鉄の忍耐

 株の根拠無きリバウンド相場は終わり、日経平均は1万円を挟んだ攻防が続いている。GDPはリバウンドでまぁまぁな数字が出ているが、12月のボーナスの減少率予想を見ていると個人消費の動向は厳しそうだ。もちろん政府支出もサステイナブルでは無いので、個人が相当程度ボーナスの減少を見込んで既に財布の紐は締めており、これからは緩むのみ、という極めて楽観的な見方が当たらない限りは、しばらく低成長というか、成長はゼロを挟んでの攻防で、再度デフレ入りの可能性すらある状況である。株価は主に円相場による値がさ株の動向に振られていると思うが、個人消費が厳しければ企業業績の回復も早期には期待しにくい。
 一方のデットマーケットだが、社債の発行は戻ってきている。ただ、ソロシュのLBOと商業用不動産で血を見るのはこれから発言の通り、プライマリーのコーポレートクレジットは戻っても、セカンダリーやストラクチャーものはまだまだ時限爆弾の爆発が続いて、投資家心理を冷やす展開が続くと思われる。この投資家心理の冷え込みや損失に伴う資本不足がプライマリーに波及しないことを祈りたいが、日本も商業用に限らず不動産については楽観的な気分になれないのは事実である。
 株価は自律的リバウンドをしたが、不動産市況はなかなか反発しない。例えば、オフィスの空室率なんて悲惨の一言である。

  • 都心オフィス空室率とGDP成長率推移


○出典:三鬼商事総務省
 エントリ書くにあたってぱぱっと調べた限りだが、新築ビルについては、GDPとの逆相関が強く見てとれる。また、既存ビルは、景気の回復にやや遅行する傾向がありそうだ。リーマンショック後の景気後退に伴い、新築ビルの空室率は30%台まで跳ね上がっている。現在は、それがようやく20%台に回復したばかりという状況である。汐留が開業して2003年問題と言われた時代も30%前後に達していたが、その後4四半期続いた経済の回復により1年掛からずに10%を切っている。しかし、今回についてはGDP成長率はやや戻ったが、これが更に2003年の時の様にもう半年続くかと言うと、この個人消費の動向では厳しそうだ。そう考えると、新築ビルの空室率は高止まりする可能性があるし、既存ビルは景気に遅行するだけに、更に回復が遅れる可能性すら有る。ただ、全体と既存がほぼ同じグラフなのを見て判る通り、世の物件の約98%は既存ビルであり、新築の割合は低い。募集物件が平均6ヶ月で回転するなら、全体の16%が毎月入れ替わるから、2%しか無い新規ビルは直ぐにはけてもおかしくない。それが空室で残っているというのは、いかに世の店子が安い中古を探しているかを示している。
 レジについても同様で、レジの空室率はぱっとググった範囲では見つからなかったが、マンション販売数はすぐに見つかった。

  • 年別マンション販売戸数


○出典:三鬼商事
 明らかなシーズナリティがあって面白い。8月を底にここ2ヶ月回復したかの様に見えるが、この様に経年で並べると、例年9-10月は自律反発する季節だというのが判るし、10月はリーマンショック直後の昨年を更に割り込んでいるのも一目瞭然だ。また、2005年から毎年マンション売買戸数は下がってきているのも一つの発見である。この年に需要を先食いしてしまったのか、単にリーズナブルな価格だったのはこの年くらいで、その後は高くて買えず、そうこうしている内に収入も下がってしまったのか、その辺りの背景は判らないが、ここ数年マンション販売市況はずっと悪化していて、まだ回復していないのは間違い無い。また、個人の収入動向からしても、急速な回復は期待しにくい。
 REITも昨年からすると株価に釣られたのか、政策対応があって反発したのか、やや回復しているが、ファンダメンタルズは引き続き悪いので、銘柄選択は相当慎重になるべきだろう。また、金融機関の中には相当不動産に突っ込んだ所が多いから、投資家心理が冷え込んで、じわじわと金融がまたタイトになる可能性もある。余力のある投資家、新規に資金をレイズした投資家にとっては底値買いが出来る良い市況かもしれないが、普通の自然人・法人は引き続き、「鉄の忍耐、石の辛抱」の時代が続きそうである。