新興国経済は世界を救う

 ドバイショックを機に、もう新興国もダメだみたいな議論が横行したが、少し考えれば、外国からの借入に頼った国以外の新興国はドバイとは無関係なことは明らかである。その典型的な例は中国であって、かつて世界を支えた米国の消費は低迷しているが、中国の消費は依然として好調である。
リーマンショック時から見た米中の消費増減*1

 このグラフは、リーマンショック時、つまり2008年9月の米中の小売売上高を基準として、その後小売売上高(=リテール消費)がプラスかマイナスかを示したものだが、青線の米国が概ね2008年9月水準を下回っているのに対し、赤線の中国は上昇基調にある。米国+中国の合計でプラマイどちらかを見ると、今年5月以降はプラスである。つまり、米国消費の減少を中国が完全に打ち返して世界経済的には二大国間の消費ではお釣りが出ているのである。中国の消費規模は米国の半分だから、中国の消費は米国の消費の減少の倍以上の率で伸びたということだ。
 もちろん中国の統計は信じられるのか、とか中国の消費は民間のレバレッジ増に拠っていないのか、とか留意点はある。それでも、人民元が米ドルにペッグされている事によって、人民元中国経済の規模は恒常的に過小評価されていることを考えれば、中国国民の消費増加が米国国民の消費減少を上回っている、と断言しても間違いは無いだろう。
 有名な国際金融のトリレンマとは、「固定相場制」「独立した金融政策」「自由な資本移動」は鼎立し得ないということだが、インフレを抑えつつ、大国の責務として自由な資本移動を認めるなら、変動相場制に中国はいずれ移行せざるを得ない。今はドルペッグによって中国の経済規模は人為的に過小評価されているが、成長の過程で変動相場に移行した時の中国の外貨換算の規模感は、今以上に大きなものになるだろう。
 すでに現時点においても、米国の消費低迷を打ち返せる様な規模感だし、個別企業で見ても中国に強い日産が営業黒字化して、米国に突っ込んだトヨタはやっとブレイクイーブンと、中国を含む新興国が企業の命運を分けている状況である。ドバイ云々に関わらず、小さなボラティリティは有ったとしても、世界経済における存在感も、経営の資源配分の先としても、より新興国の重みが増すのは疑いのない方向性だと僕は思う。

*1:1米ドル=6.83人民元換算