全電源喪失事故。 日本 1-3 メキシコ

パワープレイの記憶

 これを読む方は試合を見た方だと思うので試合展開は省かせて頂く。結果は既報の通りであるが、とにかく負けている時にどうするか、というシミュレーションが、なでしこの相手だったフランスと比べても圧倒的に劣っていた感が否めず。実力が拮抗した相手、或いは上回る相手なら、高い確率で終盤ビハインドを抱える筈だが、日本の代表レベルが、弱者の戦術であるパワープレイを、きっちりとした形で実行したのを見た記憶に乏しい。今回も同じ。フランス女子代表が、結果的に1点しか入らなかったにせよ、点が入りそうな雰囲気は醸し出した見事なパワープレイを最後数十分見せたのに対し、日本は全く1点を跳ね返せる感じがしなかった。

 ただ、点が入った後の交代そのものは、パワープレイを志向したものに見えた。

  • 26分 東OUT 杉本IN
  • 32分 清武OUT 宇佐美IN
  • 38分 扇原OUT 齋藤IN

こんな交代だったが、概ね1.5列目までのフィニッシャーを増やして、ビルドアップする面子、オシムの表現を借りれば「水を運ぶ人」を削っている。それそのものは負けている者としては自然だ。だが、結果としては、全くフィニッシャーにボールが届かず、中盤でモタモタしてる内にボールを奪われ、むしろショートカウンターを何度も喰らう結果になってしまった。布陣は正しかったが、戦術が行き届いていなかったという事だ。

清武が抜けた時

 理由は単純で、水を運ぶ人を削ったのに、削る前と同じ様に水を運ぼうとしていたからだ。薄くなったMFにボールを預けて、前に出せるスペースを探す内に囲まれてボールを取られる事の繰り返し。如何に清武のビルドアップ能力が凄いかという事を図らずも証明してしまったが、清武が抜けた後の日本は全くビルドアップが出来なくなってしまった。それもこれも、人数がMFに揃ってた後半26分迄でもさほど成功していなかったやり方に、人数減らした後も固執してたらワークする筈が無いという事である。
 負けてる時のパワープレイは、こういう時、フリーの選手が居なくても、強引に前に放り込んで、そこからの混乱に期待する。放り込んで、そこに選手が殺到し、DFは放り込むと同時にリスク取ってラインを上げ、コンパクトにして選手の密度を上げ、セカンドボールを拾いやすくして、波状攻撃を行う。そういう、いわゆる負けているチームが普通に行っている事が全く出来ていなかった。そんな事は流石に無いだろうと思うが、負けている時にどうするのかを、大きなテーマとして練習していなかったのでは無いか、という感すら抱く。全電源喪失事故は想定していないので、対応策も無い、みたいな。3バックのトルコの右サイドが弱いと見るや、突然、練習していないアレックスを左のFW起用した布陣をノックアウトラウンドに入って採用した監督がかつて居たが、狙いは良し、ただ有りそうな展開に対応した練習はどれ位行ったのか、という疑問である。

メキシコサイドの事情

 メキシコは昔から個人技より戦術のチームで、余りヨーロッパでプレーする選手は多くなく、国内リーグ主体の選手による高い戦術共有度をベースに、堅守速攻を旨とするのが伝統である。10年前のアルゼンチンから個人技のキレを取った感じであろうか。その守りは、五輪代表においてもやはり堅く、バックライン4人はバランスが取れてて、余り上がって来ず、守る時はきっちり1人だけ残して9人で守る。FWも二列目も勿論守備をする。要は日本と同じ守備体制なのである。だから、お互い前半から余りスペースが無く、攻撃の時はお互いゆっくりとボールを持たされる展開であった。そんな相手なので、守備的MFやDFが低い位置から永井の足に期待してスペースに出そうとしても、そのスペースは殆ど塞がれており、相手にボールを返す結果にしか成らなかった。ここは、メキシコが永井の足をよく知っていて、ラインを深めにして、クロスの出し所にプレスを掛ける、という単純な事を徹底していらからだし、日本は永井でこれまで成功してきたから、そのパターンについ拠ってしまった、という事だろう。

イニエスタが素晴らしいのか戦術が素晴らしいのか

 日本はこれまで、スペインにしろエジプトにしろ、前に出てポゼッションする相手に対して成功してきた事もあって、ボール持たされてスペース消された時の戦い方は、サイドの崩しなんかは見るべきものも有ったが、全般には余り成熟していなかった様に思える。スペースがある時は、永井のような俊足プレイヤーの一発に分があるが、スペースが無い時は足元に優れる宇佐美や、高さに秀でる杉本の特徴が出る。その辺り、相手によってどういうサッカーをするべきか、そのバリエーションが試合開始の布陣においても、その後の展開においても、少し乏しかったかもしれない。宇佐美は守備の力が無いし、走らないから前線にスペースが生まれない選手なんだけど、こっちも9人で守って、遅攻同士の対決になるなら、ハイプレスからスペースに出すショートカウンター志向の速い展開を余り考える必要は無いので、こういう時こそ宇佐美みたいなエクストラキッカーの出番なんですわ。スペインやバルサは、そのポゼッションサッカーが素晴らしいのか、単にイニエスタとシャビが素晴らしいのか、という議論もあるが、バルサイニエスタの能力に拠ってビルドアップして、イニエスタを止めようと集まった敵の裏側のスペースを他のプレイヤーが使う、というパターンを得意としている様に、宇佐美がボール持って、そこから他のプレイヤーが動いてスペース作るサッカーだって今の五輪代表なら出来る筈。ただ、それにはボランチやトップ下との複雑な連携が必要だし、こういうサッカーするには、宇佐美の位置は、いつも少し高すぎる、というか4-2-3-1というフォーメーションそのものが、サイドに頼ったビルドアップに向いていないのだが、この辺りはボール持たされる展開を想定したバリエーションの問題なのかなと感じる。
 はてさて、次は急に見飽きた感のある三位決定戦だが、韓国は気合い入れて走ってくるだろうから、日本得意のショートカウンターが決まれば良いなと思う。お互いカウンター狙いだと、あんまり勝てるイメージが湧かない。ギグスとやり合う日本代表を見たかったな・・(ボソ)。