D7000は、ミラーレス一眼へのニコンの回答である。

 前エントリ通りのスペックでD7000は今日13時にリリースされる様だ。発売開始は14万。こなれてくれば10万前後の機種にしては、モンスタースペックである。いま、SONYのNEXや、Panasonic/オリンパスのMicro 43rsの機種など、一眼レフからレフレックスミラーを取り除いた、ミラーレス一眼が売れているが、ニコンのこのミラーレス一眼に対する回答の一つは、ミラー有りの一眼レフのスペックを究極に上げることで、ミラーの存在ゆえの差別性を高めることなのだろう。そして、おそらくニコンも近い内にミラーレス一眼を出すことが、特許の状況から確実視されるが、それがもう一つの回答になる。

  • D7000は見返り美人というか、バックシャン(思い出したのが奇跡に近い死語。わてほんまによいわんわ。)だと思う。

 一眼レフに詳しくない人に簡単に解説すると、一眼レフはレンズから入った光をカメラボディ内部のレフレックスミラーという反射鏡で反射し、光学ファインダーとAFセンサーに導く構造になっている。そして、シャッターを押すとそのミラーが畳まれて、レンズの真後ろにある撮像センサーなりフィルムなりに光が導かれて、絵が映る。最近のミラーレス一眼は、文字通りミラーが無いので、最初から撮像センサーに光がダイレクトにレンズから当たっている。従って、このタイプのカメラを一眼「レフ」というのは間違いだ。なので、メーカーも「一眼」とかいう新しい用語をこのタイプのカメラのマーケティングに用いている。
 ミラーレス一眼のAFは、一眼レフの様に別立てのAFセンサーでは無く、コンデジやデジタルビデオカメラと同様に、レンズのピントを動かしながら、センサーに映った絵のコントラストが最大化された所がジャスピンであるという、画像処理の計算ロジックで行われる。今のところ、レフレックスミラーがあるクラシカルな一眼レフの方が独自センサーを持つだけにAFは圧倒的に速いし、ミラーレス一眼は動体だとコントラストが上手く追えず、ピンが来ないことも多い。ただ、一方でミラーレス一眼はレフレックスミラーや光学ファインダーを省けるので、小型かつ軽量化が可能である。よろず物事にはトレードオフがあるが、カメラの世界も例外では無い。
 デジタル技術、画像処理技術の進歩は急速であって、これは基本的にミラーレス一眼に有利に働いている。一眼レフは、レフレックスミラーや光学ファインダーといったアナログな機器が性能向上のキーデバイスであり、速度や精度など性能向上の余地に自ずと限界があるし、コストも性能に逓増するが、ミラーレス一眼は、画像コントラストの計算ロジックの進歩で速度や精度が上がるから、速くて省電力なチップやソフトウェアの開発が追い風となるし、チップにはムーアの法則が働いて、性能比でのコストは時間軸上で逓減する。また、ミラーレス一眼の仕組はレンズが交換できて、センサーサイズが大きいという以外は、巨大マーケットであるコンデジと同じだから、コンデジの技術革新がフィードバックされるという点も大きい。そうは言っても、業務用のデジタルビデオカメラの世界もシビアなピントは、未だにマニュアルフォーカスで撮られているから、画像処理ロジックがどんなに進歩しても、動き物への対応には限界が有って、そこはミラー有りと無しの差は残ると思うが、差の絶対値は確実に縮まるだろう。
 従って、軽量モデルやエントリーの安価なモデルはおそらく今後、ミラーレス一眼が主流になっていくと予想する。そして、プロ向けモデルだけが一眼「レフ」で有り続けるのか、それとも中級者モデルも一眼レフで残るのかは、レフレックスミラーとそれに付随するAFの速度や精度、及び光学ファインダーの見え味の付加価値次第である。その意味で、このD7000というレフレックスミラーを備えたモンスター中級機は、ミラーレス一眼勢に対してニコンが築いた強力な防波堤で有って、10万以上の価格帯のカメラ市場は渡さないぞ、という強い決意が見て取れる。それだけ、既存のゲームを根本から覆しかねないミラーレス一眼勢を怖れているのだろう。もはや、ニコンの主敵はキャノンでなくて、ミラーレス一眼という事である。
 今のニコンの戦術は、安価な代替技術に対して、既存の技術に磨きをかけて差を広げる様な機種を出し、かつ代替技術も採用した機種も出して保険を掛ける、という二正面作戦である。かつて、フィルムからデジタルに移行する時も、ニコンは2004年にF6というフィルム最後の高級機を出しつつ、同時にデジタルでD2Xというプロ向け機種を出すという二正面作戦で、そこは上手く対処した。デジタル一眼レフでもフィルム一眼レフ時代のレンズをそのまま使えるから、顧客は過去買ったレンズを無駄にしたく無い為、フィルム時代と同じメーカーをデジタルでも選ぶインセンティブがあった。そこにニコンは、タイムリーにデジタル一眼レフを出せた為に生き残れた。ミノルタは、フィルム時代に一眼レフ時代にニコンと2位を争い、むしろ優勢であったが、デジタルへの対応が数年遅れた為に、その後僅かの期間でカメラ市場から撤退することになった。ここでの明暗を分けたのは僅か2-3年の時間であった。
 さて、今回はミラーの有無を巡る争いだが、どうなるだろうか。ミラーレス一眼は、これまでリリースしたSONYPanasonicオリンパスの各社とも、一眼レフ時代のレンズマウント(カメラボディとレンズを装着する形式である)を捨てて新マウントを採用した。新マウントになると、過去自社顧客が購入したレンズとの繋がりが、互換アダプタはあるにせよ、一旦切れてしまう。ニコンは、1959年から「不変のFマウント」という事で、50年の余に渡ってレンズマウントを変えておらず、ペンタックスと並んで、オールドレンズが制限はありながらも現行機種で使えるメーカーの一つである。これ故に、デジタル一眼レフでもフィルム時代やマニュアルフォーカス時代のレンズが使えるのである。このFマウントへの拘りが、ニコンファンを支えてきたのだが、もし何らかの工夫でFマウントのままミラーレスになったら、それは拍手喝采だろう。ただ、新マウントが遂に出たとしても、Fマウントの仕様に古臭さは否めなかったから、やむを得ない措置だ。しかし、その場合においては、顧客が持つFマウントの膨大なレンズ資産という、デジタル化移行時にはニコンを守った鉄壁の盾が、さほどミラーレス一眼の市場では期待できないという事である。そして、ニコンがD7000をモンスター機種として企画した背景は、ミラーレス一眼への恐怖だろうとは上に書いたとおりである。敵は強力で、鉄壁の盾は期待できないのだ。なのに、未だにニコンが「もう一つの回答」となるミラーレス一眼を出せていないのは、やはり新しいコントラストAF方式とか、キーコンポーネントの一部を自社で持っていないからだろう。開発が追いつくのか、市場に置いていかれるのか、近い内に時間の分水嶺が来るであろうし、ニコンミノルタを明暗を分けたのはまさにその時間なのである。

  • ニーニーと呼ばれる、200mm f/2もリニューアル。大迫力で所有欲をくすぐるが、驚く無かれ定価86万円。手持ちの180mm/f2.8にAF速度以外の不満無いしなぁ・・。