼ノンレフカメラの中で、レンズもAFも画像処理も優秀で、センサーまで内製化しているパナソニックと戦うのに、そのUIという強みに依拠するという発想は理解出来るが、それだけだと閾値の問題が出てくると感じている。他にもう一つ、レンズだけじゃなくてセンサーまで変える形式のプラスポイントを両輪として提示できないと、商売的には辛いのでは無いだろうか。このRICOH GXRがクリエイティブな意欲作なのは間違いないが、超軽量な望遠レンズユニットとか、小型センサーを使ったコンパクトなF1.8通しズームとか、実は同時発表のマクロレンズユニットがマクロプラナーを上回る神がかったレンズで、描写とシステム重量のバランスで他を圧倒していたとか、そういった判りやすいメリットを早期に提案すべきだろう。既存メーカーの一眼レフは最近実につまんない鉄板商品が多いから、個人的にはRICOHのこのチャレンジには随分期待しているけど、さて今買うとなると、20mm/F1.7とか、9-18mmとか、使いたいレンズが既にあるE-P2を僕は選ぶだろう。

  • デザインテイストはPowershot Gシリーズの様にごつくて赤鉢巻とキャノン風である。コンセプトは不必要なほど斬新なのに、やっつけなデザインは志が感じられない。