スーパーサラリーマン増加の件

 前のエントリ「若者とシニアは安い職を争うが、一旦働けば若者は優遇される。」の書き物をしてる時、数字を拾っていて面白いことが判った。前の論旨とは若干外れるので、一緒には書かなかったが、給与所得者の中の富裕層を調べると、これが二極化というか二層分化している事が見て取れるのである。
 まず、給与所得が1500万円以上の層を1500-2000万円、2000-2500万円、2500万円以上と3つに分けて、それぞれの平均給与を見てみると、前の二つが概念的に殆ど変化しないのは当然だが、2500万円以上の層の平均給与はこの13年上昇基調にある。正確に言うと、1998年あたりを境目に上昇基調を描いている。
○階層別平均年収

  • 出典:国税庁・民間給与実態統計調査

 そして、この3つの階層の総数と構成比だが、総数は1999-2000年前後と2007年に2つのピークを付けたが、概ね50-60万人の間で推移している。一方、構成比を見ると、この3つの中で一番数が多い1500-2000万円の層が減り、2500万円以上は一貫して増えている。つまり、給与を2500万円以上貰うスーパーサラリーマンの数が増えていて、その平均所得も増えているのである。
○収入階層別構成比

  • 出典:国税庁・民間給与実態統計調査

 これは何を示すのであろうか。調査は国税庁の給与所得者の調査だから、土地持ちがどうという話でなくて、サラリーマンの話である。2500万円以上の層が90年代後半から増えているのは、おそらくプロフェッショナルファーム的職場が増えているからであろう。投資銀行とか、コンサルティングファームとか、渉外弁護士とか、各種投資運用業等が思い浮かぶ。90年代から比べて、そういう腕一本、雇用の保証無し、18時間労働上等、みたいな層が3-5万人も増えるのかと言われると若干の疑問はあるが、増加にかなりの貢献をしているのは想像に難くない。後は、大企業の経営者の給与所得に、欧米の水準とのコンバージェンスが起きて、経営者の給与が上昇している会社が結構ある事も要因としてはあるだろう。これは、経営者というのが従業員ムラ代表から、欧米並みに一つのプロフェッションとして「投資家から」再評価されないと正当化され得ないから、ある種のプロフェッショナルファーム的職場の増加と言えなくも無い。
 一方の1500-2000万円の層の顕著な減少は何が要因だろうか。前のエントリで指摘したとおり、給料の高いシニア層が退職する一方、その次世代の給与はそこまで上がらなかった、という事は要因としてあるだろう。また、年収1500万円というと、大手銀行の90年代で言えばざっくり次課長以上という感じだが、これが業績悪化に伴って、特に公的資金導入行で2000年以降大幅に給与が下がったのも一因だと思われる。銀行に限らず、生損保や証券会社もリストラや統合に伴って管理職のポストが減ったり、その報酬が減ったりというのが業界全体で見れば発生していた。商社もかつて五大の次は八大商社と呼ばれていたのが完全に二極化したのもこの時期だった。また、社内格差の拡大によって、2005年以降の景気回復局面においても、これらの業界において、その恩恵に浴したのは一部だったというのも要因としてあるかもしれない。以前、このエントリで紹介した通り、
○2010-04-20/経産省編「日本の産業を巡る現状と課題」について

日本企業の労働分配率は世界的に見ても高い方だから、企業がもっと儲からないと、むしろサラリーマンにはアゲンスト方向でのコンバージェンス圧力が今後も働きやすい。よって、企業一般にはなかなか以前の様には1500万円の給与を社員に払えないだろう。
 こういった流れをざっくり言えば、シニア層の退職に加え、日本の高所得ビジネスマンが「そこそこ給料が高い業界の管理職全般」といった旧来の姿から、社内生き残り組とプロフェッショナルファーム組に分かれてきたという二点が、この現象の背景ということである。
 最後に男女比を見てみよう。これは2500万円以上の給与所得を得ている人の年次推移である。
○年収2500万円以上の男女比

  • 出典:国税庁・民間給与実態統計調査

 概ね、男性と女性の数は一桁違う。そしてその比は縮まっておらず、ほぼ連動して増加している。皮膚感覚的には女性の比率が上がっている様な気がしていたが、事実は異なっている。20世紀には珍しかった女性の営業が、最近では至極当たり前になっているけれども、こと管理職とか激務のプロフェッショナルファームとかだと、出産の関係もあるし、環境や理解もイマイチという事で、まだまだ男女比が縮まる結果は出ていない様だ。