DD続く。
年末年始はタイでゴルフ合宿してたのだが、帰ってきたら目の覚める様な仕事上のイベントが続き、ジェットコースターの様な1月前半だった。遅ればせながら明けましておめでとうでございます。
さて、前にゴルフ会員権の購入を考えて、視察巡礼をしているというエントリを書いたら、色んな人に「DDらしいですね」と言われ、この人も拙ブログを読んでいたのかと結構驚いたりした。こちらの投資の進捗ははかばかしく無い。仕事が投資業だけに、やっぱりゴルフ会員権もついつい投資の目で見てしまって、コースはいいんだけど、バランスシートが・・とか考えている内にまだ買えてない状況だ。だけど、DDしてる内に、ゴルフ場ビジネスが段々見えてきた。
京葉カントリー倶楽部というゴルフ場がある。開場が昭和34年と古く、乗用カートはあるが全組キャディ付で、民事再生歴も無く、名門コースだと思う。今は、niftyやgooで各種企業信用照会が数千円で取れるので、運営会社についての情報は個人でもそこそこ分かる。財務で言えば、バランスシートは不明だが、PLはざっくりとは分かるケースが多い。さて、このゴルフ場のPLはこんな感じである。
- 昨年度 売上9.7億/利益2百万
- 一昨年度 売上8.3億/利益▲77百万
昨年をもって黒転している。数あるゴルフ会員権仲介業者のウェブサイトには各ゴルフ場のニュースが整理されているが、黒転の要因を求めてニュースを辿ると、08年5月から年会費を5.3万円から8.4万円に3万円ほど上げた様だ。正会員は1,422名、平日会員は171名居るから、大体45百万円は増収効果があったことになる。また、年会費を上げると、ゴルフに行く人は、元を取る為にゴルフ場に行く数が増えるし(会員の方が非会員よりも料金が安いからである)、ゴルフに余り行かない人はペイしないので会員権を市場で手放すインセンティブが働く。ゴルフ場は、市場で会員権を買って、新たな会員となった人からは、「名義変更料」を徴収できるから(入会金みたいな趣旨の手数料である)、これも増収効果を生む。京葉カントリー倶楽部の名義変更料は157万円なので、全体の2-3%の会員、例えば30人が会員権を手放すだけで更に45百万円の収入が生まれることになる。この合わせ技で赤字が埋まったのだろう。
以前プレー日記のエントリを書いた浜野ゴルフ倶楽部も興味深い。売上7.6億/利益0.5億位で安定した業績である。京葉と浜野は同じ18Hだが、浜野の方が売上規模に劣る一方、距離が長く建物も大きいので、人手もメンテナンスコストも大きそうなのに利益が出ている。底地に占める自社保有地の割合が高く、コストの中の借地料が小さいのかもしれない。実際、浜野の民事再生の時のニュースを追うと、浜野の土地建物に200億の根抵当権を元親会社が付したという記事があるし、327億円のアセットがあるという判決も出ているので、相当部分を自社で持っているのだろう。浜野は民事再生の時に、預託金を83%カットの更に80%カットで原債務の3%にまで圧縮しているから、ほぼ無借金会社と考えられ、また仕組み的に普通のゴルフ場の様な預託金会員では無く、株主会員(会員はゴルフ場の株主となる)であるから、浜野の会員は、300億の土地資産を持つ会社の株主になることになる。会員数は1200名だからブックバリューは2500万、今の相場だとPrice to Bookは0.13倍の投資である。同じ構造で会員一人あたりの解散価値が6億という噂の小金井カントリー倶楽部には及ばないし、解散する可能性もゼロだと思うが、投資のダウンサイドプロテクションとしては面白い構造である。また、財務のメンバーライフへのインサイトとしては、単年度PLが黒字の意味合いは大きく、年会費が上がったりするリスクは低いし、上がった結果会員の出入りが増えて雰囲気が壊れることを心配する必要も無い。経営としては安心できるコース事例だと思う。
次は大洗である。茨城の大洗ゴルフ倶楽部は、誰でも知る超名門コースであり、設計者は浜野と同じ井上誠一で、ゴルフ場ランキングでは日本で10指の常連である。ここは大洗海岸の防砂林の中に位置するからには底地は自治体の筈であり、バランスシートの左側には見るべきものは無さそうだ。そうすると、赤字資金を土地担保で借りるというバッファーが無いから、経営の安定性の視点からは、より単年度PLが重要になるが、売上高は8億台の後半から9億と立派な数字だが、利益は年によって黒赤を行き来している。建物の減価償却年数は長いから、クラブハウスの減価償却費は依然として残っている筈であり、おそらく償却後利益が赤字でもキャッシュは出ているとは想像する。また、大洗は会員数が1,675名と比較的多く、年会費も3万円台と名門コースの中では安いので、仮に不況が深刻化して赤字基調が続くようになったら、京葉の様に、まずは年会費上げというのは打ちやすい手になりそうだ。既に年会費を上げきって収益ギリギリというゴルフ場よりは、打ち手の余地があることは良いことである。余談ではあるが、上記の浜野が仮に300億の資産で利益が0.5億で正しいとすると、ゴルフ場ビジネスというのはROAが16bpsという恐るべき低収益ビジネスである。ただ逆説的には、利益規模が小さいが故に、100-200万円という設定が多い名義変更料をかき集め、年会費を多少上げれば黒字化が図れるレベルのビジネスなのは、経営者にとってみれば一つの救いであろう。
最後に、同じく井上誠一設計の鶴舞カントリー倶楽部。ここの運営会社は房総興発という会社であり、2005年東急不動産が三井物産から株を買い取っている。ここは株主会員では無く預託金会員であり、会員は房総興発に対する預託金返還請求権(つまり貸した金返せと言える権利)を持つことになる。この会社は直近のPLの開示が無いが、数年前の収入ソースの比率は判り、これはこれで面白い。それによれば、大凡3分の2がプレイフィーであり、残りは食堂売店の物販と、名義変更や年会費等の手数料系で、やや前者の比率が高い。全体の20%弱が食堂売店というのはイメージと比べてどうだろう。僕は比率高いなと思ったし、そこまで物販に依存しているからこそ、日本のゴルフ場は飯を食わずに帰る不届きものが出るスループレイをやらないのだろうな、と納得した。また、独占的な競争条件下で価格設定が出来て、入場者が予め読めるから廃棄ロスが少なく、かつ地代家賃がサンクコストな食堂運営は儲かるに決まっていて、そうでない普通のレストランの利益率からしても、20-30%の利潤が取れているのでは無かろうか。仮に25%の利益率だとして、ゴルフ場収入の20%が食堂だとすると、全体のゴルフ場収入の5%が利益として食堂から上がってくる計算であり、ゴルフ場の売上高利益率は5%も無く、損益分岐点を彷徨う会社も少なくないから、食堂を利用しないプレイヤーはゴルフ場にとって赤字客ということになる。
さて、お金の話は尽きないが、会員になるにはコースの善し悪しの方が当然重要であって、お金の話は、その後損しそうかどうかの単なる留意事項みたいなもんである。総武カントリーや川奈、タイのチェンマイハイランド等のフェアウェイは広いけど、グリーン周りを砲台グリーンとハザードで締めたコースの面白さを知ると、単調なコースをホームコースにする気は起きなくなる。かと言って適度に難しく、かつ投資面で不安のないコースなんてなかなか無い。例えばきみさらずゴルフリンクスとかは、コースはマゾ系で面白いと思うけど、プレー権会員だから法的な権利は株主会員と比べたら段違いに小さく、親会社の方向性の影響も含めて運営面では不安が残る。また新規で300万円弱という価格だが、それで売れていないということは実勢相場はもう少し下ということになるし、会員権の流通が始まると、その相場から更に名義変更料分が減額されたのが流通価格になるだろうから、下手すると100万円以上の含み損をいきなり抱える可能性があって流石に躊躇する。暖かくなってシーズンインすると全般に相場は上ってくるだろうから、買い時は今だと思うんだけど、今ひとつ有力候補を複数検討したからもう十分、これで決めよう、という気分になって来ない。掘り出し物、出てくるんだろうか。