米国は二度死ぬか。

 朝起きて、日経を見たら、米大統領選特集だった。他国の選挙なんぞ、まともに見ていないので、この記事だけを見ての反応ではあるが、政府は小さくあるべきという考え方は、米国においてはある種の宗教なんだろうと思うし、こんな政策で我らが同盟国は大丈夫かしらんと、懸念で目が覚める様な内容だった。

この記事↓↓

小さな政府が即経済成長を呼ぶのでは無い

 米国は開拓者のお国柄か、本当に小さな政府が好きだし、オバマもそのコンセプトそのものは否定し難い様に見える。小さな政府の経済面における狙いは、減税によって企業と経営者と労働者の余剰を増やし、起業・労働インセンティブの向上と、貯蓄の増加による投資増を促すものだ。政府が使うより民間が消費した方が効率が良いという発想である。
 この狙いは成る程というものがあるが、実際の経済効果を見ると、小さな政府改革の代表例であるレーガノミクス以前と以後では、実は米国のGDP成長率は低下している。世銀のデータが1961年からあるが、レーガン以前と以降では実質成長率は概ね1%低下した。ただ、これには、人口動態など他の要素もあるので、決定的というより、まぁあんまり成果は出ていない様に見える、程度の話だと思うべきだろう。
 次いで、各国の成長率1980年から金融危機までを見ると、こんな感じだ。

確かに、米国の成長率は高めだ。但し、米国は先進国では珍しい人口増加国である事を加味する必要はある。そこんとこの不均一性が無い欧州で比べよう。レーガンと同じ時期にサッチャーが小さな政府へ舵を切った英国はどうかと言えば、英国の成長率も平均以上である。しかし、ノルウェーフィンランドなどの大きな政府の代表格である高負担高福祉国も、成長率で英国を上回る水準なのである。これからすると、少なくとも、政府が小さければOK、大きければダメ、という様な単純な話では無さそうだと思われる。
 そして、富の偏在を示すジニ係数の推移を見てみると、米国も英国も偏在度合いが上昇して、格差が広がる一方で、ノルウェーは直近の数字が無いが、数字がある所までは、徐々に格差が縮まっている様子が分かる。

 この2つを総合すると、先進国においては、小さな政府の国々は比較的成長率は高めだが、社会における格差の拡大を副産物としてもたらし、大きな政府の国々は成長率はまちまちだが、全般に格差は拡大していない、という様な傾向はあるように思える。こうなるとイシューは、小さいか大きいかより、どう大きい政府を運営して、格差の拡大を防ぎつつ、経済成長を実現させるか、という事では無かろうか。

企業や市場の活力が最優先なのか

 減税策や規制緩和は主に企業や市場の活力の回復を狙うものだ。しかし、米国にはAppleGoogleが足りないのでなく、AppleGoogleは十分に存在するが、その商品を買う人の余裕が足りない様に思える。民間部門のストック調整はまだ終わったとは言えず、これによって消費が盛り上がっていない。このタイミングでは、企業減税によって投資家還元余地や起業インセンティブを作るより、再分配政策を優先すべきでは無かろうか。高所得層への減税を廃止し、中・低所得層への減税は延長するオバマの案は正しい。貧しい人の消費性向は富裕層より高いから、貧しい人にお金が行き渡った方が経済全体への消費波及効果は大きい筈だ。

金融危機の総括は・・?

 そして、腰を抜かしたのが、両候補とも、どこにも金融危機の総括が無い事だ。元々コンテンツに無いのか、記者が入れてないだけかは判らないが、ロムニーに至っては金融規制改革を取りやめろと言っている様だ。金融危機は過去10年で最も大きかった出来事の一つだと思うし、米国では平時と比べて100万人単位で家を失う人が増え、金融危機前と比べると概ね500万人が追加で失業しているという多大な不幸を呼んでいるのに、これを二度と再発させない施策が見えないのはどうした事だろう。一回経験したので、賢くなって二度はやらない、で済んでるのだろうか。(なぜなら、日本は二回目をやらず、今回の金融危機はほぼ無傷だったから?)
 世には、ポーランドの様に、比較的自由主義的な経済政策を採りつつも、度を超えた信用創造を拒否して、うまく経済を運営していると聞く国もあるが、今回の金融危機は、小さな政府志向で規制緩和して市場の活力を重視した所、政府介入が後手に回って、バブル破裂に至ったという側面は否めまい。金融業界からしたら、オバマから悪者扱いされて規制が強まるのはタマらんという事でロムニー支持、ロムニーはその票と献金を意識して金融規制強化反対、というスタンスなんだろうが、本当に金融業界にとってもハッピーなのは、適切な規制の下に、二度と信用バブルが破裂しない経済運営が行われる事だと思うんだよね。あのバブル破裂で、ほんと何万人が金融業界から去り、残った人間もビビりながら心休まらない日々を送ったか、そして自社株で退職金を貰った老兵達の生活がどれだけ吹っ飛んだかを考えれば、寧ろ適切に規制をして下さい、お願いします、というのが正しい態度に思える。

日本へのインサイト

 そんなワケで、これでロムニーが勝とうものなら、米国は格差拡大による社会の不安定性の拡大、短期的な減税による大幅な財政赤字が起こり、そして3-4年して喉元過ぎれば、また信用バブルが起きかねない。オバマが勝っても、その度合いが小さくなるに過ぎなそうだ。何とも有り難い同盟国であるが、日本はそれを見越して備えるしか無い。米国に、そびえ立つクソみたいな財政赤字が積み上がれば、トモダチなんて言ってくれる余裕も無くなり、尖閣は自力で守らなければいけない。その為には、フィリピン以外の近隣国全てと領土問題を抱えてるのはイマイチで、ロシアとは二島なのか三島なのかで妥協して、さっさと握手してしまった方がベターに思える。国の西の端と東の端に戦力分散させるのはイマイチだし、基本ロシアは人口減少国で、中期的に大した脅威にはならんからね。また、米国債は結構危ないというか値下がりはしそうだ。政治的に外為特会が持つ米国債を売るのは難しいかもしれないが、ヘッジ手段は無い訳では無いだろう。そして、米国にまた信用バブルによる好景気が起きても、お付き合いする必要は全く無く、その後のアセットのバーゲンセールを待てば良いという事だ。

個人の在り方と社会の在り方

 最後に、ちょっとグダグダした話になるけれども、米国の、特に共和党的やり方って、ほんと「人間かく自立して成功すべき」っていう個人の在り方を、そのまま政策に展開している感じが拭えないのよね。僕も、個人の生き方に対して何か言うなら、甘えてないで自分で気合い入れて頑張れこの野郎、みたいなアドバイスもするだろうけど、政策となると、もうちっと困ったちゃんも許容できる社会がベターでは無かろうか。個人に就活どうしたらいいですか、と聞かれたら、インドでインターンでもしろ、というのはアリだが、社会全体として学生全員をインドにインターン行ってスキル付けないと就職も出来ん、というのはちと異常。就職出来ないとか、そういう結果を個人の自己責任に帰結して、脱落する人を救わない社会になると、脱落した人の恨み辛みによって、社会そのものが壊れていく様な気がするし、使い古された言葉ながら、最大多数の最大幸福というのは、やはり社会全体の安定に直結するのだと思う。営利組織である会社だって、「頑張ってる俺が、何で出来ないお前助けんの」みたいな発想が罷り通る組織は、あんまり継続的に儲かる感じしないでしょう。非営利である社会運営は更なりでは無かろうか。