麻布十番祭り考

 この週末は住処の麻布十番が、曰く納涼まつりなるお祭りであった。代官山に住んでた頃は、近隣の恵比寿も代官山もお祭りがしょぼかったが、麻布十番は歴史ある下町であって、中身は最早あんまりその歴史とは関係ないが、商店街のお祭りにしてはとにかくすごい人出である。これまで、大体8月20日前後の夏も終わりだな、という日程でやっていたが、今年はこの東京の夏休みのトリを飾る週末だった。
 田舎から出てくると、祭りと言えば、山車や屋台が出たり、浜松の様に喧嘩凧揚げ合戦があったり、何かメーンイベントみたいなものがある感覚があるのだが、麻布十番祭りは、広場で何かやってたり、昔は公園でお化け屋敷やってたりはしたが、麻布十番祭りの9割は露店で出来ていると言ってもいいほど、露店の比重が高い。露店と言っても、今年はプロの露天商たるテキ屋を締め出したので、麻布十番にうじゃうじゃある飲食店が出す露店と、「おらが国自慢」と銘打つ日本各地のうまいもの所からのアンテナショップ的な露店のみで構成される。この露店が延々と立ち並び、そこに動けない位人がたかってるのが、麻布十番祭りの風景である。
 そもそも、麻布十番てのは、衣食住に関する商業では、圧倒的に食の比重が高い街である。建物的にはさしたる高層ビルや大型再開発が無い、低層ビルが立ち並んだ、どこにでもある街だが、その割にそこそこのレストランが揃っている。でも、その食の充実度に比して、こじゃれた服やインテリアの店は殆ど無い。代官山は、そこそこのレストランも多かったが、むしろ街としては服とかインテリアとかのファッションの要素が強かった。表参道も然り。そんな食しか無い麻布十番で、やたら露店が並ぶ祭りをやる。しかも、どこのデパートの物産展よりも充実していると思われる、日本各地からの出店付きである。これは、「納涼まつり」じゃなくて、「麻布十番食べもん祭り」とでも銘打った方が、実態を表す上でも、アピール上も良いのではなかろうか。少なくとも、北海道の黒歴史である、「世界・食の祭典(1988)」よりは食の祭典としての幅も規模もあるだろう。そして、2016年に古川の広場の工事が終わって、港区の各国大使館の出し物が復活すれば、海外の食文化も、日本のローカルな食文化も、東京のそれなりのレベルの現代食文化も揃う、名実共に日本最大の食のお祭りを目指せるのでは無かろうか。僕は、頑張ればそれ位行けるコンテンツだと思うのだが、主催は単なる一商店街という事で、あまりギラギラした広告代理店的野心が無いのが、また良さなのかもしれない。
 さて、この土日は両日とも夕方以降は家に居たので、馴染みの店が出してる露店に「よっ大将やってるかい?」的な挨拶がてら、ぶらぶら歩いてみた。iPhone4のカメラなのでちと写りはイマイチだが、以降食べ物の紹介である。

 まず感心したのは、このバルレストランテ・ミヤカワのパスタパエージャ。スペイン語ではフィデウアという、カタルーニャバレンシアの料理である。これがスープもパスタも旨くて、良く出来たアクアパッツァの濃厚な出汁で絡めた様な奥行きのある味だった。しかし、座って食べて飲むと1万円では済まないお店が、露店に巨大なパエリア鍋出して汗だくで料理作ってる図は何となく可笑しい。

 ついで、包丁人三郎の和風冷麺。ちゃんと注文受けてから厨房で調理していたらしく、出てくるまで時間がかかったが、濃厚な胡麻ダレと香菜が麺に絡みあって流石の味だった。この2つは、まぁ普段から美味しいお店が、普通に料理作って出したら、露店と言えど、そりゃ美味しいよね、という感じだった。今年からテキ屋を締めだして、商店街のお祭りに回帰したのは正解だと思う。調子に乗って、かどわきはやってないかしらん、と思って行ってみたが、さすがにここまでアップスケールのお店になると露店はやってなかった。残念。そういう意味では、同じミシュラン二つ星なのに大きな露店出してる富麗華は、無用なリスク取りすぎでは無いかと思うが、とりあえずエラい。

 「おらが国自慢」エリアに移って、福井県大野市の里芋串。上庄のさといもという、煮ても煮崩れしない固い里芋で、一旦煮た後に焼いている。これが外はパリッと、中はぬめっとでやたら美味しかった。少し前に高原地方産で、生で食べれる甘いトウモロコシが流行ったが、まだまだ知らないものが日本には沢山ある様だ。だが、日本のこういう素材のPRは、素材感が強すぎるんだよな。刺身の与える副作用だと思うが、人は普通料理を食べるのであって、素材を食べる訳では無い。最後、料理になった時に、どういう革新が有るのか、そこをもうちっと判ると、指名買いも増えるのでは無かろうか。

 写真が文字通り炎の料理人になっているが、蒜山焼きそばジンギスカンのタレみたいなのを最後にひと煮込みする実に濃厚な代物だ。昨年のB-1グランプリを取った食べ物で、一度食べてみたかったが、やっぱり美味しかった。B-1系には色んな食べ物が出ているが、グランプリ取るには、これ位濃くてパンチ力有った方が有利である。個人的には、上の里芋で書いた事と同じで、地場のしょっつるを使った、上品な味の男鹿の焼きそばの方が、素材と料理のローカルさにおける関係性は完成されていると思うけど。

 何となく地元という事で浜松の露店。「百姓のチカラ」らしいが、正直浜松は東海地域の大都市に有りがちな、スプロールする低層住宅の町であって、海沿いと山沿いで玉葱とみかん位しか百姓の存在の痕跡を見た事が無い。出世の街っちゅうのは、徳川家康岡崎城からここに移って、駿府城江戸城と移動するまでの中堅時代17年を過ごしたこと、及び江戸時代の歴代浜松城主25名から、老中が5人出たことから、最近はこれを地域マーケティングで使っているらしい。

 スイーツ部門では、まず今年の1月に国内10店舗目のサダハル・アオキがひっそりと麻布十番にオープンしたが、何とこの祭り限定のマカロンアイスである。いつもは隅々まで高級感行き届いたサダハル・アオキが、こういう超手作り感溢れるPOPで露店出してるのが面白い。ラズベリー食べたが、しゃりっとした食感も面白く、冷やしもありですな、マカロン。もちろん、ホカロンには冷やしは有り得ない。

 ブツの写真では無いのがなんだが、徳島から和三盆糖のかき氷。まぁ言ったら単なる砂糖ではあるのだが、ホワイトシロップとは全然違う、オトナな味に変貌するのが面白い。和三盆、お菓子や料理に使う為に溶かしちゃうと、不純物が多い砂糖に過ぎず、高級岩塩と同じで、素材が高いからどうなのかが判らなくなってしまいがちだが、砂糖の味を楽しむ手立てとして、かき氷というのは上手いパッケージだと感じる。

 最後に、パティスリー・ル・ポミエがお祭り限定で出してた青りんごスムージー。ポミエは確か林檎の木という意味だったから、それで青りんごなのかは知らないが、これはシャーベットの冷たさと、りんごの果肉に甘さが、相当上手い具合に絡みあって、ひじょーに印象深い一品だった。気に入って、冷たいもの余り得意でないのに、お代わりしてしまった。うむ、今日は人生でスムージーをお代わりした初めての記念すべき日である。8/26はスムージーお代わり記念日として、長く記憶にとどめられることであろう。

[NIKON Coolpix P300 /換算100mm F5.5]

  • あったり前だけど、同じ小型BSIセンサーなのに、コンデジとスマホカメラは随分差がある。レンズの差なんだろうけどさ。