白色矮星から変光星を臨む

 いや、みんなオーバーコンフィデンスなんです。自信過剰。最初から日本語で言えばいいのに、業界用語使いたがって恐縮です。デンスなんです、辺りが気持ち良かったんデンス。何かって言うと30代の体型。見渡せばマッチョとか細マッチョのアラフォーが居ますかと。居ないでしょう。居ても全知り合いの中で一人か二人。一方、そういうアラサーはと言えば、そら居ますわよ。でもね、絶滅するんです。この十年間で。
 みんな自分だけは違うと信じてトータルワークアウトとかに行くわけです。友人達はそれぞれ明確な目標と達成手段が与えられたら、それをほぼ達成してきた人生を歩んできてます。だから、ほぼダイエットとマッチョ化に一旦は成功します。ええ、それが続かないんです。
 友人達の中で特にディシプリン高く、かつナルシストで、ストイックな仕事ぶりで成功し、栄光の独身30代を迎えた一群の男が居ます。それが、おカネと地位に細マッチョの身体という全能の神みたいな存在になって超モテ期、みたいなインセンティブ付けまでされてるのに、維持出来ない。いわんや既婚者をや。やる気も適性もある人が、適切にインセンティブ付けされて出来ない事は、出来ないのでしょう。目標・達成手段・やる気・適性・インセンティブ全てが揃っても出来ない事がある。これは従来の人のマネジメントに深遠な疑問を投げかけます。でも、今日はその話をしたいんじゃないです。僕は、そもそもストイックでは無いし、勉強みたいな反復作業が生来嫌いでございます。MBAなんて勉強しに行く為に勉強するなんて二重の意味で出来んと思ってた位で。なので、自分はジムに行きません。
 でも、世の男は結構な割合でトータルワークアウト的場所に行くわけです。そしてそれをわざわざfacebookにチェックインしてアピールする。もしかしたら、長い間ダイエットされた身体を維持するのは目的では無いのかもしれないと最近思うようになりました。この賢い友人達が、出来ない事を目標にし続ける訳はありません。3ヶ月位集中的に頑張る自分、或いはその後須臾の間手に入れられる細く引き締まった身体。そしてそれに付随するごく短いモテ期。それらの、ある種の非日常が好き。あの女は料理じゃなくて、料理する自分が好きなんだと論評する彼ら自身がそうなってる罠。これらの男性は、仕事での男っぷりとは別に、この手の乙女心満載なので、女性は同性の友達を扱うように接すれば、イチコロの筈です。そんな面倒くさい代物を手に入れたいかは別として。
 そんな30代男なる生き物の生態は、いわば砂漠の花なんでしょう。砂の大地に何年かに一度の驟雨、その後一晩咲き乱れる花、どこからともなく現れ、花に群がり、花粉を媒介して命を繋ぐ小さな虫。それはまた直ぐに強烈な日差しによって砂の大地に戻ります。30代は砂の大地、彼らは砂漠の花、そして女達は小さな虫。儚くも美しい生態系でございます。でも、その生態系にはトータルワークアウトが、大輪の花を常に咲かせ続けております。
 そんな現実を目の当たりにして、僕は砂漠に浮かぶ蜃気楼の如き細マッチョを追い求めるより、モヤシでいいという選択をしました。一日1500kcalに抑え、昼夜どちらかはラクト・オボ・ベジタリアン 、つまり乳製品と卵は許容するベジという生活を5年の長きに亘って励行しています。ストイックなのはどっちだと。でも、何かをするより、何かをしない方が簡単なんです。ジムに行くのは面倒だけど、ご飯3分の1でと定食屋にお願いするのは僕でも出来る。ただ、モヤシはモテません。小太りの20代後半と思しき女性マッサージ師に、身体触られながら、「食べたい位、いい身体してますね」とねっとり言われたのが、この5年間唯一の思い出です。僕はその時俯せで寝かかって、手を使わずにヨダレ耐えなければいけないという、追い込まれた必殺の死地におりましたが。
 ではモヤシがお奨めなのかと。違います。モテないから、頑張る理由が見つからないのです。インセンティブの背景がない努力をする人は居ません。つまり、男30代は皆太るのです。ストイックでナルシストな人が、たまに引き締まる期間が観察されるだけで、基本太る。変光星かそうでないかの違いであって、星はみな赤色巨星になる様に。僕はどうやら白色矮星に向かっている様です。[敬称略]