プロフェッショナルの中のリーダーシップ

昨日サッカー日本代表におけるリーダーシップの話を書いた。要は最後までファイトし、チームに対して貢献できる奴が自然にリーダーになるという事である。バイアウトの仕事も、直接日の丸を背負って戦う様な事は無いものの、自分の背中に何百人の人生、何百億のお金が懸かってきて、極限状態に追い込まれる瞬間がある。
再生企業への支援はその典型だ。自分が投資を決断すれば、破綻した企業の方は路頭に迷わずに済む。決断しなければ会社はこの世から消える。そんな時、うちを救ってくださいとシニアな方が僕の様な30歳の若造に頭を下げる時もある。思わず心を動かされる中、果たして本当に再生できるのか、自分のビジネスプランは正しいのか、自分の知恵を限界まで試す瞬間である。
敗戦処理の交渉もある。タイミングと条件を一歩間違えば、生涯収入の数十倍のお金が簡単に消し飛んだりする。それは投資先企業の屋台骨を簡単に揺るがすし、自社の今後のビジネスにも関わってくる。そんなシビれる交渉に、如何に平常心で、冷静に臨み、結果を出すか。これも知恵と胆力が問われる。
もちろん、通常投資先には取締役やそれに準ずる形で関与する為、従業員の方の人生を預かって、経営陣として会社を正しく導く責務もある。会社は常にうまくいく訳では無いし、一旦歯車が狂えば、最悪畳むか畳まないかという議論まで行き着く事もある。その時は、投資家としての理性と、経営者としての情熱と、単なる人間としての臆病・見栄との壮絶なせめぎ合いだ。
また、お互いが多忙な中で、自分の仕事の範囲を超えて、チーム・ファームに対して貢献するのも難しいことである。基本的に自分の役割期待を100%パフォームするので精一杯なので、そこから更に一段上の貢献をするのは物凄く大変なのだ。それが判っているからこそ、どんなに小さなサポートや気遣いでも受ければ忘れないし、いつか返したいと思う。
バイアウトファンドのメンバーは、個人個人がプロフェッショナルであり、腕一本を年棒に変えて食べていく商売ゆえ、お互いの仕事の実力は良く判るし、そこから生まれる自然な序列というのは存在する。この辺は業務の中身は懸け離れているが、同じプロフェッショナルたるサッカー選手も同様だろう。ただ、普段の実力は実力として、真の人間としての器・リーダーシップというものは、ギリギリの状態で初めて試されるものだ。バイアウトファンドの世界でも、極限状態において、最後までファイトし、周りをサポートできる奴が最後生き残ると僕は思うし、その姿勢の積み重ねの中で、着いて行く人が増え、組織のリーダーが自然と生まれてくるのであろう。

プロフェッショナルファームというのは普通の組織と、腕一本・年棒という個人のスキル・パフォーマンスをMark to marketする評価報酬制度と、プロフェッショナルは全員が基本的に同じ仕事をするという機能分化の少なさが大きな違いである。僕は、事業会社の経営に関わる中、色々な形のリーダーシップを見たが、普通の組織におけるリーダーシップには、組織で戦うがゆえに必ず組織をうまくまとめる力が要素として入ってくる様に思われる。プロフェッショナルファームでは、個人技の世界であるがゆえに、普通の組織とは違ったリーダーシップの源泉がある。僕はプロフェッショナルファームのリーダーシップとは、共通して上に書いたような、極限状態における姿勢から生まれるのでは無いかと思っている。