プリンタ買ってトナーで収奪される

日常風景 身につけるもの

　日差しが強くなるにつれて、左頬の上にシミが出来た。色黒なので、シミは初めてである。会社の女子には「肝班?」と聞かれたので、眼科に行くことを薦めておいた。肝班は女性特有のものであり、僕は男である。出来たシミにはレーザーとか何とかで治療するとして、これ以上増やさないのが重要である。なので、UVブロック機能がある美容液を選ぶことにした。昔は単体日焼け止めを使っていたけど、面倒でいつしか使わなくなったので、日常のルーチンに入れてしまおうという魂胆だ。
　知り合いのメークさんに聞いたら、ハイビジョン対応でえらいファンデのテクスチャーが細かくなり、それと共に、日焼け成分のテクスチャーも細かくなったらしい。このプロの世界の技術開発が2年位から市販製品にも応用されて、全般にテクスチャーは細かくなっているらしいが、言うまでも無く僕にはハイビジョン対応は必要ない。また、そもそも敏感肌で余り細かくされて詰まると肌が荒れそうだし、落とすのに同じブランドの特製メーク落とし1万円が必要とか、前回も書いたけどプリンタ安く売ってトナーで儲ける方式に引っ掛かるのも癪に障る。なので余りハイビジョン対応になってなさそうな海外ものを探すことにした。
　化粧水と美容液は、同じブランドで合わせるのが基本だけど、今使っているのはLa Prairie(ラ･プレリー)という海外もんである。1年と少し前、リーマンショックの後、ベネズエラとキューバという反米諸国を旅行した後、宴の後を見にケイマン諸島に行った。仕事で自分が山ほど作ったペーパーカンパニーがほんとに登記上の住所に有るかどうかを興味本位に見てみたかったのもある。よく考えると、ペーパーカンパニーを実際に作ったのは僕では無く弁護士なのだが、それを言うなら有りとあらゆる寺社仏閣の建立者は宮大工で、日本史の問題はえらい簡単になるであろう。いや、そんな子供みたいな話をしたい訳では無かった。
　ケイマンは観光としてはつまんない島だったので、ホテルの中で過ごす時間が増えることになる。僕はリッツ･カールトンに泊まっていたが、そこにシルバーレイン･スパというスパがあり、おー米国の大手ファンドのシルバーレイクはスパまで持っているのか、と勘違いして入ってみた。入ってみると、レイクとレインは水くらいしか共通点が無く、別物であることがすぐ判明し、経営はLa Prairieだった。それ程高価でも無い。しかし、海からの贈り物が実現する真のピュリフィケーションが根本から肌を変えるとか、何とかという、どこのスパに行っても無意味の極地の文章がひねられているメニューの解説は変わらないので、そこから苦労してメニューを選ぶと、アングロ･サクソンのオバさんが登場して、もみくちゃにされることになった。アングロ･サクソンの女は、肌の産毛の処理をしている率が高いので、他の白人とそこでも見分けられる。それで、意外とこのもみくちゃが気分良く、そこで「あなたの肌質には、この化粧水と美容液がベストフィットよ」と、経営母体のLa Prairieの商品を薦められたので、気分良さついでに、うっかり買ったのがLa Prairieを使い出すきっかけである。勿論定価なので確か3点で5万円オーバーだった。見事にプリンタ安く売ってトナーで儲ける方式に引っ掛かったということだ。
Magic
[NIKON D90 /AiAF 85mm F1.4D]
　帰国して、コスメ情報サイトで、Advanced Marine Biologyという、この商品を検索してみると、ヒリヒリ浸みるとか、面の皮厚い人用とか、ボロっかすに書かれていたが、意外でも無く、僕には割とフィットした。大学時代から、化粧水はドクターコスメの走りみたいなアクセーヌじゃないと、ニキビ続出な位敏感肌だったのに、初日から肌は荒れなかった。まさに、面の皮厚い人用というユーザーコメントは適切だったのかもしれない。また、香りも強いと書かれていたが、何というか、「すげー高そうな女の匂い」がする。パンプスはクリスチャン･ルブタン、ブラウスはエミリオ･プッチで、「破綻無くそれ着れちゃってスゴい」みたいな女のイメージである。理由は無いが、何故かこの匂いは、自分の中の野生、特に肉食の習いを呼び覚ます様な感じがして、気分はニューご機嫌マルチだ。そんな訳で、高い女の匂いを続けるべく、基本に忠実に、化粧水と同じLa PrairieのAdvanced Marine Biologyシリーズで、UVカット機能があるデイクリームなるものを買ってみることにした。化粧水の評判はボロっかすだったが、こっちのデイクリームは比較的評判が良いので、ちょっと期待している。総括するなら、2個目のトナーを買ったということである。
　最後に、ケイマンで化粧水と美容液を買ってきて、何かファイナル･ファンタジーでポーションを手に入れた様な心持ちになったので、付けて暫くした後、会社の女子に、何か変わったかどうか聞いてみたが、見た目も香りも何も変わっていないとのことであった。その子がファンデ変えた当日にはリキッドからパウダーにしただろと、適切に余計なご指摘を申し上げた経緯も有ったが、今回は眼科に行けとは言えなかった。