あらためて村上氏の凄まじさを思う。

村上ファンドネタなので、上の記事に続けて一緒に書こうかと思ったが、余りに内容が違うので別の記事にする。
今日のblogを書いている途上で、ふと阪神のディールについてのファクトをおさらいしてみたのだが、この過程で村上ファンドが物凄い集中投資をしていた事に気が付いた。
村上ファンド阪神電鉄の平均取得単価は朝毎読3紙ともに700円弱と報道している。自分が関与した案件の報道を見ていると、朝毎読が報道しようと、日経が報道しようと、こういう決して表に出ない金額のメディアによる推測は、事実と懸け離れている事がままあるのだが、今回は他にソースも無いので、これを信じることにしよう。平均取得単価を700円として、村上ファンドは大体2億株を持っているので、ざっと1400億円を阪神に突っ込んでいる事になる。
これに対して、村上ファンドの運用資産は4000億程度である。実にファンドの35%が阪神株である。こんな一銘柄に集中投資している投資信託は存在しない。

"Don't Put All Your Eggs in One Basket"

と言われるが、投資の基本は分散投資だと初心者は習うし、バイアウトファンドも分散投資の観点で、一つの銘柄に投資できる上限が厳しく定められているのが通常だ。

ただ、一方でヘッジファンドと呼ばれる人々は、集中投資をする事が多いのも事実で、日本ではこの分野のvanguardと思われるスパークス・アセットマネジメントも「日本株集中投資」というスタイルを一つ特徴とし、ケンウッドやユニクロへの集中投資リターンを上げて名を馳せた。今はPENTAXに集中し、カメラから撤退せよと要求している模様である。海外に目を転じるとウォーレン=バフェットはその色が濃く、分散させるよりは、これと見込んだ銘柄に大きく張っている。代表例は言うまでも無く、ジレットやコカコーラ、AMEX等である。この集中投資に必須なのがボトムアップアプローチで、徹底した銘柄分析を行った上で、厚く張るのである。

それにしても、ファンド全体の3分の1を超える金額を張るというのは尋常では無い。この銘柄の成否にファンド全体のリターンが掛かってきてしまう規模である。こんな乾坤一擲の勝負に昭栄から今に至るまで彼は勝ち続けたから今の規模まで急成長したのだろうが、あらためて彼の凄まじさを思った。

この選択と集中の潔さにふと思い出したのが石田三成である。三成が近江水口4万石の城主になった時に、その内の1.5万石を割いて島左近を召抱えた(時期・禄高は諸説あり)。この時三成が左近に与えた領土は全体の37.5%に相当し、これは君臣禄を分かつと当時言われて、三成の徹底ぶりを物語るエピソードとして人口に膾炙している。三成は寺の小姓から秀吉に取り立てられた人物であるが、その後めきめきと頭角を現し、最後関が原で西軍を率いるまでになったのは周知の事実である。全然時代も内容も違う話では有るが、2つのエピソードからは、急な出世をするには凡庸な手段ではどう尽くしても無理という事が言えるのかも知れない。もちろん、何でも選択と集中をすれば、衆に勝るかと言われれば、THE ZURICH AXIOMSの言う通り、意味のある勝負をしなければならんのだが、村上さんと石田三成、見比べればなかなか示唆深い様に思う。